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第五章 囚われの姫と紅の槍

4話 ダリアの身体

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 師匠がダリアを満面の笑みで抱えているのを見て困惑する。
好きなタイミングで訪ねて来るのは別に構わないのだけれど、この人はいったい何を考えて居るのか。
そんな事を考えて居るとダートがぼくに気付いて近付いて来た。

「レース、お義母様が急にやって来てダリアを連れて行くっていうの、どうしよう!」
「どうしようって……、まずは事情を聴かないと判断出来ないから話してみるよ」
「うん、お願いっ!」

 成程、ダリアを連れて行こうとしていたのか……、もしかしてだけど半年で人の形になるって言ってた彼女の身体が早くできたのかもしれない。
でもそれって可能なのだろうか……、例えば胎児の場合十週目で人の形としてある程度完成する筈で、現に師匠が身体を作ると言ってからまだそれ位しか経っていない。
とはいえぼく達の髪の毛と皮膚を使って、人の形を作るという事自体何をしようとしているのか理解が出来ないから、一般的な知識が通用しないんだと思う。
取り合えずそう言うのも含めて聞いてみようか。

「師匠っ、ダリアを連れて行こうとしてるって聞いたけど本当なの!?」
「あらレースちゃん丁度良い所に来てくれたわ、カエデちゃんとダーちゃんにも言って欲しいのよぉ、ダリアちゃんを連れて行っても大丈夫だって」

 連れて行っても大丈夫だって言って欲しいって言われても、本当に大丈夫なのかぼくも分からない以上は師匠に同意する事が出来ない。

「言って欲しいって言われても、師匠が来たって事はもしかしてだけどダリアの身体が出来たんだと思うけど、そんな早くに出来るの?」
「んー、そうね、本当なら出来ないんだけど特殊な方法を使ったのよー」
「カルディア様、特殊な方法って何をしたんですか?事と次第では団長に報告しないといけなくなるのですが」

 師匠を止めてくれていたカエデが厳しい口調で詰め寄るけど、この人は楽しそうな笑みを崩す様子も無く明るい口調で会話を続ける。

「カエデちゃんは、まじめねぇ、そうねぇあなたがこれを理解出来たなら団長さんに報告していいわよ?、まず培養槽の中にレースちゃんとダーちゃんの髪の毛と皮膚を入れて特殊な細胞を二つ作成し、その二つを掛け合わせる事で二人の遺伝子を持った肉体の生成、ここまではいいかしら?」
「あの……、既にわからないです」

 ぼく達の遺伝子を持った肉体の作成って何を言ってるんだこの人は、まるでそれだとダートとの間に出来た子供みたいじゃないか。
そんな事を勝手にやるなんて師匠は何を考えているんだ。

「んー、ならここで聞くのを止める?」
「いえ、最後まで聞かせていただきます」
「良い子ね、そういう所好きよ?……、続きなんだけど、その場合胎児から作る事になるんだけど、本来なら半年かけて人の身体を作るんだけど、どうせなら早く作って皆を驚かせようと思ってね?私の使える術の一つを使って培養槽の中の時間を加速させたのよ」
「……師匠、どうしてそのような事を?」
「だって、孫の顔が見たいって言うじゃない?」

 孫の顔が見たいって、それってやっぱり子供って事じゃないか。
この人は人の事を何だと思っているんだ。
ぼくの後ろにいるダートも同じ事を考えているようで、赤面しながら口を開く。

「あのお義母様……、もしかしてそれって私とレースの、こ、こど、も?」
「まぁ血縁上はそうなるんでしょうけど、気にしなくていいと思うわよ?あくまで二人の遺伝子が入っているとはいえ別の人間だもの、あなた達は結婚した後にちゃんと自分達の子供を作って育てたらいいわ?あ、勿論結婚する前でもいいのよ?」
『俺がレースとダートの子供だぁ!?勘弁してくれよっ!』
「あ、あのえっと……その、け、結婚してからでっ!」

 今迄黙っていたダリアも思わず声を荒げているけど、師匠には聞こえないから意味が無いと思う。
ダートも更に顔を真っ赤にして『結婚かぁ……』と自分の世界に入っている。

「という事でね、カエデちゃん流れとしてはこんな感じなんだけど、理解出来なくても団長さんに言っていいってどうするかしら?」
「えっと……、上手く説明出来る自信が無いです」
「なら止めておきなさい、この場合説明出来ないなら言っても意味が無いからねって事で、ダリアちゃんを連れて行きたいんだけどいいかしら?」
「師匠、連れて行く理由は分かったからいいんだけど、人の形になる位大きくなった身体があるって事はその人には自意識があると思うんだけどどうなの?」
「あぁ、それなら問題無いわ?、培養槽の中には自我の覚醒を抑制する薬が入っているから、魂や意識も無い器よ」

 過去に禁術指定された治癒術を作ったぼくが言うのもどうかと思うけど、師匠はぼくよりも禁忌を犯していると思う。
でもこれはぼくが禁術を生み出した結果なのだろう、それが無ければ師匠にこの発想が生まれる事は無かったのかもしれない。

「カルディア様……、さすがにこれは表に出たら大きな問題になりますよ?」
「なら言わなければいいのよ、ここにいる私達五人だけの秘密、そうすれば何の問題も無いわ?だってあなた達も同意したでしょう?ダリアちゃんの新しい身体を作るって」
「でもお義母様……、」
「ダート、確かにこの件に関しては師匠の言う通りだから今回は師匠の言うとおりにしよう……、だからダリアを連れて行っていいよ、でも明日からぼく達は西の大国【トレーディアス】の首都に暫く行ってここを留守にするけど大丈夫?」

 そう言うと師匠は驚いた顔をする。
多分、この町を暫く出る事が想像出来なかったのだろう。
ぼくだって、ジラルド達の件が無かったらこの町を出て外国に行こうとは思わなかっただろう。

「あら?そうなの?、ならダリアちゃんの意識を新しい身体に移したらそっちに転移させるから合流すればいいわ?」
「ならそれでお願いするよ……、でもダリアを転移させたとしてもどうやって合流すればいいのかな」
「レースさん、それなら私の予備の通信端末をカルディア様に渡しておきますので、トレーディアスに着いたらダリアさんにそれで連絡して貰うって事にしましょう」
「ならそれで行きましょうか、じゃあダリアちゃんの事はこちらでしっかりと預かっておくわね」

 師匠はそう言うとダリアを持って空間転移の魔術を使い消えてしまう。
何ていうか育ての親とは言えとんでもない人な気がするけど今更か……

「んー、何かジラルドさんやコーちゃんの後にお義母様のがあって色々と疲れちゃったから明日に備えてもう寝よっか、カエデちゃんは今日はどっちで寝る?」
「……色々とあってしんどいので今日はお姉様の部屋で一緒に寝ます」
「うん、じゃあ今日はお泊りだねー」
「はいっ!あ、レースさん明日の朝は私が美味しいご飯作るので楽しみにしててくださいねっ!」
「あ、あのレース、おやすみなさい」

……そういうカエデがダートの部屋に入って行く。
ダートも行くのかと思ったら何やら顔を真っ赤にしてぼくの顔を見たと思ったら、こっちに近づいて来てそっと小声で『けっ、結婚、落ち着いたら直ぐにしようね、それまではお預けになっちゃうけどごめんね』と言うと小走りで部屋に行ってしまった。
何て言えばいいのだろうか、そんな事を言われたら意識をするなと言うのは無理な話であって、何ともいえない気持ちを抱えたまま少ししか寝れずに朝を迎えるのだった。
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