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第二章 開拓同行願い

13話 暗示の魔術

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 眼が覚めたら窓から見える景色は茜色に染まっていて、ダートと話してから大分寝てしまった事が分かる。
新術の開発が中途半端なままなのにここまで休んでしまって良いんだろうか……彼女の力になりたいと思って始めた以上最後までしっかりとやりたいのに……夕飯の時間になったら最近は作って貰ってばかりだったから今日はぼくが作らないと、取り合えず起きて続きをやろう。

「ん?……これは?」

 起きてテーブルの上を見ると見覚えのない違う文章が書いてある。
風属性の魔術を用意か加速と減速の仕方、これは全然分からないけど肉体の一部の速度を変える事で相手の感覚を狂わせるというのは面白いと思う。
ただこれをどうやって使えばいいのか……治癒術の場合は基本的には限定された状況を除いて相手に接触していないと使えない術が多くて、問題はどうやって相手に近づくかだけど誰かに足止めをして貰わないと難しい。
距離が離れている時に使うとしても相手から離れれば離れる程魔力が飛散して行ってしまうから実用的ではない……とは言え自身の魔力で編んだ紐をナイフに括り付けて相手の身体に刺す事が出来れば離れていても使う事は出来る。

「問題はそのナイフを刺す手段だけど……」
「んなもん、うち等と一緒に行動するんだからうちに任せとけばええやん?」

 気付いたら後から声がして体が跳ね上がった。
ダートならノックして入って来る筈だから彼女ではない、声は聞き覚えがあるんだけど誰だろうか?
ゆっくりと体を後ろに振り向かせて声の主を確認する。

「よっ!皆大好きコルクちゃんやでー!」
「……何で居るんですか?」
「んー?そんな迷惑な姉を見るような顔で見んといてよ……もしかしてダーと一緒に居る時間を邪魔されるん嫌だったとか?って無視すんなぁ!」

 どうせダートと遊びに来たついでに気配を消してぼくを弄りに来たんだろうけど、付き合っていると話が続かなくなるから話題を切り替える。
ぼくだけならナイフを刺す事が出来ないけど確かにコルクなら出来ると思う。

「なら……普段は一本しか使わないから忘れがちだけど、確か短剣を二本持ってるよね」
「ん?あぁせやね。鞘の中に麻痺効果がある毒薬を塗り込まれた短剣とただの切れ味が良いだけのがあるけどそれがどうしたん?」
「切れ味が良い方を借りてもいいかな……新術の為に使いたい」
「それならええよ?家にまだ一本あるし何ならあんたにあげるよ」

 コルクはそういうと何処からか短剣を鞘ごと取り出すとぼくの前に置いてくれる。
多分空間収納の効果がある魔導具を持っていると思うんだけど何処に隠し持っているのかいつも不思議でならない。

「ふーん……レースがそうやって人を頼る何て珍しい、どうやらダーと一緒に居て影響受けたとか?あれかぁ?同棲するカップルはお互いに影響受けるって言うもんなぁ」
「ぼく達はそういう関係じゃないって分かってるよね?……それにダートにもそういう気持ちは無いだろうし好意が無い相手をネタにしてそういうのされると、ぼくは良いけど彼女は嫌な気持ちになると思うし、そんな気持ちにさせたくないから止めてくれる?」
「んな事無いと思うんけどなぁ……まぁ、あんたがそういうなら止めるはごめんねー」

 正直コルクがこうやって直ぐにふざけて来るのはどうかと思うし、ダートはまだ15歳で色んな意味で多感な時期だ。
ぼくがそれ位の時とかそういう話題を振られると勘違いしたりしてしまった事もあるし特にこういう距離感で来る人と一緒に暮らしていて好意を持たないという方が無理だった。
今はそういう対象としては全く持って見れないけど、ダートはまだそういう色んな影響を受けやすい時期だと思うから距離感は守ってあげるべきだと思う。

「……そういえばダートと遊びに来たんだと思うんだけど大丈夫なの?」
「ん?今日は違うんよ……ほら開拓に同行する手前あんたらとの連携に対して色々と話そ思うてな?そしたらレースは寝てるし、うちはケイっていううっさいのとやり合う事になるし散々やわ」
「……やり合うって何したの?」
「あぁ、それは今から説明するから待っときー」

 そう言うと身振り手振りで状況を説明しながら言葉で内容を補足して行く。
何というべきかどうしてぼくが寝ている間にこんな事をしているのだろうか、問題を起こす位なら起こしてくれて良かったのに……

「話は分かったけど、ダートに暗示の魔術を使わせたんだね」
「そこはほんまにごめん!」

 あの魔術は便利そうに見えるけど、自分を塗り替えて上書きして行くという事は精神面に影響を受けて行く。
人によってはそういう負担が少ない人もいるけれど、彼女の性格的には難しいんじゃないかと思う。
ぼくが知っている症状だと何度も使っているうちに自分自身を外部から見ている感覚になり身体が自分の意志とは違い勝手に動いてしまったり、心の中に別の人格が生まれてしまうという例や、使っている間に状況に精神が適応して上書きした部分と混ざる事がある。
混ざる分には正直問題はないけれど前者二つになると心配だから何とかしてあげたい。

「……過ぎた事なのでいいけど、次から気を付けてよ?」
「そうするわ……レースもしっかりと嫁さんを支えて行かんとな?って痛いって腕を抓るのやめーや!あんた等うちの身体を何だと思っとんの!?」
「ふざけだして止まらなかったら実力行使しかないよね?……でも以外だねダートも同じ事したんだ」
「あんたほんと、うちが言うのもあれだけどな?……異性が無意識に相手と同じ事をするって意味しっかりと理解して上げた方がええと思うよ?」

 理解した方が良いって一緒に暮らしてる以上は影響を受けて当然だろう。
コルクは何が言いたいのかたまに分からなくなる時がある。
彼女を見てどうしたものかと考えていると部屋のドアをノックする音がしてダートが入って来た。

「レース、お夕飯が出来たから一緒に食べよう?」
「もうそんな時間なの?……最近作って貰ってばかりでごめんね」
「気にしないで?新しい術の開発で忙しいんでしょ?そういう時は私がやるから集中してていいよ?……それで出来そうなの?」
「それならコルクのおかげで形に出来そうだよ」

 ぼくがコルクの名前を出した瞬間にダートの顔が一瞬にして真顔になった。
また何かしてしまったのだろうか……、だって起きた時に書いてあった文章然りあの流れだとコルクが読んで書き足してくれたのだと思うしそれで間違いない筈だ。
コルクの顔を見ると頬を引きつらせて【あ、こいつまたやりやがったな?】と目で訴えかけてくる……ぼくがいったい何をしたというのか。

「へぇ……良かったね。とりあえず冷める前に食べよう?コーちゃんも今日は遅いし泊まってお喋りしよう?」
「せ、せやな?それなら迷惑でないなら泊まらせて貰うわ……ところでシェフ!今日の料理は?」
「ミガスっていうお肉と野菜、細かくしちぎったパンを炒めた物でレースはこれが大好きみたいなの」
「そかぁ、たっ楽しみやねぇ。皆で行ってゆっくり食べようや」

……そうして3人で夕食を取ることになったのだけれど、食事中はあんまり喋らないダートが今日はいつも以上に話しかけて来る。
そんな彼女に違和感を覚えながらも楽しい時間を過ごして食事を終えると落ち着いて当日の動きを話し合った結果、何か問題が起きた場合はコルクの指示に従い動く事にして解散した。
コルクは何処で寝るのだろうと思ったけどどうやらダートと一緒の部屋で寝るらしい、ぼくは新術の形は見えたから程々の所で切り上げて今晩はゆっくりと寝る事が出来たのだった。
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