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第六章 明かされた出自と失われた時間
7話 シンの主張
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栄花騎士団最高幹部の二人が滞在しているという宿に向かっているけど足元が不安定で歩きづらい。
雪に足を取られて転びそうになったり、滑りそうになったりしてその度にカエデちゃんに助けて貰っているけど、こういう事ならもっと準備を念入りにするべきだったかも……
「カエデちゃん何度も掴まっちゃってごめんね?」
「いえ、気にしないでくださいお姉様」
どんどん申し訳ない気持ちになってしまって謝ってしまうけど、気にする素振りを見せずに笑顔を見せてくれる彼女に気持ちが少しだけ救われる。
「お姉様、あそこがシンさん達が滞在している宿です」
カエデちゃんが指を差すとまるで一般の民家のような形をした二階建ての建物で屋根から白い煙が出ている。
宿って言うからもっと大きな場所を想像していたから違和感しかないけど、ストラフィリアの宿はこれが普通なのかも?
「えっと……カエデちゃん、宿というよりも民家に見えるんだけど」
「あぁ、お姉様はストラフィリアは初めてでしたから知りませんよね、この国の宿は一つの家を借りる民泊システムでして、住む人が居なくなった民家をそのまま使わせて貰う感じになりますね」
「……民泊ってしたことないから分からないけどそういうのがあるんだね」
「はい、この国で大きな宿となると部屋全体を凍えないように温めるのに使う燃料の消費が現実的ではないので、民家を貸し出して予め用意された薪を暖炉にくべて全体を温める感じになります」
暖炉って聞くと本当に雪国に来たんだと実感する。
日中は寒さを凌げる服装で何とかなるけど、こういうのが無いと夜は本当に危険なのかもしれない。
実際にこの国で暮らしたことが無いから分からないけど、慣れてないと生きるのが難しそう。
「とりあえず、このまま外にいると体を冷やしてしまいますから入りましょうか、着いたら入っていいという事になってはいますが無断で入るとこの国の人達が不審がると思うので……」
カエデちゃんが民宿の扉をノックすると、中から『どうぞ』という声が聞こえてくる。
その声に応えるように……
「冒険者ギルドから派遣されて来ました、Dランク冒険者のキリサキ・カエデとAランク冒険者の【泥霧の魔術師】ダートです」
「……待っていたぞ、さっさと入れ」
「はいっ!お姉様入りますよ!」
「うん、失礼致しますっ!」
扉を開けて民宿の中に入ると狭い部屋の中にもう一つ玄関の扉がある。
中に入ったら直ぐに部屋があると思っていたけど違うみたいで違和感が凄い。
「……何で扉を開けたらまた玄関があるの?」
「寒さが中に入らないようにする為の仕掛けですね」
「考えられてるんだね、でもそれだとカエデちゃんが玄関の扉をノックした時聞こえない気がするんだけど……」
「それはですね、魔力を感知すると向こうの扉にも振動が伝わるようになってるらしいですよ?」
「へぇ、原理は私には分からないけど便利なんだねぇ」
それなら内容としては納得出来るけど、どういう原理で魔力を感知して向こうの扉に振動が伝わるのかが分からなくてモヤモヤする。
レースの事が無かったら今すぐにでも調べたいけど、今は兎に角後回しにしよう。
「では、待たせるわけにはいきませんから入りましょうか」
カエデちゃんが奥の扉を開くと、奥から暖かい空気が流れ込んで身体を包み込んでくれる。
確かにこれなら外に暖かい室温が外に逃げ出さないし、外から冷気が入って来る事が無いから上手く作られてる気がするし、寒い地方に住んでいる人達の工夫が感じられて個人的には好きかもしれない。
外の寒さから解放されて気が緩みそうになるのを抑えて、二人で民宿の中に入るとそこには『赤黒い長い髪で茶色い目』をした黒のジャケットの下に赤いワイシャツを着て、黒いズボンを履いた男性が椅子の上で脚を組んで座っていた。
「いきなり端末越しに姫から文章が送られて来たから急いで戻っては来たが……、協力して欲しい事とはなんだ?それに何故冒険者ギルドからの依頼を通して会う何てめんどくさい事をしたんだ?」
私達の顔を見てそう言う彼はあからさまに不機嫌な顔をしている。
それにしても、通信端末から文章が送られて来たっていったい何時送ったんだろう?。
もしかして私が渡されたのにもそういう機能があったりするのかな……
「えっとですね、それに関して詳しく説明をしたいのですが……」
「聞かせて貰おうか……、けどつまらない内容じゃあないよな?」
「それは聞いて頂かないと……」
カエデちゃんが私達がストラフィリアへと来た理由を説明するけどつまらなそうな顔をして聞いている。
確かに初対面の人に、レースを助けたいから力を貸して欲しいと言われても正直迷惑な話だと思うし、シンさんも仕事で来ている以上は優先順位があると思うからしょうがないんだと思う。
「つまりそれでストラフィリアの首都『スノーフィリア』にまで来たというのか……、一つ聞きたいのだけどそれを手伝ってやる義理が俺には無いんだが、参考までに姫が手を貸す理由を教えて貰えないか?」
「私の大事な人達だからです、それ以上の理由はないです」
「私情で騎士団の団員を動かすと?命令ではなくか……、悪いが俺は手を貸す気は無いぞ」
「それがアキラさんの弟子だとしてもですか?あなたとチームを組んでくれる人が大事にしてくれる人だから助けてくれても……」
「……あれは俺と相性が良いからチームを組んでいるだけだ、そこに私情等関係ないんだが、お前は栄花騎士団の副団長だろ?自覚が持ったらどうだ?上に立つ人間が感情で人を動かそうとするな」
カエデちゃんが『……それは』と呟くと俯いてしまう。
シンさんの言いたい事は分からないでもないけど、いくらなんでも言い過ぎな気がして嫌な気持ちになる。
そのまま二人は黙ったまま何も言わない気まずい雰囲気になってしまい、どうしようかと思っていると二階から足音が聞こえて来ると同時に、シンさんが口を開く。
「黙って何かが変わるとでも?だから俺は反対だったんだ、このような幼い娘をいきなり副団長に就任させるよりも下積みから経験させるべきだろう、それにだぁっ!?」
「俺が話をするからお前は二階に居ろって言うから黙って聞いていれば……、くどくどとこんな小さい子を虐めて何やってんだいっ!!」
……大きな声がするのと同時に二階へと繋がる階段から人影が飛び降りて来たかと思うと、その勢いのままシンさんの頭を叩いて黙らせつつ床へ着地する。
椅子の上で叩かれた頭を抑えながら痛みに震えて何も言えなくなっている彼の事が心配になるけど、それ以上に飛び降りて来た人が気になってしまう。
ストラフィリアにはドワーフという鍛冶に精通した種族がいるという話は、有名だから知っていたけどここで出会う事になる何て思ってもいなかったからだ。
雪に足を取られて転びそうになったり、滑りそうになったりしてその度にカエデちゃんに助けて貰っているけど、こういう事ならもっと準備を念入りにするべきだったかも……
「カエデちゃん何度も掴まっちゃってごめんね?」
「いえ、気にしないでくださいお姉様」
どんどん申し訳ない気持ちになってしまって謝ってしまうけど、気にする素振りを見せずに笑顔を見せてくれる彼女に気持ちが少しだけ救われる。
「お姉様、あそこがシンさん達が滞在している宿です」
カエデちゃんが指を差すとまるで一般の民家のような形をした二階建ての建物で屋根から白い煙が出ている。
宿って言うからもっと大きな場所を想像していたから違和感しかないけど、ストラフィリアの宿はこれが普通なのかも?
「えっと……カエデちゃん、宿というよりも民家に見えるんだけど」
「あぁ、お姉様はストラフィリアは初めてでしたから知りませんよね、この国の宿は一つの家を借りる民泊システムでして、住む人が居なくなった民家をそのまま使わせて貰う感じになりますね」
「……民泊ってしたことないから分からないけどそういうのがあるんだね」
「はい、この国で大きな宿となると部屋全体を凍えないように温めるのに使う燃料の消費が現実的ではないので、民家を貸し出して予め用意された薪を暖炉にくべて全体を温める感じになります」
暖炉って聞くと本当に雪国に来たんだと実感する。
日中は寒さを凌げる服装で何とかなるけど、こういうのが無いと夜は本当に危険なのかもしれない。
実際にこの国で暮らしたことが無いから分からないけど、慣れてないと生きるのが難しそう。
「とりあえず、このまま外にいると体を冷やしてしまいますから入りましょうか、着いたら入っていいという事になってはいますが無断で入るとこの国の人達が不審がると思うので……」
カエデちゃんが民宿の扉をノックすると、中から『どうぞ』という声が聞こえてくる。
その声に応えるように……
「冒険者ギルドから派遣されて来ました、Dランク冒険者のキリサキ・カエデとAランク冒険者の【泥霧の魔術師】ダートです」
「……待っていたぞ、さっさと入れ」
「はいっ!お姉様入りますよ!」
「うん、失礼致しますっ!」
扉を開けて民宿の中に入ると狭い部屋の中にもう一つ玄関の扉がある。
中に入ったら直ぐに部屋があると思っていたけど違うみたいで違和感が凄い。
「……何で扉を開けたらまた玄関があるの?」
「寒さが中に入らないようにする為の仕掛けですね」
「考えられてるんだね、でもそれだとカエデちゃんが玄関の扉をノックした時聞こえない気がするんだけど……」
「それはですね、魔力を感知すると向こうの扉にも振動が伝わるようになってるらしいですよ?」
「へぇ、原理は私には分からないけど便利なんだねぇ」
それなら内容としては納得出来るけど、どういう原理で魔力を感知して向こうの扉に振動が伝わるのかが分からなくてモヤモヤする。
レースの事が無かったら今すぐにでも調べたいけど、今は兎に角後回しにしよう。
「では、待たせるわけにはいきませんから入りましょうか」
カエデちゃんが奥の扉を開くと、奥から暖かい空気が流れ込んで身体を包み込んでくれる。
確かにこれなら外に暖かい室温が外に逃げ出さないし、外から冷気が入って来る事が無いから上手く作られてる気がするし、寒い地方に住んでいる人達の工夫が感じられて個人的には好きかもしれない。
外の寒さから解放されて気が緩みそうになるのを抑えて、二人で民宿の中に入るとそこには『赤黒い長い髪で茶色い目』をした黒のジャケットの下に赤いワイシャツを着て、黒いズボンを履いた男性が椅子の上で脚を組んで座っていた。
「いきなり端末越しに姫から文章が送られて来たから急いで戻っては来たが……、協力して欲しい事とはなんだ?それに何故冒険者ギルドからの依頼を通して会う何てめんどくさい事をしたんだ?」
私達の顔を見てそう言う彼はあからさまに不機嫌な顔をしている。
それにしても、通信端末から文章が送られて来たっていったい何時送ったんだろう?。
もしかして私が渡されたのにもそういう機能があったりするのかな……
「えっとですね、それに関して詳しく説明をしたいのですが……」
「聞かせて貰おうか……、けどつまらない内容じゃあないよな?」
「それは聞いて頂かないと……」
カエデちゃんが私達がストラフィリアへと来た理由を説明するけどつまらなそうな顔をして聞いている。
確かに初対面の人に、レースを助けたいから力を貸して欲しいと言われても正直迷惑な話だと思うし、シンさんも仕事で来ている以上は優先順位があると思うからしょうがないんだと思う。
「つまりそれでストラフィリアの首都『スノーフィリア』にまで来たというのか……、一つ聞きたいのだけどそれを手伝ってやる義理が俺には無いんだが、参考までに姫が手を貸す理由を教えて貰えないか?」
「私の大事な人達だからです、それ以上の理由はないです」
「私情で騎士団の団員を動かすと?命令ではなくか……、悪いが俺は手を貸す気は無いぞ」
「それがアキラさんの弟子だとしてもですか?あなたとチームを組んでくれる人が大事にしてくれる人だから助けてくれても……」
「……あれは俺と相性が良いからチームを組んでいるだけだ、そこに私情等関係ないんだが、お前は栄花騎士団の副団長だろ?自覚が持ったらどうだ?上に立つ人間が感情で人を動かそうとするな」
カエデちゃんが『……それは』と呟くと俯いてしまう。
シンさんの言いたい事は分からないでもないけど、いくらなんでも言い過ぎな気がして嫌な気持ちになる。
そのまま二人は黙ったまま何も言わない気まずい雰囲気になってしまい、どうしようかと思っていると二階から足音が聞こえて来ると同時に、シンさんが口を開く。
「黙って何かが変わるとでも?だから俺は反対だったんだ、このような幼い娘をいきなり副団長に就任させるよりも下積みから経験させるべきだろう、それにだぁっ!?」
「俺が話をするからお前は二階に居ろって言うから黙って聞いていれば……、くどくどとこんな小さい子を虐めて何やってんだいっ!!」
……大きな声がするのと同時に二階へと繋がる階段から人影が飛び降りて来たかと思うと、その勢いのままシンさんの頭を叩いて黙らせつつ床へ着地する。
椅子の上で叩かれた頭を抑えながら痛みに震えて何も言えなくなっている彼の事が心配になるけど、それ以上に飛び降りて来た人が気になってしまう。
ストラフィリアにはドワーフという鍛冶に精通した種族がいるという話は、有名だから知っていたけどここで出会う事になる何て思ってもいなかったからだ。
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