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しおりを挟む本日の仕事(接客よりも碧井との雑談が多めだったが…)を無事終えると、翌日は昼頃まで自宅にいるという天王寺が車で迎えに来てくれた。
「こんな遅くに……すみません」
「会いたかったのは俺だ。気にするな」
謝りながら助手席に乗り込むと、笑顔で迎えられてほっとする。
天王寺も一日仕事をして疲れているはずで、申し訳ないとは思うが、昨日は会えなかったので、やはり顔をみられると嬉しい。
移動中、早速、クリスマスから年始まで休みになった話をした。
「休みになったのは喜ぶところなんだろうが……お前の職場はすごいな」
「店長は昔から自由な人で……」
あの人はあれで許されているのがすごいと、天王寺は少し引き気味だ。
海河は見た目は異国の怪しい商人のようだし、面倒臭がりで適当なことばかり言っているようだが、いざという時には体を張って店とスタッフを守る甲斐性のある人なので、今まで、彼の突発的な行動の数々に驚くことはあっても、不安になることはなかった。
ましろは手のかからない他のスタッフよりもお世話になっている自覚があるので、自分のことをダシにしてもらって、たまには好きなことをしてもらいたいと思う。
「しかし連休か……。何か予定はあるのか?」
「今のところ、ちー様にお会いする以外の予定はありません」
普段は、店が急遽連日休業などになったりすると、特別にすることもなくて部屋でぼーっとしているところを碧井が連れ出してくれたりするが、今回はそんなこともなさそうだ。
そう伝えると、天王寺は「そうか」と頷いた。
「……だったら、その間うちにいるのはどうだ」
「えっ……、でも、ご迷惑ではないですか……?」
思わぬ申し出に驚き、つい聞き返すと、迷惑ならわざわざ言い出さないだろと笑われて、赤面する。
確かにそうなのだが、本当にそんなことがあっていいのか、ちょっと信じられなかったのだ。
「帰った時お前がいたら嬉しいと思っただけで、それほど深い意味はないから、お前の気が向いたらでいい。俺は年末まで仕事があるから、ずっと家にいられるわけじゃないしな」
「で……では、シロと一緒にお帰りをお待ちしてます……!」
「……………………」
是非そうしたいと伝えたのだが、何故か天王寺が黙ってしまったので、何か間違えたかと焦った。
「ちー様……?」
「……よく考えてみたら、俺とよりシロといる時間の方が長くなるのはちょっと釈然としないな……」
言われてはっとする。
飼い主としては、不在の折に愛猫とあまり仲良くされるのは気分が良くないかもしれない。
「で、でも、シロはやはりちー様のことが一番好きだと思いますよ……?」
「違うそうじゃ……いや、なんでもない。気にするな」
「???」
違ったらしいのだが、何が違うのかは説明してもらえなかった。
天王寺宅に到着すると、いつものようにシロがお出迎えをしてくれる。
……ましろを歓迎して出てきたわけではなく、天王寺に餌を強請っているだけではあるが。
「シロ、お前な。流石にさっきやったばかりだから後にしろ」
にゃおんと鳴いて訴えかける様子は中々に演技派で、何も知らなかったら空腹だと騙されてしまいそうだが、どうやら既に夕食というお楽しみは終わってしまったようだ。
「ちー様、今日はシロに、少し早いクリスマスプレゼントがあるのですが……」
今日は予め天王寺が来てくれることがわかっていたため、ようやく以前買った、猫に与える草を持ってこられた。
腹を満たすためのものではないが、これで少し気が紛れるのでは。
「シロに……?気を遣ってもらって悪いな」
「いえ、たまたま見かけて……あげてもいいですか?」
天王寺の許可を得て、シロの前に置いてみる。
ふんふんと匂いを嗅いだシロは、すぐにパクリと食いついた。
「気に入ってもらえてよかっ…………、え…………?し、シロ?」
喜んだのも束の間、ものすごい勢いで食べ続けているので、段々不安になってくる。
「あ、あの、こんなに食べて大丈夫なのでしょうか……?」
「……余程草が好きなんだな」
天王寺は特に止める気もないようで、呆れたように見ているだけだ。
「し、シロ?あまり食べ過ぎは体に良くないですよ?そろそろ……」
自分が持ってきた手前、何かあってはいけないと、鉢を取り上げようとしたが、シロは背後に目でもついているのか、ましろの手を体で上手にブロックする。
「シロ、ちょっと、……あっ……も、もうない……」
めげずに止めようとしたが、時既に遅し。見事に食い尽くされた後だった。
少しは空腹を満たせたのか、シロは満足そうに顔を洗っている。
大丈夫なのだろうか。しゃがんだままおろおろと天王寺を振り返ると、彼は何故か口元を押さえて肩を震わせていた。
「……まあ、大丈夫だろう。猫が草を食べすぎて死んだ話はあまり聞かないしな」
以前テーブルヤシを全滅させた時も特に体調に異変はなかったという。
「シロ……健啖ですね……」
シロは一つあくびをすると、肩を落とすましろには見向きもせずに去っていった。
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