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極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー

極道とウサギの甘いその後4-12

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「湊」

 寝室に入るなり熱っぽく呼ばれたかと思うと、後ろから抱き締められてうなじにキスをされた。
 待ちきれないというように求められるのが嬉しいのに、そのまま布団に押し倒されると昨夜のことを思い出してしまい、困惑する。
 怖い、なんて感じたくないのに。
 己の心がコントロールできず身体も強張り、湊は叫んでいた。

「あっ…ま、待って……待って、竜次郎っ!」

 思ったよりも切羽詰まった声が出てしまい、驚いたのか竜次郎は動きを止める。
「……湊?」
 体を離すと慎重な動作で湊を起こし、怪訝な表情で覗き込んできた。
「っ……ごめ……あの、」
 拒絶したかったわけではないのに。
 自分でも「どうして」という気持ちで、困り果てて首を振る。
 何でもないから続きをしてほしいという言葉が何故か言えなくておろおろしていると、竜次郎ははっと顔を上げた。

「もしかして昨夜、俺は酔ったままお前になんかしたのか」

 真剣に問いかけられて、湊は返答に窮する。
「竜次郎……、帰ってきたときのこと、覚えてるの?」
 帰りの車中で何も言われなかったから覚えていないのかと思ったが、思い当たることがあるのだろうか。
 聞き返すと、ぐっと竜次郎の男らしい眉が寄った。
「………………いや、ほとんど覚えてねえが……お前の夢を見てたから、実際なんかしたんじゃねえかって……」

 されたというほどのことは何もされていない。
 それに、竜次郎になら何をされてもいいと……思ってはいる。
 怖い、などと感じてしまうのは湊が弱いせいだ。
 正直に伝えれば竜次郎は気にしてしまうだろうと思うと、できれば言いたくない。
 なんでもないと誤魔化してしまいたかった。

 怖気付きそうになったが、湊を気遣ってくれる竜次郎を前にして、逃げてはいけないのだということを思い出し、ギリギリのところで踏みとどまる。

 湊は震える唇を開いた。
「すぐ寝ちゃったから何もしてないけど……、いつもと違ったから、俺が勝手に……こ、怖くなっちゃって」
「!」
 揺らいだ瞳で、竜次郎がショックを受けたのが分かった。
 そんな表情を見ると、湊の胸も苦しくなる。
「あのっ、でも、俺が、」
 俺が悪いから、竜次郎はそんな顔をしなくていい……、

 そう伝えようとしたのを遮るように、大きな手が伸びてきて、犬にでもするようにぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜた。

「りゅ……、竜次郎?」
 何故撫でられてのかわからず、恐る恐る見上げる。
 竜次郎は、苦い顔で、だが笑っていた。
「ちゃんと言ってくれてありがとうな」
「え……」
「本当は黙っておきたかったんだろ。俺のために」

 言い当てられて、湊は目を瞠る。
 竜次郎は、ちゃんとわかってくれていた。
「どうせお前は自分が悪いとか思ってるんだろうが、お前は今まで怖い目に遭ってきてんだから、そんな風に思うときがあっていいんだよ。むしろ、初めてのときに何の抵抗がなかったのも不思議なくらいだ」
「あの時は……竜次郎が、優しくしてくれたから」
「じゃあ昨夜は、お前が怖くなるくらいの襲い掛かり方をしちまったんだな。本当に悪かった」
 頭を下げられてしまったが、謝ることなど何もないと、首を横に振る。

 竜次郎が泥酔して帰ってきたことなど昨夜が初めてで、だからこそ驚いてしまったのだが、周囲の人々の様子を見るにむしろそういうことがもっと頻繁にあってもおかしくない環境のはずだ。
 では何故初めてだったかと言えば、それは竜次郎が常に湊に多大なる気を遣ってくれているからで、そのせいで付き合いなど犠牲にしているものはたくさんあるのではないか。
 一応、組の人達は『姐さん』なんて言ってくれているのだから、お酒の付き合いには快く送り出して、泥酔して帰ってきたらきちんと介抱しなければと思う。
 だから湊は、自分の方が悪いと思っている……が、恐らくその議論は平行線になるだろう。

「じゃあ、竜次郎が酔っぱらって帰ってきたことと、俺が勝手に怖くなっちゃったことで、おあいこね」

 妥協点かと思ったのだが、竜次郎は何故か脱力した。
「お前な……。全然重さが違う気がするんだが……」
「そんなこと、ないと思うけど。俺、もっと頑張るからね」
「ったく……まあ、お前がいいならいいか」
 竜次郎に頭を撫でられ、湊はじわりと笑顔になる。
 勇気を出して正直に話してよかった。
 これから先、同じようなことがったとしても、竜次郎と一緒ならば大丈夫だと素直に思える。

「……あっ、もしかして、触ったら嫌だったか?」
 黙っていたので誤解させてしまったのか。ぱっと手を離し、お前が平気になるまで何もしねえ、とホールドアップする竜次郎がなんだか可笑しくて、湊は笑ってしまった。
「ありがとう、竜次郎。もう大丈夫だから、続き……する?」
「無理しなくていいんだぞ。お前が嫌だっつったら一生しなくても」
「本当に?」
 被せるようにして聞き返すと、竜次郎はぐぐっと眉を寄せて目を閉じた。
「……………………おう」
 苦悶の表情だ。
 ……だが、もしも本当に湊がそれを望めば、竜次郎は叶えてくれるのだろう。
 それを知っているから、湊は安心して竜次郎のそばにいることができる。
「でもそれは、俺が寂しいから、続きをしてくれたら嬉しい。顔見ながら、優しくしてくれたら、たぶん平気だから」

 もう大丈夫だと示すように、湊はそっと竜次郎の方へ体を寄せた。
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