上 下
206 / 493
第六章 明かされた出自と失われた時間

18話 母の思い

しおりを挟む
 ミュラッカと話しながら外に出ると空はすっかり暗くなっていたけど、地面は月明かりを雪が反射して周囲を見渡す事が出来る位に明るい。

「夜なのに結構明るいんだね……」
「えぇ、ストラフィリアでは一年中雪に覆われている事が多いから夜でも明るいのよ」
「そうなんだ……」

 正直この時間から実戦形式でぼく達の実力を知る為に戦うのかと思ったけど、これ位明るいなら問題ない気がする。
それに雪で足元が不安定な場所で戦う事が今迄無かったから、貴重な経験が出来るのかもしれないと思うとぼく達の方でも貴重な経験が出来るのかもしれない……。

「さて……、ダート義姉様達が来るまでもう少し時間が掛かりそうだけど、レース兄様の方で何か話したい事ってあったりする?」
「話したい事……?」
「えぇ、さっきから私ばかり話題を振ってばかりで、レース兄様はそれに反応するばかりじゃない?、だからたまには自分から話をして欲しいのよ」
「……んー、なら気になる事があるんだけど、馬車の中でカエデが話していた【氷雪の盾】ってどういう事か聞いてもいい?」

 多分冒険者の二つ名のような物だと思うんだけど、何故ミュラッカがそのような名前で知られているのかが気になってしまう。

「あぁ、この国を攻めて来る周辺諸国からストラフィリアを守っている内にそう呼ばれるようになっていたのよ、敵からしたらこの魔術が特徴的に映ったみたいで……」

 地面の雪がミュラッカの周囲に浮かび上がったかと思うと、それが大きな盾の形になって表面が氷付いて行く。
その数は一つだけではなく複数の盾が彼女の周囲を回りながら全身を守っていて、確かに氷雪の盾と呼ばれても違和感がない。

「確かにこれならそう呼ばれたりするかもしれない、見る限りだと何処から攻めればいいのか分からないし……」
「……意外と足元から攻撃されるのが苦手だから、結構弱点は多いのよ?……まぁ、それに気付いて攻めて来られて武器で防いで相手を確実に仕留める自信があるから大丈夫だけど……」
「武器って?」
「……心器で顕現させた大剣で、雪と氷で作られた一振りで【軽量化、鋭刃】の効果があるから見た目よりも軽くて鋭くて良い武器よ」

 空中に雪が現れたかと思うと、大剣の形になって行き刃の部分に薄い水色の氷の刃が浮かび上がり一振りの両手剣が顕現する。
その美しい姿はミュラッカが着ている鎧ドレスと合わさり幻想的な雰囲気を出していて思わず目が奪われてしまう程だ。

「この大剣と魔術で作り出した盾があれば怖い物は何も無いわ」
「……なるほど確かに敵にすると恐ろしいとは思いますが、対処法が分かってしまったら怖くは無いですね」
「あら、カエデ様結構自信があるみたいですね」

 屋敷の扉が開いてカエデとダートが出て来るけど、まるで先程の会話を聞いていたような話し方をしている事に違和感を覚えてしまう。

「レースさんそんな不思議な顔をしないでください、屋敷の外にダート姉様の魔術で空間を繋げて貰って先程の会話を聞かせて頂いただけですから」
「栄花騎士団副団長とも在ろう方が人を使って盗み聞きですか……、それで自身が有利になったと勘違いしてしまう何てお可哀そうな事ですね」
「今からその鉄壁の守りを崩されて負けると思わないで、自分が勝てると思い込んでる姿は滑稽ですね……」

 そのまま二人の睨み合いが始まったけど、何ていうかいきなり置いてけぼりをくらってしまったようで何とも言えない気持ちになる。

「ごめんね?、レースの事を信頼しているミュラッカなら二人きりの時に自分の事を話してくれると思って……」
「それ位別にいいよ、だって必要な事だったんでしょ?でも、出来れば教えて欲しかったかな」
「教えるとレースの場合、直ぐに顔に出てしまうから止めた方がいいってカエデちゃんに言われて出来なかったの」
「まぁ、それはしょうがないと思う……」
「うん……」

 ぼくの事を心配してくれたダートが事情を話してくれたけど、正直そういう事ならしょうがないと思う。
表情に出ないように気を付けたりはしたけど、そうすると今度は挙動がおかしくなったりしてむしろ悪化したりしたから最近はもう諦めつつある。
むしろこの短所を知った上で側にいて支えてくれるダートには感謝の気持ちしかない。

「さて、三人が集まったからそろそろ始めましょうか……、レース兄様、ダート義姉様にカエデ様準備はいいですか?」
「……はい、お願いします」
「なら、皆が武器を構えたら始めますので武器を出してください」

 言われた通りに、手元に魔力を集中させて雪で作られた長杖を顕現させると、ダートも心器の短剣を手元に出現させて構える。
そういえばダートと一緒に並んで戦うのって凄い久しぶりだから上手く連携出来るように気を付けないと……

「レース兄様、何故母様と同じ形の長杖を……、その形を何処で?」
「何処でって、心器を顕現させた時に自然とこの形になったんだけど……」
「……母様はちゃんとレース兄様の所に行って会えていたのね」
「それってどういう……?」
「心器は……、その人の心象風景を顕現させるものですが、魔力の波長が近い血縁同士だと強い思いがあれば亡くなった後に譲渡する事出来るのよ、その場合は形状が元の術者と同じ物になって、受け継いだ人の資質と合わさってより強力な能力が発現するようになるの」

 つまりぼくの心器は、今は亡きスノーホワイト王妃の物でそれを受け継いだ物という事なんだと思う。
それに強力な能力が発現するという事は、【高速詠唱、多重発動】とは別につい最近使えるようになった【空間移動】という物がある。
これはぼくの眼で見える範囲の場所に空間を越えて移動するという能力らしいけど、実際に使ったことが無いから分からない。
多分……、空間魔術を少しだけ使えるようになったから増えた物だと思うけど使用したらどうなるか分からないものを試す勇気がぼくには無かった。

「そうなんだ……」
「えぇ、だから母様は亡くなった後に、魂だけの存在になってあなたに会いに来て心器を譲渡してずっと見守ってくれていたのかもね」
「そっか……」
「ごめんなさいレース兄様、私はこの戦いで自分を抑えられそうにないかもしれないわ……、今の私を、ここまで頑張って来て立派に育った姿を母様に見て貰いたいのっ!」
「分かった、おいでミュラッカ、スノーホワイト王妃の思いがここにあるならきっと届くと思うから」

 ミュラッカの言っている事が真実だったら何処かでぼく達の事を見守ってくれているのかもしれない。
そう思ったら自然と言葉が出て不思議な気持ちになる。

「えぇ、じゃあ今度こそ始めましょうか……、名乗らせて貰うわね【私は北の大国、覇王の娘にして王位を継ぎ新たな覇王となる者、我が名はミュラッカ・ミエッカ・ヴォルフガングっ!父様と母様より貰いし名の意味は荒れ狂う雪の剣っ!今ここに一振りの剣を持ちて勝利を亡き母に誓う者っ!】、さぁ母様があなたの為に考えて私にだけ伝えて本当の名を教えます、その名を名乗り誓いを立てなさいっ!【キノス・ルミヒウタレ・ヴォルフガング】!」
「わかった、【ぼくは大事な人達を守り、力になりたいと思う者、我が名はキノス・ルミヒウタレ・ヴォルフガング、この戦いで認めて貰いダリアをぼくとダートの手に取り戻す事を誓う者……、そしてぼくの今の名前はレースだっ!偉大なる賢者【カルディア・フィリア】に育てられた【レース・フィリア】だっ!】……、亡くなったスノーホワイト王妃がくれた名前は受け取るけど、ぼくはこれからもレースって名前を名乗るよ、だってそれが今ここにいるぼくだから」
「……えぇ、あなたはそれでいい、そのブレない芯が私の信用した、私だけのレース兄様だもの……、では皆様お覚悟をっ!」

……ミュラッカが地面の雪の上を滑るように移動しながらぼく達の方へと走ってくる。
その雪に咲く一凛の花のように美しくそして気高い姫騎士は、途中で心器の大剣を構えるとぼく達に向かって勢いを付けた一撃を繰り出すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

地方公務員のおっさん、異世界へ出張する?

白眉
ファンタジー
とある地方公務員、52歳の中間管理職のおっさん、休日勤務に行くと見知らぬドアが…。 ドアを開けるとおっさんの人生が変わる。 頭の固いおっさんが、どこまで異世界で順応するのか…。 ヒトとヒトとの出会いが彼の生き方と考え方を変えていく。 時にはエッチに、時にはシリアスに、また時には・・・。 おっさんでもまだ踏ん張れる! 世のおっさんに送る作品となれば幸いです。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

巻き戻り令息の脱・悪役計画

日村透
BL
※本編完結済。現在は番外後日談を連載中。 日本人男性だった『俺』は、目覚めたら赤い髪の美少年になっていた。 記憶を辿り、どうやらこれは乙女ゲームのキャラクターの子供時代だと気付く。 それも、自分が仕事で製作に関わっていたゲームの、個人的な不憫ランキングナンバー1に輝いていた悪役令息オルフェオ=ロッソだ。  しかしこの悪役、本当に悪だったのか? なんか違わない?  巻き戻って明らかになる真実に『俺』は激怒する。 表に出なかった裏設定の記憶を駆使し、ヒロインと元凶から何もかもを奪うべく、生まれ変わったオルフェオの脱・悪役計画が始まった。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
 第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。  投票していただいた皆さん、ありがとうございます。  励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。 「あんたいいかげんにせんねっ」  異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。  ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。  一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。  まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。  聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………    ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。

処理中です...