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第五章 囚われの姫と紅の槍

13話 目覚めた男

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 今ミコトさんは何て言った?、確かに父親に似て来たって言った筈だ。
という事は彼女はぼくの生まれを知っているという事か……、師匠が知ってるのは何となく分かっていたけど、興味が無いから聞かなかった。
ジラルドの事が無かったら今すぐにでも聞きに行きたいけど、今は他に優先すべき事があるから後にしよう。

「レース?どうしたの?怖い顔してるけど……」
「扉が閉まる前にミコトさんが言ってたのダートは聞こえた?」
「え?聞こえて無いけど……、カエデちゃんは何か聞いたりした?」
「私も特には……」

 確かに聞こえた筈なのに二人は聞こえてないようだ。
これはいったいどういう事なのだろうかと思うけど、取り合えず今は彼の元へ行かないと……

「そっか……ならいいや、取り合えずジラルドを起こさないと」
「そうだぞー、ずっと横になって寝てんのは疲れんだぜ?」
「だよね、だから早く起こさな……い、と?」

 声の聞こえた方をみるとベッドから半身を起き上がらせたジラルドがいた。
ぼく達が来たら眼が覚めるとか、何て都合が良い術何だと内心思っていたけど実際に見ると、反応に困る。

「ジラルドさんっ!」
「おぅ、ダート元気してたか?ってしばらく見ない間に背が伸びて……ないな」
「……えっと、殴っていいですか?」
「お姉様っ!落ち着いてくださいっ!顔が本気過ぎです」
「ダート、この子の言う通りだ、顔が怖いんだけ……ど…!?」

 無言でジラルドに近づいたダートが、勢いよく頭を叩く。
部屋の中には気持ちが良い程に綺麗な音がなったかと思うと、頭を抑えて蹲る彼の姿があった。

「あなたねっ!私達がどんだけ心配したと思ってるの!?、それなのに教会に行ったら意識不明で?私達が来たら眼が覚めるようにしてあるご都合的な術で?しまいには会った瞬間にこんなにふざけてっ!何考えてるのっ!」
「あぁ……、なんていうかごめん」
「お姉様、お気持ちは察せない訳では無いですが落ち着いてください、レースさんもっ!止めてあげてっ!」
「んー……いや、ジラルドならいいんじゃないかな、ぼくだって正直これはないなぁって思ってたし」
「レースさん!?」

 手紙の件で急いで来たらこれだから、ダートの行動は個人的には納得が出来るけど正直ここまで怒っている姿を今迄見た事が無かった気がするから困惑してもいる。

「……ダメだ、ここで冷静なのは私しかいないんだ、私がしっかりしないとっ!」
「ところでさ、この雰囲気で聞くのもどうかなって思うんだけど、この小さい女の子って誰なんだ?」
「あ、申し遅れてしまい申し訳ございません、Aランク冒険者の【紅の魔槍】ジラルド様、私は栄花騎士団で副団長をしているカエデと申します、今はレースさん達の診療所へ治癒術の研修の為にお世話になってます」
「へぇ、という事はアキラが言ってた騎士団の姫っていうのはあんたかぁ、それにしてもレースのとこに研修ねぇ、なんつーか色々と大変だと思うけど頑張れよ?こいつが変な事したら俺に言ってくれたら何とかすっから頼ってくれよな」
「あ、はい……、それよりも何が起きたのか教えてもいいですか?」

 カエデが聞くとジラルドはさっきの雰囲気が嘘かのように真面目な顔になると、悔しそうな顔をする。
……コルクが囚われたという事だから余程の事があったんだと思うんだけど、彼の顔を見ると聞いていいものか分からなくなりそうだ。

「ジラルドさん、言い辛いかもだけどコーちゃんの事教えて?」
「……俺なりに分かりやすくして話すよ、ミントの両親に婚約の挨拶をしにトレーディアスの首都に来て、商王に謁見の約束を取り付けたまではいいんだけどさ、二人で謁見の間で待ってるといきなり騎士に囲まれて、驚いてたら王様が入って来て、いきなり女王誘拐の容疑で俺を捕えろと言いだしてさ、城内で暴れる訳にもいかなかったら大人しく拘束されて牢に入れられたんだけど……」
「だけど?」
「暫くしたらいきなり『貴様の処刑が決まった』って言われて連れて行かれたと思ったら、城の中庭で躊躇いなく俺の喉元を切って放置だよ」
「……ジラルド、それで良く生きてたね」

 多分首の頸動脈を切って放置されたと思うんだけど、良くそれで生きていたと思う。
放置されていたという事は暫く誰も来なかった筈だ。

「ほんとだよあれには俺も死ぬかと思ったけど、何とかしようと傷を抑えて出血を極力抑えてたんだけどよ、暫くしてたら紫色の髪を持った女性が来て俺に治癒術を使って応急手当してくれてさ、その後に何か注射を俺の腕に刺しながら私にはこれくらいしか出来ないから早く逃げるように言ってくれたんだよ」
「……それでここまで来たの?」
「そうなんだけどさ、血が止まったからミントを助けに行こうとしたんだけど、その人に『あなたでは行っても死ぬだけだから、本当にミントさんが大事なら今は逃げて生き延びて仲間を集めてから来なさい、そうね……出来れば教会に行って暫く匿って貰ったらいい』って言われてさ、教会に逃げ込んだんだよ……」
「ちょっと待ってジラルド、それだとどうやってお城から無事に逃げたの?」
「あ、あぁそうだな、道中不思議な霧が出てるなぁって思ったら、城の兵士や騎士が全員寝ててさ、そのおかげで脱出出来たんだよ」

 ……何か今一分かりづらいけど『城に行ったら捕まって暫く牢屋に入っていたら、処刑が決まったと言われて首を切られたけど、知らない人に助けて貰った』って事でいいのかな。
そんな事を思っていると、隣にいるカエデが何やら難しい顔をしている事に気付いた。

「カエデ、どうしたの?」
「……うーん」
「カエデちゃん?、唸ってるけど大丈夫?」

 声を掛けても唸ってばかりで反応が無い、思わず心配になって肩を揺らそうとするけど触れたらまた、婚前前の女性に男性が必要もなく触れるなと怒るだろうから止めたけど、そんなぼくの事を察したのかダートが変わりにカエデの肩を揺すってくれる。

「え?あ、お姉様どうしました?」
「レースが呼んでも反応無かったみたいだけど、どうしたの?」
「あぁ、レースさんごめんなさい、考え事してました……、ジラルドさんから聞いた内容が指名手配中の元Aランク冒険者『死滅の霧』スイさんにそっくりだったもので」
「……え?カエデ、それって本当なの?」
「はい、彼女はAランク冒険者の頃は困っている人や怪我人がいると、自身が調合した薬と治癒術で自ら率先して人助けをするような人でしたが……、『マーシェンス』に残して来た父親が事故にあったとかで暫く冒険者業を休業する事になりまして、その後に指名手配されたという経歴がある方なのですが、スイさんの戦い方が毒の魔術で作り出した薬品を霧状にして周囲一帯にばら撒く事が多くて、彼女と一緒に行動した経験がある人や助けられた人はその毒が効かないようにと、予め錠剤を渡されたり注射をされるという事で……」
「なるほど、確かにその人と似てる気がするわ……、という事は俺は敵に助けられたのかよ情けねぇ」

 膝を叩きながら悔しそうに言うけれど、例え相手が敵だろうが助けて貰ったならそれでいいと思う。
二度と会えなくなるよりはこうやって会って話せるほうがいい。

「……でよ、取り合えずそのスイって奴に言われた通りに教会まで行きながら手紙を急いで書いて封筒に入れた後にポストに投げ入れたのまではいいんだけど、着いた時に血を出し過ぎて限界だったみたいで倒れちまってさ、体が動かないけど自分に暗示をかけたんだよ」
「暗示……?」
「おぅ、俺も簡単な呪術は使えるからな、今迄戦ってきた中で強かったモンスター達と夢の中で戦って修行するっていう暗示、イメトレは大事だからさ……、まぁ解除条件はお前らの声を聞いたらだったけどさ」
「それで教会に迷惑をかけた……と……」
「まぁ、そう言う事だな」

……そう言いながら笑顔を作るジラルドを見て何とも言えない気持ちになるけど、本当に無事で良かったと思う。
ただどうして敵である筈の人が、彼を助けたのかが分からずに同じくらいに困惑をしていまう。
どうしてそんな思いやりのある人が指名手配されるような事をしてしまったのだろうかという疑問が頭の中から消えなかった。
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