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第六章 明かされた出自と失われた時間

27話 彼に戻って来て貰う為の刃 ダート視点

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 カーティスさんの拘束を解いたレースから見た事の無い色の魔力が見える。
肉体強化に使う魔力が赤く沸騰しているように見える程の力の奔流に身が竦んでしまいそうになるけど、ここで動きを止めてしまったら彼の事を助ける事が出来ない。

「怪力を使われたね……、しかもこれはまずいかもしれない」
「まずいってカーティスさんどういう事ですか?」
「スノーホワイトの怪力はさっき言った通りに治癒術と併用する事でデメリットが無い状態で使えていたけど、彼は今身体を操っているのが彼女だからだろうね……、治癒術を使えていないんだ」
「カーティス様、それはつまり使い続けるとレースさんの肉体が損傷するという事ですか?」
「そうなるね、早めに何とかしないと彼の命が危ない……、えっとトキ君だったかな良かったら手伝ってくれるかな?」

 レースの命が危ないと聞いて私の中で焦りが産まれる。
この状況が進んだら彼が二度と戻って来なくなる……、考えるだけで恐怖で手が震えそうになるし頭の中に霞が掛かったように思考が回らなくなりそうで、感情に飲み込まれて冷静さを失ってしまいそうで怖い。

「いいけど、あたいはあんたの特性や心器の能力を知らないからまずは教えてくれないかい?」
「いいよ?俺の特性は『粉塵』で、属性は闇で毒の魔力を持ってるかな……、自分の攻撃に毒の魔力を乗せて攻撃が出来るけどその際に粉塵が舞うようになってるから吸い込まないようにして欲しい、能力の方は【劇毒、身体強化、防刃】だけど……どれも自動で発動するタイプだね、特に劇毒は粉塵と併用する時があるよ……まぁ使うと暫く生命が生きる事すら出来なくなる程に汚染されてしまう」
「あぁ……、噂で通った場所が死の大地になるって言われてる理由が分かった気がするよ、あんた一度やる気を出して戦うと加減が出来ないタイプだろ」
「うん、そのおかげで【死絶】何て不名誉な二つ名貰ってしまうし困ったものだよって事で教えたから後は頼むよ」

 あれ?これって特性のせいでレースが毒に侵されて瀕死になってしまう気がするんだけど気のせいじゃないよね?。
どうしよう……、もしそうなったら今ここで治癒術を使えるのカエデちゃんだけだからこれは本当に駄目だと思う。

「カーティスさん、特性を使わないで戦う事って出来ますか?」
「出来るけど……、トキ君の負担が増えやしないかい?」
「お?あたいは別にいいよ、変わりに少しだけ本気を出すから巻き込まれないように気を付けなよ?」
「刃が付いてる武器なら傷付かないから好きにやっていいよ」
「あいよっ!姫ちゃんとダートは危ないからあたいの側には絶対に近づくんじゃないよ?」

 トキさんの持っているバッグの中から戦斧が出て来たかと思うと全身からどす黒い色の魔力が溢れていく。
多分これが【狂化】っていう特性なんだろうけどいったいどんな能力なんだろう……

「へぇ、この能力……、もしや彼女は限界に至れる器かい?」
「トキさんですか……?はい、特性の力を引き出した事で肉体強化の適正限界に至った栄花騎士団の最高戦力の一人です」
「栄花騎士団……?道理で強いわけだね、それにこの魔力の質は【狂化】か……、心器を使ってなければ間違いなく俺や彼女の命に刃が届いていたねこれは」

 トキさんが雄たけびを上げながらレースへと走って行くと戦斧を滅茶苦茶に振り回す。
その動きは戦術も何もない理性を失った獣のようで近付いただけで命を奪われそうだけど、彼は心器の杖で全て受け止めながら隙を見て槍のように突き出すけど、その度に体の至る所から出血をしていてこのままだと何時倒れてしまうのか分からない。
そして彼女に続くように高速で近付いたカーティスさんがレースの脚に尾を絡ませると勢いを付けて持ち上げて地面へと振り落として動きが止まった瞬間に首元に噛み付いた。

「カーティスさん、何をしてるの!?」
「俺の牙から麻痺毒を体内に入れてるんだよ、大丈夫全身の筋肉が痺れて動きが出来ない程度に抑えてるからってまさか……」

 レースがカーティスさんの頭を掴むと首から大量の血を流しながら力尽くで引き離して地面へと叩きつける。

「これはまずいですね、戦うのは苦手ですけど……」

 カエデちゃんの手から魔力で作られた泥の球が現れてレースの足元へ当てるけど、その度に彼の動きが鈍くなって行く。
そして最終的に足が動かなくなってしまったのかその場に立ち尽くしてしまった。

「あれ?私の脚が動きませんね……、あなた何をしたの?」
「……私の魔力特性【劣化】の効果でレースさんの脚の力を一時的に劣化させて使えなくしました」
「へぇ、面白い事出来るんだね……、これは強くなったら私やカーくんみたいに限界へと至った人を一方的に倒せる切り札になると思うから怖いなぁ、悪いけどここで消えて貰うね?……えっと【魔力暴走】はどうやって?、あぁうんこうやってやるんだね」
「えっ?」
「させないよぉっ!ってうっそでしょ、この私がぁっ!?」

 レースの全身から魔力の光が溢れたかと思うと杖に集中して大気を揺らす。
その力に止めようと飛び掛かったトキさんが吹き飛ばされて、受け身も取れずに頭から落ちると長杖をカエデちゃんへと向ける。

「私は魔力を使う術を使う事は出来ないけど相手に直接魔力をぶつける事は出来るの……、つまりこうやって一ヵ所にレースさんの全魔力を集めてぶつければ指向性を持たせなくても凶器と一緒だよね」
「カエデちゃん逃げてっ!」
「ふふ、もう遅いよ?じゃあこれで消えちゃおうねっ!……え?うそっ!」
「……え?生きてる?」

 レースの驚く声と共に手元から心器が魔力へと戻って消えてしまう。
彼女も予想外だったらしくて困惑して動きを止めた瞬間に、倒れていたカーティスさんの蛇の下半身が動き出してレースの全身を締め付ける。

「ダート君やるならこのタイミングしかないっ!早くっ!」
「はいっ!『距離計算良し、誤差修正無し、【空間跳躍っ!】』」

 レースの目の前までの空間を魔術で切り裂くと、距離を繋いで短剣を構えながら中へと飛び込びながら魔力の繋がりを切断すると、その勢いのままに地面へと前進を強く打ち付けて痛みで一瞬呼吸が止まる。
でも……、これでカーティスさんが言った通りなら上手くシオリと名乗った人を切り離す事が出来た筈。

「待ってっ!まだ私カーくんとそこの女の子を消してないのにっ!」
「悪いけど君の負けだよ……、魂を直接傷つけられたんだからレース君の身体の中にはもう入れないだろ?死にたくないなら早く自分の身体に戻りなよ」
「許せない……、私に酷い事をして絶対に許せない、あなた達覚えてなさいっ!この傷が癒えたら必ず消してあげるんだからっ!それにダートっ!あなたが、あなたが持っていたのねっ!【次元断】をっ!見つけたっ!必ず奪いに行くから覚悟しときなさいっ!」
「嫌よ、何で私の心器の能力が欲しいのか分からないけど、誰があなたに何か渡してあげるものですか……、レースの身体を返して大人しく出て行ってっ!」
「許さない……許さ……」

……レースの中からシオリが出て行ったのか全身から力を抜けて意識を失うと、カーティスさんが拘束を解いてゆっくり私へと彼を返してくれたけど、レースの身体はとても重くて今にも倒れてしまいそうになったしまう。
でも彼の隣にいていいのは私だけだから何とか頑張って支えているとカエデちゃんが走って近づいて来て『傷の治療をするので、そのまま支えていてください』と言って治癒術を使い急いで傷を治してくれると、綺麗な姿になった彼を見てレースを取り戻す事が出来たという思いから気が抜けてその場に座り込んでしまうのだった。
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