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「まったく……猫という生き物はろくなことをしないな」
 そんなことを言いながらも、シロを撫でる天王寺の目は優しい。
 ましろもそんな風に撫でられたいと思ってしまう。
「でも、シロはこのかわいさで私たちを幸せな気持ちにしてくれます」
「お前はそんなに猫が好きだったのか?」
「今まで動物のいる家で暮らしたことはないので、こんなに猫に触ったのはシロが初めてですが、とてもかわいいです」
 ましろの母も羽柴家の人々も月華も、ペットを飼う、動物と暮らすということにさしたる興味はないようだった。飼いたいと主張すれば恐らく叶ったとは思うが、ましろ自身、自分一人で動物の世話をできる自信はなく、望んだことはない。
 だから、シロと触れ合えるのはとても貴重で幸運なことだ。

「……まあいい。俺は他の場所をもらう」
「ちー様?」
 何故かちょっと悪そうな顔になった天王寺が伸ばしてきた手に後頭部を引き寄せられて、突然の行動と謎の発言について考えている間に、唇が重なった。
「……っ……」
 試すように柔らかく啄まれて、一瞬離れるタイミングで反射的に口を開くと、今度は深く貪られる。
 入り込んだ舌に舌を絡めとられ、舐るようにされると口の中に唾液が溢れた。

「っぁ……」

 たっぷりと蹂躙されてから、ちゅ、という水音とともに顔が離れ、唇の端を拭われる。
 困惑と、それからもっとして欲しいという欲望が絡み合い、縋るように見上げると、至近の天王寺がぐっと眉を寄せる。
「ましろ……」
 熱い腕にぎゅっと抱きしめられた。
 すると、二人の間に挟まれて窮屈になったのか、煩わしげに膝から降りたシロは、すたすたと去って行ってしまう。
「あ、シロ……」
「ましろ」
 思わず視線で追いかけると、名前を呼ばれ、こっちを見ろとばかりに視線を引き戻された。
 真剣な瞳に覗き込まれて、ドキッとする。
「……いいか?」
 抑えた声の問いかけに、何の許可を求められているのかわかって顔が熱くなった。
 何と答えればいいのかわからず、こくんと無言で頷く。
 密着した体が一瞬強ばり、引き剥がすようにして天王寺は立ち上がった。
「じゃあ、ベッドに……」
 やや性急な動作で手を引っ張られ、立たされる。
 キスの余韻の残るましろはよろめきながらも、一生懸命ついていった。


 寝室に入るなり、服を脱がされ、ベッドに寝かされる。
 自らも服を脱ぎ捨てながら、天王寺はじっとましろの身体に視線を注いでいて、恥ずかしさに身を縮めた。
「あの……あまり見ないでください……」
 顔のことはよく褒められるので、それなりに綺麗なのだろうとは思っているが、体にはあまり自信がない。
 今まで誰かと見比べるような機会こそなかったものの、ましろの体は筋肉もなくつるりとして、我ながらメリハリに欠けたスタイルだと思う。肩幅が広く、バランスよく筋肉のついた天王寺のような男らしさは微塵もなく、当たり前だが女性とも違う。大人になりきれていないと表現するべきか、しかし八重崎のように小柄で可愛らしいわけでもない。
 誰に見せるわけでもないからいいと思っていたが、好きな人に見られるとなると、自信のない部分がとても気になる。

「俺に見られるのは嫌か」
「嫌では……ありません。でも……あまり、自信がなくて」
「お前は、綺麗だ」
「ちー様……」
「綺麗すぎて、俺が触れていいのか心配になるほど」

 綺麗なのは、天王寺の方だと思う。
 それでも、肯定的な言葉にましろは少し勇気を得た。
 自分が好きではなくても、天王寺が嫌だと思わないのならばそれでいい。
「私は……もっと触ってほしいです」
「ましろ……」
「ちー様に撫でてもらえるシロが、羨ましくて、……だから」
 もっと、触ってほしい。
 ましろは天王寺の手を取り、そっと自分の方へと引き寄せた。
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