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 想いを込めて見つめ返すと、天王寺は不意に目を逸らした。
「そういえば…今日の午前中は病院に行ってみると言っていたな。どうだったんだ?」
 突然話題が変わったことを少し不思議に感じつつ、ましろは素直に受診結果を話す。
「詳しい検査の結果は後日ですが、まず問題ないだろうと言われました」

 体調不良などの折、ましろが受診するのは北条総合病院という、大きな病院だ。
 羽柴の家を出てからしばらく世話になっていた一家の経営する病院で、院長である北条渡紀宗という人が主治医である。
 ましろの立場をよく知っており、また月華の主治医でもある彼は、公にはできないが当然黒神会とも繋がりがあり、そういう意味でも、今回の受診の理由を話しやすかった。
 もっとも、北条は既に月華から事情を聞いていたようだったが。
 聞いていた感じも診た感じも問題はないとのことで、ましろ自身別段異常を感じてはいなかったものの、やはり医師から言われると、ほっとする。
 診察の後、家の人たちは壮健かと訪ねると、北条は、相変わらずだからたまにはうちに飯でも食いに来い、と言ってくれて、それからニヤリと笑って付け足した。
『仲のいいお友達も一緒に連れてきていいからな』
 ……なんだか色々筒抜けのような気がする。
 嬉しいような、恥ずかしいような。
 突然言われたためどんな顔をすればいいのかわからず、そのうちに是非と小さな声で言うのが精一杯で、そそくさとその場を後にした。
 羽柴の家で傷つき、弱っていたましろを受け入れ、温かく見守ってくれた北条もまた、ましろの恩人だ。
 そのうち、天王寺を紹介できたら嬉しい。

 北条一家は陽気で楽しい人達なので、天王寺も気に入ってくれるといいなとのんびり考えていると、隣の天王寺は「あれから、お前自身も、特に不調は感じてないんだな?」と念を押した。
「はい。とても元気です」
「それは良かった」
 言葉が終わる前に、片手で項を引き寄せられて、天王寺の綺麗な顔が近付く。
 唐突なことにましろが反応できるわけもなく、そのまま唇が重なった。
 驚いていると、そのまま何度か啄まれ、口付けが深くなる。
「口、開けろ…」
「ぁ…、」
 逆らうことなど考え付かず、素直に従っていた。
 吐息が触れ、舌が擦れ合うと、気持ちがよくて身体がひくんと震えてしまう。
「んん、…ふぁ」
「っ…お前の舌…柔らかいな」
 ちゅくっといやらしい音をたてて舌を吸われ、恥ずかしくなって控えめに天王寺の肩を押し返した。
「ん、っ…ち…さま……?きゅ、急に……」
「…お前が潤んだ瞳で見つめるから、我慢できなくなった」
「えっ……」

 先程は、そういう意味で見つめたわけでは。
 もしかして、目を逸らしたのと、ましろの体調を確かめたのは……。

 こんなに突然、寝室以外の場所で始まるとは思わず、けれど、天王寺がしたいといってくれるならば断る理由は何もなくて、身を委ねてしまっていいのかどうなのかと逡巡する間にも、器用な指先が身体を滑っていく。
「あ…っ、で、でも、コーヒーが、まだ……」
「飲みたければ後でまた淹れてやる」
「ふぁ……!」
 首筋を吸われ、高い声が出てしまった。
「耳、真っ赤だな」
「あ、だめ、」
 囁きも、ちゅっと落とされるキスも、耳元でされると音が大きくて、……ぞくぞくして、もっとしてほしくなってしまうが、まだ、クリスマスプレゼントのことを聞けていない。
 結局思い浮かばないので、本人に何か欲しいものはないかと聞いてみようと思っていたのに。
 このままなし崩しに身を委ねてしまったら、朝に弱いましろは、明日起きられなくて天王寺と話ができないかもしれない。
 クリスマスまではもう日がないのだから、今聞いておかなくては。
「あ、ち、ち…さま…、そ、その前に、お聞きしたいことが…」
「…ん……?」
 聞き返す声が甘くて、腰が痺れた。
 それでもましろの必死さが伝わったのか、天王寺が手を止めてくれたので、すっかり乱れてしまった息を整えながら、そっと見上げる。
「あの、今…欲しいものとか…ありますか…?」
 天王寺は虚を突かれたようにしばし固まってから、何故か苦笑した。

「今は、お前以外は考えつかないな」

「(え……それって……)」
 店で碧井と八重崎とした、プレゼントの話がフラッシュバックする。
 あの時、まさかそんな話をしていたなんて思ってもみなくて、後で碧井に詳しく聞いて赤面してしまった。
 本当にそんなことが喜ばれるのかと思っていたけれど、今まさにそう言われたわけで。
 八重崎はやはりすごい。天王寺の心が読めるのだろうか?
 ただ、ましろは既に天王寺のものなので、今更感はないだろうか。
 ……何より、一番気になるのが。
「う、上手く…自分で結べるといいのですが……」
 不器用な自分に、自分でリボンを結ぶなんてことができるのかどうか。
 それに、八重崎の言っていたようにするのは、とても恥ずかしい。
「結ぶ?」

 だが……、もしも上手くできなくても、天王寺が綺麗に結び直してくれるはずだ。
 恥ずかしいが、天王寺とそういう時間を過ごすことを思うと、当日が待ち遠しくなって、自然と笑みが溢れた。

「……ましろ?」
「ちー様……大好きです」
「っ……、あのな。……聞きたいことは、もういいのか?」
 頷くと、体勢をずらしてソファに寝かされて、覆いかぶさる天王寺をそろりと見上げた。
「あ……、やっぱり、ここで……?」
「……少し気が済んだらベッドに連れて行く」
 いいな、と確認されて何度も頷く。
 天王寺のしたいことは、なんでもしてほしい。
 ましろが天王寺といると幸せなように、彼にも幸せになってほしかった。

「私のこと……たくさん、愛してください……」

 自分も、それを望んでいるのだと伝えて。
 子供の頃からずっと追いかけ、縋りたかった背中に腕を回すと、ぎゅっと抱きしめた。




 不器用な初恋を純白に捧ぐ 終
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