治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第四章 師匠との邂逅と新たな出会い

間章 狂気の魔科学者

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 徒歩でルディー達から去ったのには理由がある。
あそこで魔術や魔導具を使い転移をした場合、あの女の事だ間違いなく俺の魔力の波長からマーシェンスの何処にいるのかを探知されるだろう。
相手が格下なら処理すればいいが、実力が拮抗した相手の場合はそうもいかない。

「……それにしても面白い物を見せて貰った」
「どんな面白い事があったんですか?」
「語る必要が無い」
「マスカレイドさんは酷いですねぇ、共犯者に対して優しくするべきですよ?」

 黄金色に輝く金色の髪にアクアマリンの瞳を輝かせた背中に黒い悪魔の羽と純白の天使の羽を生やした少女が空から隣に降り立つと隣を歩きながら話しかけてくるが、今はこいつと会話したいとは思わない。
それにしてもレース……、ルディーがあの小僧を【北の大国ストラフィリア】から拾って来たと言い出した時は驚いたものだ。
離乳食が終わっていないだろう生後一年前後の幼児をどうして連れ帰って来たのかはわからないが、何かしら思う事があったのだろう。
当時は共同の研究の為に小僧が十歳位になる頃まで共に生活をしていたが、全く持って手間がかかる存在だった。
運動能力が低すぎて身体強化をまるで活かせない、魔術においては光る物を感じるが本人の性格が戦いに向いていない。
では何が出来るのかと言われたら治癒術程度だ、それで優秀な魔術師と治癒術師を輩出する【メセリー】で生きて行けるのかと思ったものだ、何せ治癒術師となれば肉体強化は必須だ……自ら紛争地帯等に赴き負傷者を率先して治療して金銭を稼ぐ、小僧には無理だろうと思っていたが九年ぶりに再会したら心器を使えるようになり、雪で出来た長杖で俺の心器:【魔導工房】で生み出した魔科学兵器の動きを止めて見せた。

「それにだ、ダートも面白い事になっているな」
「あの珍しい髪色の珍しい子ですよねっ!あの子可愛かったですよねぇ」

 大切な人がいると言っていたがあの行動を見る限り相手はレースの事だろう。
まさかそういう方面でも小僧が俺の障害になるとは思ってもいなかった。
ダートがこの世界に来たのは小僧がルディーの家を出た後だ。
あの後に俺は彼女にとある提案をした【異世界の技術に興味は無いか?】っと、奴は最初反対していたがやはり好奇心には逆らえなかったらしく最終的には提案を呑んだが問題はその後に起きたと言える。
実際に【異世界の門】を開くことが出来たがそれは一瞬の事だ、それでは何の成果も得られない為に偶々そこに居た少女の腕を掴み強引にこの世界に引きずり込む事に成功する。
その後意識の無い少女を解剖する事でこの世界の人間との違いを探そうとしたがルディーに止められた為失敗に終わった。

「……まぁ結果的に生かしておいて良かったと今は思うがな」
「私達の計画に必要な存在になりましたからねぇ」

 意識が戻り暫くルディーの家で面倒を見る事になったが、俺達と同じ魔術を使う事が出来るという意味では然程技術体系は変わらないものだろうと推測が出来た。
特に肉体強化と魔術に対する才能は秀でており、治癒術においてはまるで才が無い。
だが魔術が使えるならこの世界でも充分生きていけるだろうと思っていたが、いざ戦闘訓練を行ってみると相手を傷つける事を躊躇う等どうしようもない程に向いていなかったのだ。

「あのぅマスカレイドさん、何時まで私はあなたの心の声を聞かされ続けなければならないのでしょう?」
「貴様が勝手に覗いているだけだろうが、嫌なら聞かなければいい」
「そうじゃなくて言葉にしてお話し致しませんか?」
「……それならシャルネ、貴様が適当に話してくれ俺はそれに対して相槌をする」
「はいっ!って……それ私の独り言じゃないですか!?」

隣がうるさいが続けさせて貰おう。
俺の生まれた国である東の大国【メイディ】には異世界から転移して来た異世界人や転生した存在に関する記述が纏められた禁書が存在する。
それに従い異世界の門を開き召喚したのは良いがこれでは期待外れだ。
この世界で何の信用も無い者が生きて行く場合、金銭を得る方法は冒険者しかない以上は戦う事が出来なければ価値すらない。
止むを得ずルディーと話し合い、彼女に暗示の魔術を教える事になったがそこである発想が浮かんだ。
もう一人の彼女を周りから疎まれるだろう人物になるように設定したら面白いのではないかと……、そうすれば最終的に孤立したダートは元の世界に帰る事を望む。

「望みませんでしたけどねぇ……」
「それなら他の方法を模索するだけだ」
「頼みますよぉ?私は【――へ繋がる門を開きたい】あなたは自分の為に【異世界の知識を手に入れて我が物にしたい】という目的があるんですからね」
「言わずとも分かっている……、俺は俺が知らない事がある事が許せないからな必ずやり遂げる」
「お願いしますよぉ?その為私の忠実な配下を二人貸してるんですからね」

……ダートがこの世界に執着するというのならその原因を始末してしまえばいい。
ただその相手がレースだという以上、俺が動いたらまたルディーも動くだろう……、ならばこちら側に引き入れたAランク冒険者達を使い始末するのが良いだろう。
幸いな事に全員心器を習得する事が出来た……、とは言え一人はまだ不完全だが実戦を重ねれば問題無い。
この世は俺の為の遊戯場だ、全てはこの手に無ければならない、その為にはダートを手に入れる必要がある。
さぁ、全てを手に入れ、全てを識る為の戦争を始めようっ!
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