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第三章 戦う意志と覚悟

9話 魔術指導

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 朝ご飯を飲食店で食べてから家に帰ると、家の近くに見た事が無い建物があって言葉を失う。
北国で作られる事で有名な厚い氷で作られたかまくらのような物だと思うけど、どうしてこんな所に作っているのだろうか。
試しに近づいて見るとひんやりしていて気持ち良いけど、氷で出来ているという事は中はもっと寒いんじゃないかな。
気になって覗いてみると家の中は思いの外温かく不思議な気持ちになる。
氷を厚くする事で外部の温度を遮断して室内の温度を一定に保っている?……でもそうなると氷が溶けてしまうはずなのに形を保ち続けているのは何故?そんな事を考えてしまうけど分からないなまだ。
アキラさんの作ったであろう家の前で考え込んでいると中から厚着をした彼が出て来た。

「コルクの件は終わったのか?」
「えぇ、なので魔術の指導と戦闘の指南を受けに来ました」
「そうか……、ならまずは魔術の指導から行くとしよう。どれ位の練度があるかまずは見させて貰おう」
「分かりました……、魔術の為に意識を集中するので待っててください」

 アキラさんに雪が作られる原理を頭の中でイメージして魔力に変換して外部に出力して行く。
そして徐々にぼくの周囲に空から雪が降り始め足元を白く染め上げる……、ここまでなら2カ月前と何も変わらない出来る事が増えたのはここからだ。
雪を目の前に固定して行き一つの壁を作り上げると雪の中の水分を増やして内部で固まらせる事で雪同士の結合を強固にして堅牢な防壁となるし、敵が壁を破壊しようとしたら雪の先端を尖らせて、ぼくの魔力の特性の力で固定化すればカウンターになる。

「ふぅ……出来ました」
「成程、雪の壁か面白い事を考えたな」

 アキラさんは雪の壁に近づくと、氷を棒の形にして勢いよく叩きつける。
ぼくの予想ではこれ位なら防げる筈だったのだけど棒が砕けるのと同時に壁も崩れてしまった。

「まずは一つ目だが態々雪を空から降らせる必要はない。二つ目は強度が安定しない為に叩く場所を見極めれば簡単に崩れる。そして三つ目だが魔術を難しく考えないで良い……見ていろ」

 アキラさんはそういうと手の平を上にしてぼくの前に出す。
何をするのだろうかと見守っていると、周囲の大気が手の中に集まって行き圧縮されて行く、それがどうしたんだろうと思っていると懐から霧吹きを取り出し中に水を吹きかけると中で小さな氷になって行き徐々に雪のようになって行く。

「あの……どうして魔術で氷を作らないんですか?」
「魔術で見せるだけだと原理を理解出来ないだろう?」

 確かに言う通りで魔術で最初から見せられたら今みたいに内容を把握する事が出来なかっただろう。
ただこの人工的に作った雪は何というか不思議な感じがする。
でもこの現象を起こす為には大量の水と凄い空気の圧力を掛けなければ行けない筈なのは何となく属性が近いおかげで感覚で分かるけど……出来るかと言われるとどうやるのかぼくには分からない。

「不思議な顔をしているな……、そうだな貴様でも分かるように説明すると私の特性は【圧縮】だ。例えるなら魔術で起こす現象を圧出し続ける事が出来る」
「……何となくは想像出来ますけど、それぼくに出来ます?」
「誰もやれとは言っていないだろう……貴様に合わせて態々雪を作っているだけだ」

 アキラさんはそういうと手に握れる程の雪を作り上げて球体にする。
……それをぼくに渡して来たけど、これでどうしようと言うのだろうか。

「良いか?これと同じ物を作って見ろ」
「……はい」
「原理は既に頭の中にあるのだから難しい事は感覚に任せてしまって良い、雪が既にそこにあるイメージをしてそれを手の中で球状にして行け」

 言われた通りにやろうとするけど、普段以上に魔力を使うのか体から凄い勢いで放出されて行くのが分かる。
暫くして何とか握れる程の雪を生み出す事が出来たのでそれを握って丸めてみたけれど思ったような形にならなくて困惑してしまう。

「とりあえず出来た事は褒めてやろう……、だが先程からずっと気になっていた事があるのだが聞いて良いか?」
「良いですけど……、気になる事って何ですか?」
「何故貴様は無詠唱で魔術を使っている?……あれは魔術に熟練した者以外が使うと余計に魔力を消費するだけで初心者にはおすすめ出来ないのだが」

 おすすめ出来ないと言われても、ダートが普段魔術を使う時はいつも詠唱を行なわないしコルクも肉体強化が専門なのに魔術の幻影を作る時は詠唱を行なっていないからそれが当たり前だと思っていた。
確か以前ダートから魔術の本を見せてくれた時は、詠唱は本人がイメージできる物なら何でも良いとあったから心の中で唱えるのも正解なのではと思うけど違うのかな。

「あの……コルクも魔術を使う時無詠唱なんですけどそれも魔力を余計に消費しているんですか?」
「あれは一つの魔術を極限まで使い込んだ結果で貴様のとは違う……。とりあえず【詠唱】と【魔術名】を口に出して見ろ、雪の魔術は使い手が少ない為に決まった名前が無いという強味がある、それを活かす為にも魔術名は貴様がイメージしやすい物で良い」
「はい……」

 イメージしやすい物と言われても……ぼくなりに考えても【スノーボール】位しか思い浮かぶ物が無い。
詠唱もファイアボールの時はそれっぽいかっこいいのを考えたけど、雪で考えてもかっこいいイメージが浮かばない。
どうしようか悩んでいるとアキラさんが溜息まじりの助言をしてくれる。

「……【雪の結晶よ。我が手に集いて球体となれ】それで良いのではないか?」
「やってみますっ!……えっと、【雪の結晶よ。我が手に集いて球体となれ……スノーボール】」

 雪が手に集まって球体になるイメージをしながら唱えてみると先程とは違い少ない魔力で雪玉を手の平の上に作る事が出来た。
……ぼくがこの2ヵ月の間一人で必死に練習してた意味って何なんだろうね。

「うむ……これから毎日その感覚が染みつくまで時間がある時に使い続けろ。反復練習する事が技術を習得する近道となる……それに慣れてきたら雪玉を作る速度を速めたり遅くしたりや、雪の密度を変えて硬さの変更に形状の変化を加えてみろ」
「はいっ!」
「……とはいえ余りやり過ぎて魔力を全部使い切らないように気を付けた方が良い、貴様はこの町で診療所を開いておるのだろう?魔力を使い過ぎて治癒術が使えないと言うのはな……、貴様の本職は魔術師では無く治癒術師であることを忘れるな。大切な人を守るのは自身の事を自分でしっかりと出来てからだ」
「……わかりました」

 本当は今すぐにでも強くなりたいけど、アキラさんの言う通りだと思うから素直に聞いた方が良いだろう。
確かに治癒術師のぼくが治癒術を使えない状況になるのは周りに迷惑をかけてしまうだろうから気を付けないといけない……。

「後はそうだな……。一日で詰め込み過ぎるのは良くないから魔術の指導はこれで終わりにするが、変わりに一つ分からないなら分からないで構わないから今から私が言う問いに答えてみろ」
「わかりました」
「A~Bランクの冒険者は言葉にしなくても相手が何をしたいのかアイコンタクトや冒険者が共通して使うハンドシグナルを用いる事で把握できる者が多い為に術の名を口にするものが少ないが、それ以外の者は魔術名を口にする事が多い……それは何故だ?」

 この前の開拓に同行した時に皆が詠唱をしたりしないで連携を取れていたのはそう言う事だったのか。
でも……何故Cランク以下の人達は唱えるのだろう?取り合えず思いついた事を言ってみる。

「意思疎通の為……ですか?」
「……それで合っている。予め何を使うのかを宣言する事で仲間に攻撃を当ててしまう等の事故を防ぐ為だな……ただ盗賊の討伐等を行う事が増えるB以上になる場合は一々口にしていると相手にも何をしようとしているのかが丸わかりになる為に自然と使わなくなっていくという訳だ。……さて魔術の指導の方はこれで終わりだ。次は戦闘技術の指南に入るから貴様の得意とする武器を持ってくるが良い」
「わかりました」

……ぼくの得意な武器と言っても治癒術師である以上長杖になる。
ただ長杖がまともな武器になるのかと言われたらどうなんだろうか……色々と心配な所が多いけどこれも全部ダートを守る力を得る為だから頑張ろうと思う。
アキラさんがいる間に少しずつでも強くなって彼女の隣に居ても恥ずかしくない強さになりたいという思いが心の中に生まれつつあった。
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