上 下
35 / 76
第一章 死んだらそこは異世界でした

30話 幽霊さんと料理

しおりを挟む
 あの後何で屋根に乗って布を巻いたのか聞いてたら……

「ん?あぁ……、これは俺がこの家にいる時に付けるようにしてるんだ、そうすれば俺に挑みたい奴がどんどん来るだろうし、そいつらから金を巻き上げれば上手いもんを沢山食べれるだろ?」

 なんていうか考え方が乱暴だなぁって……、でもそういう所がゼンさんらしくて少しだけ安心してしまう。
けど問題はその後で、頑張って屋根に上ったのはいいけどそのまま降りれなくなってしまって、ゼンさんに抱きかかえられながら降りる事になってしまった。
そして今はというと……

「えっとゼンさん?この家って料理は何処ですればいいの?」
「ん?あぁ……そういや台所とかなかったなこの家」
「それってアンデッドの人はどうやってご飯を用意してくれてたの?」
「そういや気づいたら庭に石で作った釜戸が出来てたな……、そこでやってたんじゃないか?」
「……ちょっと見て来るね?」

 家の外に幽霊が作った釜戸って……何か曰くつき物件なのに一生懸命働いてくれてるみたいで怖がっちゃったのが申し訳ない気がするかも。
とりあえずゼンさんを二階に残して、家を出て周囲を見渡してみると確かに石で出来た釜戸があって周囲を木材で囲って天井にもちゃんと板が貼ってあって立派な作りをしていてびっくりしちゃう。
それに……直ぐ使えるように薪もあるし、調理場っぽいところには多分幽霊さんがいつも変えてるんだと思うけど新鮮な水に、素人の私でも分かる位に良く手入れされている包丁がおいてあって……

「ゼンさんが帰って来たら直ぐご飯出せるようにおいてあるんだねぇ……、ってえぇ!?」

 少し離れた所にある小屋、あれがお風呂とトイレなのかもしれないけど……そこから妙に体付きの良い時代劇に出て来るような、半透明なお侍さんが出て来たかと思うとそのまま地面の一部を持ち上げて地下へと潜って行くのが見えて……

「……もしかして幽霊さん!?」

 幽霊さんを見るのが初めてだから、驚いて釜戸の後ろに隠れちゃったけど……暫くして地下から凍ったお肉と野菜を両手に持った幽霊さんが私の所に来て、釜戸に薪を入れて火をつけると鍋水を入れお湯を沸かし始める。
そして調理場のまな板の上に食材を置くと、包丁を手に持ち……ゆっくりと首だけが私の方に向いて……

「こ、ここ、こここ」

 目があってしまった。
眼球のない落ちくぼんだ顔がこっちを向いている……。
でもおかしいな、ゼンさんが言うには首が無いアンデッドらしいんだけど、目の前にいるお侍の幽霊さんには首があって、しかも近づかれるまで分からなかったけど微かに、胸に膨らみがあるのが見えて……

「こ、こっちにこいって事?」

 何故か私の方を見て手招きをしてくる。
恐る恐る隠れていた場所から出て近づいて見ると、包丁を手に取って私に差し出して来た。

「もしかして私に料理を教えてくれるの?」

 無言で頷いたから包丁を受け取ったらと身振り手振りで教えようとしてくれるけど……何も分からない。
だからとりあえずお肉と野菜を適当に切って鍋の中に入れると……

「そんなどうして!?みたいな顔されてもね?、何を言ってるから分からないから教えらても分からないよ?」

 何やら絶望したような顔をされたけど、調理場にある調味料を入れて味を調えながら適当においしいだろうなぁって感じるスープを作っていく。
その間も隣で、そうじゃないとか違うこれはこう!っていうようなジェスチャーをしてくるけど、全然何をして欲しいのか分からないから無視する。
でも……多分ゼンさんの好きそうな味付けを教えてくれようとしてるんだろうけど、あの人は美味しく食べられれば気にしないだろうから、時間を掛けて美味しい料理をするよりはさっと作ってぱっと終わる、そんなので十分なんだけどね。
あれ?、なんかこういう私この人の事を分かってるムーブって奥さんみたいで面白いかもって事は、この幽霊さんが姑役で私が新妻役?あれ?なんかそれって良いかも……。

「ふへ、ふへへ……ひひ」

 幽霊さんが何やら凄い顔をしたかと思うと、首から上が体から落ちて何処かへと転がってしまう。
驚いて思わず妄想が止まってしまうけど……、それのおかげでゼンさんが首の無いアンデッドと言ってた理由が分かった気がする。
着脱式だったみたい、多分ゼンさんに首を切られて死んだから取り外しが可能になってのかも?だってこの世界は剣と魔法があるファンタジーだし、そんな事があってもおかしくない筈だよね。

「と、とりあえずご飯出来たから持っていこうかな」

……完成したスープをそのまま持とうとすると、首のない体が焦ったように何故か腕を掴んでくる。
ひんやりしてて気持ち良いけどどうしたんだろう?、とりあえず気にしないで両手で鍋を持って移動するけど……これ位なら別に熱くも無いから気にする必要何て無いのに変な幽霊さんだなぁって思いながら、お腹を空かせて待っているゼンさんの元へと戻るのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ
ファンタジー
大陸の端に存在する小国、ボーンネル。 バラバラとなったこの国で少女ジンは多くの仲間とともに建物を建て、新たな仲間を集め、国を立て直す。 そして同時にジンを中心にして世界の歯車は動き出そうとしていた。 これはいずれ一国の王となる少女の物語。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

【完結】暁の荒野

Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。 いつしか周囲は朱から白銀染まった。 西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。 スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。 謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。 Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。 Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。 キャラクターイラスト:はちれお様 ===== 別で投稿している「暁の草原」と連動しています。 どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。 面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ! ※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。 ===== この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...