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第四章 師匠との邂逅と新たな出会い

3話 出会いと困惑

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 朝になって眼を覚ますと何やらいい匂いがする。
今日の料理当番はぼくの筈だったんだけど、もしかしたら朝起きるのが遅かったのかもしれない。
それでダートが気を使って朝ご飯を作ってくれたのかもと思ったぼくはベッドから起き上がると急いでキッチンに向かった。

「ごめんダートっ!朝起きるのがおそ……く?」

 知らない人がこの国では見た事が無い服を着て朝ご飯を作っている。
この人は誰なんだろうか、もしかしてダートの友達だろうかと思い当たる人物を思い出してみるが該当する人物がいない。
そんな料理を作っている人もぼくの声にびっくりしたのか、ビクッと肩を震わせるとゆっくりとぼくの方に振り向いた。

「いきなり勝手にお邪魔してしまって申し訳ございません……、早朝にカルディア様と一緒に挙がらせて頂いたのですがその時はまだおやすみでしたのでカルディア様から朝ご飯を作って待っているようにと言われまして……」

 チョコレートブラウンの髪の毛を肩の下位まで伸ばした蜂蜜色の目をした幼い見た目の女の子がそう言うとぼくに向かって頭を下げる。
あぁ……多分これは師匠が昨日言ってた人だと思うけど完全に振り回されていると言うか遊ばれているな。

「何ていうか師匠がごめんね……」

 ぼくの謝罪を聞いて驚いた顔をしたと思ったら、今度は安心した顔をしてほっと息を吐く。
もしかして怒られると思ってたのかな……さすがに師匠の被害者に対してそんな態度は取らないよ。

「良かった、もしかしたら出て行けと怒られるんじゃないかと思って内心びくびくしておりました……、それにカルディアさんの事であなたが謝る必要はありませんよ?」

 謝る必要が無いって言ってもらえるのは助かるけど師匠が何か失礼な事をしてしまったのなら建前上でもしっかりと謝罪するのは大事だと思う。
特に初対面で相手に良い印象を与える事は信頼に繋がるから大事だとこの二ヵ月程ダート達に何度も言われたから大丈夫だ。
とりあえず次は自己紹介でもして見ようかな……

「えっととりあえず事情は分かったから自己紹介でもしようか、師匠から聞いてると思うけどレースです。この町で診療所を経営してます」
「……これはご丁寧にありがとうございます、私はカエデと申します。カルディア様からお聞きになられていると思いますが栄花からこの国へ研修に参りました」

 やっぱりこの人が昨日言ってたカエデさんか、それにしても背丈が低い人だなぁと思いながら彼女の事を見ていると不思議そうな顔をしてぼくの事を見てくる。

「……あの、もしかして私何か変な事してしまいましたか?」
「いや、変な事って言うよりも背丈が低く幼い見た目の人が来たなぁって」
「背丈が低い……」

 カエデさんが今度は複雑そうな顔をして俯いてしまう。
何ていうか表情がころころと忙しそうに変わる人だなぁって思うけどもしかして彼女の地雷を踏んでしまったのかもしれない。
そう思った瞬間に顔を真っ赤にしてぼくに向かって詰め寄って来た。

「あのですね、身長が低いのは今年十三歳になったばかりでまだ成長期なんですっ!だからこれから伸びるんで大丈夫なんですよっ!それに幼いって私はまだ十代前半ですからね、後四、五年したら大人の魅力が出るんですよっ!」

 あ、これやっぱり地雷踏んでしまった奴だ。
気を付けてはいるんだけど定期的にこうやってやらかしてしまう所は早く直さないとそのうち取り返しがつかない失敗をしそうで怖いな。
そんな事を考えているとダートの部屋のドアが開く音がしたと思うと彼女がこちら側に近づいてくる気配がする。

「レース?朝から騒がしいけど何やってん……の?」
「あっ……」

 ダートから見たら今のぼくは小さい女の子と密着して何かをしている不審者だ。
これはもしかしなくてもヤバいんじゃないかな……。

「レース、あなたいったい女の子を連れ込んで何してるの?」
「連れ込まれて何ていませんよ?私はここで皆さんに朝ご飯を作っていたんです」
「朝ご飯を……?あなたいったい私のレースのなに?」
「ごめん、カエデさんちょっと静かにしてて?」
「名前を呼び合う仲?……もしかして今迄私に隠してたの?」

 なんだこれ、本当になんだこれはぼくがいったい何をしたって言う以前に本当に何もやってない。
何ていうかこのやり取りめんどくさいな……、勝手に勘違いしてイライラされるとこっちも対応に困る。

「ダート、この人はカルディアさんが昨日言ってた子だよっ!だから君が不安に思うような事なんて少しも起きてないからっ!」
「……ほんと?」
「本当だから信じて欲しい……、取り合えず説明させて貰うけど早朝にぼく達を師匠と一緒に訪ねて来たらしいんだけどぼく達が寝ていたから朝ご飯を作って待ってろって言われたみたいなんだ」
「レースがそこまで言うなら信じる……、それならカルディアさんは何処に行ったの?」
「それなら家の中を軽く見た後に玄関の隣にある階段から下の階に降りて行きましたよ?」

 下って事は診療所を見に行ったのか……、それなら今頃上のやり取りに気付いて聞いてるんだろうなぁ。
風属性には『遠耳』と言われる遠くの音を聞く事が出来る魔術があるらしいから、師匠なら全属性の魔術を使えるし間違いなく使っているだろう。

「本当に師匠はめんどくさい……」
「だってカルディアさんだよ?あの人はいつもめんどくさい事ばかりじゃない……それよりもカエデちゃん、聞きたい事があるんだけどいいかな」
「え?あ、はい……聞きたい事ってなんですか?」

 いったいダートは何を聞くというのか、誤解が解けたとはいえ何を聞こうとしているのか分からないから不安になる。
人の事を言えないけど変な事を言わかったらいいんだけど……

「カエデちゃんの着てる服って、着物だよね?もしかして栄花だと着物を皆着たりするの?」
「栄花の民族衣装の事ご存じなんですねっ!皆ではありませんが一部上流階級の方達が好んで着ますよっ!」
「ほんとっ!?私の古郷でも同じでね上流階級の人が良く着てたんだぁっ!特にお母様が好んで着ててね?凄い綺麗で好きだったんだぁ」
「栄花以外にも着物を民族衣装として着る文化がある国がっ!?それは凄い興味がありますっ!もしよかったら沢山お話しを聞きたいですっ!」
「いいよ?何でも話してあげるっ!……って確か料理の最中だったよね?良かったら一緒にご飯作りながらお話しよ?」
「はいっ!ダートお姉様っ!」

……ダートとカエデさんはそういうと二人で楽しそうにキッチンの作業スペースに立つと途中までだった料理を再開する。
ぼくにはこういう時どうすればいいのか分からないから、邪魔しないようにキッチンから離れてリビングのソファーに座って朝ご飯が出来るまで待つ事にしよう。
そう思いつつ腰を掛けるとテーブルの上に何時の間にか紙が置いてあった。
これは何だろうと思って手に取って見ると、『お話しを邪魔したら悪いと思うので書置きを置いて行くわね。どうしても行かなければ行けない用事を思い出したのでレースちゃんの前のお家に行ってきます。カエデちゃんとのお話しが終わったらあなた達も来てね』と書き記してあったけど、どうして前の家に行く必要があるんだろうか。
そんな疑問を持ったけどまずは朝ご飯を食べてから考えようと思っている間にその疑問はぼくの中ではどうでもいい物になるのだった。
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