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不器用な初恋のその後
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今日は、楽しみにしていたクリスマスイブだ。
ましろが店にこの日の休暇を願い出たことで、思わぬ長い冬休みとなってしまい、仕事に精を出す予定だったらしい碧井には申し訳のないことをしてしまったけれど、いつもよりたくさん天王寺のそばにいられると思うと、つい心が弾んでしまう。
平日なので天王寺はまだ仕事から戻ってこないが、家に来てもいいと言われていたので、早めにお邪魔させてもらい、ささやかながらクリスマスらしい料理なども用意した。
シロはましろがキッチンに立っている時に一度餌をねだるような素振りを見せたが、あげていいものかどうか悩んでいると、「そういえばこいつは餌係ではなかった」と気付いたのかすぐに引き返し、それ以降は我関せずといった様子で、ソファで丸くなって眠っている。
シロの手のかからなさに甘えて、ましろはラッピング用にと木凪から貰ったリボンを手に寝室に移動した。
不器用なましろは、もちろんリボンを結ぶのも苦手だ。
この後……食後などに「少し待っていて欲しい」と離席して、さっと要領よく己をラッピングして再登場するような、そんな器用な真似は出来そうもない。
だから予め結んでおく方がいいと思うのだが、そもそも本当にこんなことがプレゼントになるのだろうか。
頭のいい木凪が間違ったことを言うとは思えないが、自分がプレゼントだなんて、天王寺を呆れさせたり不快にさせたりしないだろうかと不安だった。
だが、結局他のものは思い付かず用意できなかったので、もうこれでいくしかない。
ひとまず、手近にあったスマホに巻き付けたりして練習してみたが、人体に結ぶのとはまた違うだろう。
とりあえずやってみるしかないかと、意を決してズボンを下ろした。
眼下にあるのは見慣れた自分の下半身……ではあるものの、これまで意識して観察したことはない。
小柄というほどでもないのにどことなく子供っぽさのある体型にコンプレックスがあったため、以前は自分の身体があまり好きではなかったけれど、天王寺に綺麗だと言ってもらえたから、これからは、少しだけ愛せるような気がした。
足の付け根にある、天王寺のつけた痕をそっとなぞると、その時のことを思い出してどきどきしてしまう。
「(ちー様……)」
大好きな恋人のことを頭に浮かべかけて、はっとする。
今は、そんなことを考えている場合ではないのだった。
ましろは邪な方向に傾きかけた軌道を修正した。
リボンを手に取り、木凪に言われた部分に巻き付けてみる。
そこでじっと見た手元に、なんだか違和感を感じて首を傾げた。
「(何か…違うような……?)」
その違和感が何なのかわからず、ましろはひとまず結ぶ練習を続行することにした。
プレゼントなのだから、蝶結びだろう。
かわいいリボンの形を思い描くが、結べたと思うと、かなり歪な形になっている。
上手くいかなくて、インターネットで結び方なども調べてみるが、どうしてもお手本通りにならない。
ましろは眉をハの字にしてリボンを結んでは解いて、を繰り返した。
「……ましろ?」
突然、いるはずのない人の声が聞こえて、びくりと体を揺らす。
ぱっと戸口を見ると、空耳などではなく天王寺本人が立っている。
「え、ち、ちー様……?こ、こんなに早くに」
「大体予定通りだが」
慌てて振り返れば、窓の外はもう暗い。
「えっ、もうこんな時間?」
蝶結びの練習に夢中になり過ぎていたようだ。
時間の経過の速さに驚いていると、天王寺の視線を感じて、自分が今どんな姿でいるのかを思い出した。
「あっ…!こ、これは…その、」
「…俺は何か、まずいところに帰ってきただろうか」
「ち、違…、あの、ええと、」
何か誤魔化そうかと思ったが、こんな事態をなかったことにできるような口八丁のスキルがあれば、ましろの人生は全く別のものになっていただろう。
真っ赤なまま、しばらく「あの」「その」を繰り返したが、これはもう素直に話をする方がいいような気がしてきた。
「ちー様…」
プレゼントを贈る相手にこんなことを頼んで、呆れられたらどうしよう。
ましろは不安になりながらも、上目遣いでお願いをした。
「その、これ…、て、手伝ってください…」
ましろが店にこの日の休暇を願い出たことで、思わぬ長い冬休みとなってしまい、仕事に精を出す予定だったらしい碧井には申し訳のないことをしてしまったけれど、いつもよりたくさん天王寺のそばにいられると思うと、つい心が弾んでしまう。
平日なので天王寺はまだ仕事から戻ってこないが、家に来てもいいと言われていたので、早めにお邪魔させてもらい、ささやかながらクリスマスらしい料理なども用意した。
シロはましろがキッチンに立っている時に一度餌をねだるような素振りを見せたが、あげていいものかどうか悩んでいると、「そういえばこいつは餌係ではなかった」と気付いたのかすぐに引き返し、それ以降は我関せずといった様子で、ソファで丸くなって眠っている。
シロの手のかからなさに甘えて、ましろはラッピング用にと木凪から貰ったリボンを手に寝室に移動した。
不器用なましろは、もちろんリボンを結ぶのも苦手だ。
この後……食後などに「少し待っていて欲しい」と離席して、さっと要領よく己をラッピングして再登場するような、そんな器用な真似は出来そうもない。
だから予め結んでおく方がいいと思うのだが、そもそも本当にこんなことがプレゼントになるのだろうか。
頭のいい木凪が間違ったことを言うとは思えないが、自分がプレゼントだなんて、天王寺を呆れさせたり不快にさせたりしないだろうかと不安だった。
だが、結局他のものは思い付かず用意できなかったので、もうこれでいくしかない。
ひとまず、手近にあったスマホに巻き付けたりして練習してみたが、人体に結ぶのとはまた違うだろう。
とりあえずやってみるしかないかと、意を決してズボンを下ろした。
眼下にあるのは見慣れた自分の下半身……ではあるものの、これまで意識して観察したことはない。
小柄というほどでもないのにどことなく子供っぽさのある体型にコンプレックスがあったため、以前は自分の身体があまり好きではなかったけれど、天王寺に綺麗だと言ってもらえたから、これからは、少しだけ愛せるような気がした。
足の付け根にある、天王寺のつけた痕をそっとなぞると、その時のことを思い出してどきどきしてしまう。
「(ちー様……)」
大好きな恋人のことを頭に浮かべかけて、はっとする。
今は、そんなことを考えている場合ではないのだった。
ましろは邪な方向に傾きかけた軌道を修正した。
リボンを手に取り、木凪に言われた部分に巻き付けてみる。
そこでじっと見た手元に、なんだか違和感を感じて首を傾げた。
「(何か…違うような……?)」
その違和感が何なのかわからず、ましろはひとまず結ぶ練習を続行することにした。
プレゼントなのだから、蝶結びだろう。
かわいいリボンの形を思い描くが、結べたと思うと、かなり歪な形になっている。
上手くいかなくて、インターネットで結び方なども調べてみるが、どうしてもお手本通りにならない。
ましろは眉をハの字にしてリボンを結んでは解いて、を繰り返した。
「……ましろ?」
突然、いるはずのない人の声が聞こえて、びくりと体を揺らす。
ぱっと戸口を見ると、空耳などではなく天王寺本人が立っている。
「え、ち、ちー様……?こ、こんなに早くに」
「大体予定通りだが」
慌てて振り返れば、窓の外はもう暗い。
「えっ、もうこんな時間?」
蝶結びの練習に夢中になり過ぎていたようだ。
時間の経過の速さに驚いていると、天王寺の視線を感じて、自分が今どんな姿でいるのかを思い出した。
「あっ…!こ、これは…その、」
「…俺は何か、まずいところに帰ってきただろうか」
「ち、違…、あの、ええと、」
何か誤魔化そうかと思ったが、こんな事態をなかったことにできるような口八丁のスキルがあれば、ましろの人生は全く別のものになっていただろう。
真っ赤なまま、しばらく「あの」「その」を繰り返したが、これはもう素直に話をする方がいいような気がしてきた。
「ちー様…」
プレゼントを贈る相手にこんなことを頼んで、呆れられたらどうしよう。
ましろは不安になりながらも、上目遣いでお願いをした。
「その、これ…、て、手伝ってください…」
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