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極道とウサギの甘いその後+サイドストーリー
極道とウサギの甘いその後3−5
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『グッドラック』と力強いサムズアップで送り出されて、湊は一人フロアへと足を踏み出した。
八重崎は一人で大丈夫なのだろうか。
心配になって振り返ると、背中のバッグの中からファーのついた扇子のようなものを取り出して周囲から微妙に引かれている。
……八重崎なら大丈夫だろう。きっと。
とりあえずターゲットに近付いておこうかと『ショー』の方へ足を向けたのだが。
「あ、ねえ、君」
……と、客の一人に呼び止められて、つい足を止めると、瞬く間に数人に囲まれてしまった。
「初めて見るよね、名前は?」
「さ……桜子です」
「なんか見ないタイプ。新鮮」
「かわいいよね。こっち来て一緒に飲まない?」
「あ、あの……」
矢継ぎ早に話しかけられ、困ったな、と眉を下げた。
迷惑だとは思うが、クラブといえば出会いの場でもあり、彼らはこの場にふさわしい振る舞いをしているだけだ。
はっきりと断るべきか、常連のように見えるので、このクラブの裏の顔について少し探りをいれてみるべきか。
ただ、一人ならいいが、複数というのは少し怖い。集団心理の恐ろしさを身をもって知っている湊は、意識せずにじり、と後退した。
「こらこら、戸惑っている子を強引に誘わない」
後ずさった湊を抱き留めるように両肩をつかんだ男は、『ショー』であった。
湊を囲んでいた男たちからブーイングが飛ぶ。
「えー、ずるいですよ、ショーさん」
「一応オーナーですから。不純異性交遊は見逃せないな」
「またあ…。ショーさんが言うとマジで白々しいですって」
「どういう意味だ、それ」
客を軽くあしらった『ショー』は、おいで、と湊の腕を引いた。
連れていかれたのは、化粧室ではなく、バックヤードのような部屋だ。
一応、思惑通りの展開ではあるのだが、計画よりも奥まった場所に連れ込まれてしまった。
不安が脳裏をよぎるが、帰り道のことは今は置いておこう。
相手は恐らく湊を女性だと思っているから、抵抗すれば逃げきれる可能性は高いはずだ。
スプリングがだいぶ悪くなっている古そうなソファに座るように言われ、浅く腰かけた。
「あの……ここ、私が入ってきて…いいんですか?」
「俺に用があったんでしょ?さっき、心細そうな顔して探してた」
……少し誇張されている部分はあるが、確かに、彼の姿を探してはいた。
湊は、自分ではそんなつもりはないのだが、どうも『寂しそう』『心細そう』に見えるようだ。
確かに竜次郎の不在には弱いが、適応能力や判断力は人並みにはある。
今も心細さを演出するように落ち着きないふりをして、バッグの中のレコーダーのスイッチをいれるくらいの余裕はあった。
隣に座る『ショー』が湊の手を握り、ぐっと顔を近づけてくる。
近い。
話をするのに適切な距離と思えないというのもそうだが、あまり近付かれると性別がバレそうで怖い。
「リカの紹介ってことは……もしかして、俺に個人的なお願いとかある?」
「それは………、あの……でも、」
「心配しないで。誰にも言わないし、俺はそういう子が元気出るように少しだけお手伝いしたいだけだからさ」
恋人に放っておかれる寂しさに耐えきれず、ドラッグを売りつけるようなクラブに来てしまった箱入りの桜子は、こんな時どんな風に答えるだろう。
「私、寂しくて……。でも、変な薬……とかは」
「リカも言ってたと思うけど、俺が持ってるのはサプリメントみたいなものだよ。楽しくなれるし、痩せたって子もいるくらいだから」
常套句だが、それでも廃れていないのは、騙されてしまう若い人間が多いからだろう。
『ショー』は懐から取り出したものを湊に振って見せた。
「試しに今これ飲んで、もう一度踊りに行ってみない?」
八重崎は一人で大丈夫なのだろうか。
心配になって振り返ると、背中のバッグの中からファーのついた扇子のようなものを取り出して周囲から微妙に引かれている。
……八重崎なら大丈夫だろう。きっと。
とりあえずターゲットに近付いておこうかと『ショー』の方へ足を向けたのだが。
「あ、ねえ、君」
……と、客の一人に呼び止められて、つい足を止めると、瞬く間に数人に囲まれてしまった。
「初めて見るよね、名前は?」
「さ……桜子です」
「なんか見ないタイプ。新鮮」
「かわいいよね。こっち来て一緒に飲まない?」
「あ、あの……」
矢継ぎ早に話しかけられ、困ったな、と眉を下げた。
迷惑だとは思うが、クラブといえば出会いの場でもあり、彼らはこの場にふさわしい振る舞いをしているだけだ。
はっきりと断るべきか、常連のように見えるので、このクラブの裏の顔について少し探りをいれてみるべきか。
ただ、一人ならいいが、複数というのは少し怖い。集団心理の恐ろしさを身をもって知っている湊は、意識せずにじり、と後退した。
「こらこら、戸惑っている子を強引に誘わない」
後ずさった湊を抱き留めるように両肩をつかんだ男は、『ショー』であった。
湊を囲んでいた男たちからブーイングが飛ぶ。
「えー、ずるいですよ、ショーさん」
「一応オーナーですから。不純異性交遊は見逃せないな」
「またあ…。ショーさんが言うとマジで白々しいですって」
「どういう意味だ、それ」
客を軽くあしらった『ショー』は、おいで、と湊の腕を引いた。
連れていかれたのは、化粧室ではなく、バックヤードのような部屋だ。
一応、思惑通りの展開ではあるのだが、計画よりも奥まった場所に連れ込まれてしまった。
不安が脳裏をよぎるが、帰り道のことは今は置いておこう。
相手は恐らく湊を女性だと思っているから、抵抗すれば逃げきれる可能性は高いはずだ。
スプリングがだいぶ悪くなっている古そうなソファに座るように言われ、浅く腰かけた。
「あの……ここ、私が入ってきて…いいんですか?」
「俺に用があったんでしょ?さっき、心細そうな顔して探してた」
……少し誇張されている部分はあるが、確かに、彼の姿を探してはいた。
湊は、自分ではそんなつもりはないのだが、どうも『寂しそう』『心細そう』に見えるようだ。
確かに竜次郎の不在には弱いが、適応能力や判断力は人並みにはある。
今も心細さを演出するように落ち着きないふりをして、バッグの中のレコーダーのスイッチをいれるくらいの余裕はあった。
隣に座る『ショー』が湊の手を握り、ぐっと顔を近づけてくる。
近い。
話をするのに適切な距離と思えないというのもそうだが、あまり近付かれると性別がバレそうで怖い。
「リカの紹介ってことは……もしかして、俺に個人的なお願いとかある?」
「それは………、あの……でも、」
「心配しないで。誰にも言わないし、俺はそういう子が元気出るように少しだけお手伝いしたいだけだからさ」
恋人に放っておかれる寂しさに耐えきれず、ドラッグを売りつけるようなクラブに来てしまった箱入りの桜子は、こんな時どんな風に答えるだろう。
「私、寂しくて……。でも、変な薬……とかは」
「リカも言ってたと思うけど、俺が持ってるのはサプリメントみたいなものだよ。楽しくなれるし、痩せたって子もいるくらいだから」
常套句だが、それでも廃れていないのは、騙されてしまう若い人間が多いからだろう。
『ショー』は懐から取り出したものを湊に振って見せた。
「試しに今これ飲んで、もう一度踊りに行ってみない?」
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