魔王様のやり直し

過去に遡って……

20話

　どれくらい寝ていたのか、気が付いたらステラが帰って来ていたみたいでアーロと何か話している声が聞こえる。

「あなた本気なの？その歳でモンスターの討伐に出たいなんて」
「本気だよ、マリス様の護衛になる為に直にでも強くなりたいんだ！」
「応援してあげたいけど、パパやお兄ちゃんは心配するわよ？」
「ちゃんと畑仕事手伝って身体鍛えるし、やる事はこれからやるよ」

　いったい私が寝ている間に何があったのか。
未成年なのにモンスターを倒すのに同行したいなんて……子供何だから今しか出来ない事をすればいいのに、いや私が言っても説得力がない？、でも実年齢はやり直す前も含めたらかなりの年齢だし別にいいんじゃないかな。
それに戦い方も知らない状態でモンスターに立ち向かうよりも、まずは町長さんの所で訓練を受けた方がいいと思う。
でもここでそんな事を言ったら直にでも行ってしまいそうだから、こんな時は……

「ステラ、帰ってきたの？」
「あ……、マリスお嬢様、目を覚ましたんですね」
「うん、えっと私どれくらい寝てたの？」
「大体1時間程だと思いますよ？」
「そう……」

　とりあえず話の流れを変える事は出来たと思う。
後はえっと……

「ステラ、私の着替えは何処？」
「それなら……アーロ！あなたは暫く後ろを向いてるか目を閉じてなさい！マリスお嬢様の着替えを絶対に見ないように！」
「分かってるよ！」

　アーロの声が聞こたかと思うと、椅子から立ち上がるような音がして何処かへと行ってしまう。
多分……私の着替えを見ないように気を使ってくれたのかもしれない。

「では、ベッドから起き上がって頂いても宜しいですか？」
「あ、うん……ふふ、こうやってステラにお世話してもらうの久しぶりで嬉しいわ」
「私もです、私がお屋敷を去ってからずっとあの頃を思い出しては……元気にしておられるのか心配しておりました」
「私もよ？けど……元気そうで安心したわ、お忍びで会いに来て良かった」

　話しながらベッドから起き上がると、ステラが持ってきてくれた平民の女の子の服を着させて貰う。
所々手直しされているのか、破けたりしたところが丁寧に縫われている上着と膝までしかないスカート。
ズボンを履いている時はこういう物なのかなって思っていたけど、スカートになっただけで少しだけ脚を出してしまう事に恥ずかしさを覚えてしまう辺り、何だか複雑な感じになる。

「……少し恥ずかしいかも」
「すいませんマリスお嬢様、平民は服を何着も持つ事が出来ないのでこうやって古くなった物を手直ししたりするしかないのです」
「それは……うん、分かってるけどスカートの丈が短くて恥ずかしいわ、ステラみたいに長い物は無いの？」
「平民の女性は子供の頃、皆同じような服を着ているので我慢していただくしか……」
「そう、なら我慢するしかないわね、無理を言ってごめんなさい」

　子供のスカートが短いのは、平民の中では当たり前の事……それなら我が儘を言うよりも合わせた方がいい。
だって貴族としての常識と彼らの常識は違うのは当然だと思うし、お忍びで身分を隠して出て来た私が口を出すような物ではない筈。
それに私が将来、婿養子を迎え入れてこの領地を治めるようになった際に……彼らの生活や一般的な常識を知らないより、こうやって実際に経験して学んでおいた方がいいと思う。

「いえ……私こそ尋ねて来てくださったのに、おもてなしが出来ずに申し訳ございません」
「それに関しは問題無いわ、だって今の私は身分を隠してお忍びで出て来ているのだもの、むしろ先に人を寄越して来訪を伝えず急に訪ねて来た私の方に問題があるもの」
「そんな……マリス様が謝罪なさるような事は……いえ、わかりました」
「えぇ、それでいいのステラ、ところで今日は時間の方は大丈夫なのかしら？一応日帰りでのお忍びだから、迎えが来るまでしか入れないけど……」
「申し訳ないのですが、私はこの後仕事でまた家を出なければ行けないので……」

　ステラが申し訳なさそうな顔をして頭を下げるけど、これに関してはしょうがない。
それならどうやって迎えが来るまで時間を潰せばいいのか、何処に何があるのかも分からない場所で一人でいるのは危ないと思うし……。

「えっと……それなら私どうしようかしら」
「でしたらアーロと二人で町を観光するのは如何ですか？」
「アーロと？」
「えぇ、成人した際に護衛としてマリスお嬢様に仕える事になるのでしたら、今のうちに行動を共にして、誰を命を賭して守る事になるのかを自覚させるべきだと思いますので」
「そう？ならアーロと二人で町を観光するわね」
　
　私が返事をすると、ステラが何処かに行ってしまったアーロを迎えに行く。
それにしても……この服装でアーロと二人きりになると思うと、何だか少しだけ恥ずかしい。
少し前に脱がされた事が原因だと思うし、貴族に対して責任を取って夫婦になるとかありえない事を言っていたせいだろう。
けど、ステラが言うように将来私の護衛となるのなら誰に仕えるのか、私に仕えるという事はどういう事なのか、それをはっきりとさせた方がいいと思う。
そんな事を考えながら二人が戻って来るのを待っていた。