上 下
69 / 493
第二章 開拓同行願い

11話 闇渡り ダート視点

しおりを挟む
 レースが寝てから改めて彼が纏めた新術の資料を見てみる。
考えは悪くないと思うけれどどうして新しい術の開発をしているのだろう?
理由は分からないけど彼が頑張っているのなら応援してあげたい。

「んー……治癒術は専門じゃないけど論点は間違えてないと思うのよね」

 彼は途中で意識が殆んど無かったから聞こえて無かったと思うけど、肉体の速度全体を上げるよりも一部を早くしたり遅くする事が出来れば充分に実用性があると思う。
例えば似たような事で風属性の魔術を使う魔術師なんだけど彼等は自分の動きを魔術で加速させたり遅くさせたりしているらしくて原理を教えて貰った事があるから理屈は分かるのだけれど……私には使う事が出来なかった。

「確か魔力で疑似的な翼を作って空気を取り込み加速させて体の動きを早くしたり遅くするって言ってたけど……それに何度もやると関節や筋肉を傷めて動かせなくなるんだっけ」

 人の身体で何度も加速と減速を繰り返すと肉体を痛めてしまうのは理解出来てるけど、どうしてそうなるのか私には今も分からない。
空を飛べるモンスターは加速と減速を巧みに使い分けて尚且つ体に負担が全く掛からないって言うけどそういう所理不尽だと思う。
でもその感覚を意図的にずらす事が出来れば……?例えば腕を早く動かそうとした時に動きを原則させる事が出来るなら体の負担は大きくなりそうだと思うし、逆に遅く動かそうとしてる時に加速させればどんなに強靭な肉体を持つ生物でも動きを封じる事が出来ると思うけどその為にはどうすればいいのかな……

「ダメね……幾ら考えても理屈は分かってもそれがどうすれば形になるのか分からない」

 でもレースが起きたらまた新術の開発に掛かり切りになって出て来なくなってしまうと思うし……そうなると話したい事があっても話せない時間が増えてしまう。
それは寂しいし嫌なので私が分かる範囲で空いてる部分に書いておく事にしてこの三日間私を蔑ろにした事を後悔させてあげようかな……一人で悩んでばっかりで私やコーちゃんを頼ってくれない罰を受けて貰わないとね。

「それにこの前村から私を背負って帰ってくれたおかげで……今でもコーちゃん達に弄られて恥ずかしんだから……」

 あの日以来村に行く度に、村の小さい子にはレースにおんぶされて帰ったお姉ちゃんと呼ばれるし……コーちゃんには【あの時私の家で何があったん?ベッドのシーツ乱れてたけど何やったのかお姉ちゃんに言うてみ?怒らへんよー……んな怖い顔せんでええやんっ!冗談やって!それに酒場行く振りして直ぐに戻って見てたからうちは全部知って……痛いって!テーブルの上にある物投げんのやめーや!ほんとごめん!やりすぎたって!このとーり謝るからぁ!】と凄い勢いで虐められて、大人げないと思ったけど手元にある物を全部投げつけてしまった。
流石にやり過ぎだと思われたみたいで、マローネおばさまに止められてお説教をされてしまったけど……どうせ止められるなら一回位殴ってしまっても良かったと思う。

「……とりあえずこんな感じで良いかな」

 とりあえず私が分かる範囲では空いてる所に書き込んで置いたけど分かってくれたらいいなと思ってしまう。
私の勝手な気持ちなのだけれど言わなくても分かって欲しいと思ってしまう所があって……勿論言わなきゃ分からないというのは分かっているけど、ここまでした以上は分かって欲しいなって気持ちになってしまったりする。
こう言う所めんどくさいなって思うし、性格を変えてる時の私なら堂々と言ってしまえるんだろうけど……正直に伝えて嫌な気持ちにさせたらやだなって思って尻ごみをしまってどうすればいいのか分からない。
あっ……そういえばお母様はこういう時【自分の気持ちは伝えないと伝わらないし、大事な事程しっかりと相手に言いなさい】って良く私に言ってくれてたっけ、懐かしいな……確かあの時は体調が悪いのに魔術の勉強に行って倒れて凄い怒られたんだよね。

「やっぱり……しっかりと伝えようかな」

 でも二日も寝てなかったからいつ起きるか分からないし……その間一人で待ってるのも暇でやだなって思う。
かといってこの状態のレースを置いて村に行くのも悪いしどうすればいいかなって悩んでいると玄関のドアを勢いよく叩く音がする。

「せんせぇ!ケイっす!この前の奴で話に来ましたぁっ!」

 寝たばかりのレースを起こしたくないし今は休ませてあげたい。
私は急いで玄関に向かってドアを開けるとケイさんに向かって話しかけた。

「今レースはお休みしてるので静かにして貰えませんか?」
「まじっすかぁ……寝てるんすねぇ……じゃあ泥霧で良いっす!」
「あの……静かにして欲しいって言いましたよね?」
「……ごめんっす」

 黒い髪にセピアの瞳をした元気な大剣を持った男性が申し訳なさそうに頭を下げる。
謝る位なら最初から大声出さなければいいのに……この前一緒に居たアキさんの反応を見る限り本当に面倒がかかる人なんだなって思う。

「寝てるって事は外で話した方が良いと思うんで近くで話した方が良いっすよね……ほら俺って声でかいから……」
「あっ……そういうお気遣い出来る人なんですね」
「アキ先輩みたいな事言わないって欲しいっすよ……んじゃ行くっすよ?」

 ケイさんはそういうと家から少し離れた場所に立って手を振る。
ここで話そうって言う事みたいだけど略初対面の人と無防備で二人は嫌だな……魔術をいつでも使えるように準備しておこう。

「……闇がある場所が全部俺の射程だからそんな事したら駄目っすよ」
「ひっ!」

 遠くにいた筈の彼が私の後ろに立って大剣を構えて武器に魔力を込めている。
いったい何時この距離を縮めたのか見えなかった……大剣という重い武器を持つ以上そんな早く動けない筈なのにどうやったのか分からない。

「俺の魔術で闇渡りっていう術っす。影等に自身を同化させて闇と闇の間を移動する術っすね……。警戒するのわかるっすけどやるなら殺気を隠さなきゃ駄目っすよ……」
「ご、ごめんなさい……」
「なぁんか調子狂うっすねぇ……俺達の知ってる泥霧ってもっと攻撃的な筈だったんすけど……、もしかして戦いになるとスイッチ変わるタイプ?」
「えっえぇ……そうですね」

 本来は魔力を使う魔術や治癒術と武器や肉体に魔力を流して使う武術は同時に使えない筈なのに同じタイミングで発動している。
そう言えば……栄花では魔術や治癒術と武器の使用を同時にする特殊な戦闘技術とそこから発展した心器という特殊な技があると聞いた事があるけど……これがそれなのかもしれない。
そうなるとどう見ても相手の方が私よりも格上で、抵抗しよう物なら即座に取り押さえられるだろう。
私が警戒して魔術の準備をしなければ対等な立場で会話出来ていた筈なのに、この状況ではどう見ても相手の方が立場が上になってしまっていて……話の内容次第では断る事が出来なくなってしまった……これはどう見ても私の失敗だ。

「って事で話なんすけど、誰が来るか決まったんすか?アキ先輩からそれを聞いて来てくれって言われたんすけど」
「それなら……私とレースのお友達であるコルクさんにお願いしてついて来てくれる事になってます」
「コルク……?コルクっすか……もしかして商国トレーディアスのクラウズ伯爵領冒険者ギルド所属だった元冒険者【幻鏡の刃】ミント・コルト・クラウズ?」

 コルクさんの名前を言っただけでどうしてそこまで分かるのだろう。
しかも別の国の冒険者?……でも名前が違うのにどうして?

「何でもコルクって名前に変えてこの国で消息を絶ったって事で……お仲間さんが探してたんっすよ……へぇこんなとこに居たんすね」
「そうやけど……あんたうちの友達に何してんの?遊びに来たらダーが脅されてて気に入らないんだけど?」

……私を助けようとしてくれたのかコーちゃんが短剣を引き抜いて飛び掛かりそれを大剣で防いだ甲高い音がする。
後ろで大剣を構えて立っているケイさんをを見て私が悪漢に襲われているように見えてしまったのだと思う。
元はと言えば私の行動が原因だから止めたいけれど今の私ではそれが出来ない……ケイさんの意識がコーちゃんに向いている間に魔術を使い自分を上書きして冒険者の私に書き換えて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部妖狐
ファンタジー
遥か遠い昔、お伽噺になり人々に伝えられる大きな戦いがあった。 その時を生きた存在が、永い眠りから目覚めた後に眼に映る世界は……、全てが変わり果てた平和な時代。 彼は再び動き出した時間の中でどう生きるのか。 今新しい冒険が始まる。 治癒術師の非日常の本編前の時間軸の物語 更新頻度:更新頻度:読者様がいない為2024年4月以降不定期更新 目覚めた翼は新たな時代を生きる……

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

処理中です...