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しおりを挟むあの雨の日の掠めるような軽いものではない、奪うような激しいキス。
「な、…ん…っ、」
何故、と問いかけようとして開いた口内に、熱い舌が入り込んだ。
戸惑うが嫌悪感はなく、拒絶することを思い付けない。
腰を抱き寄せられれば、閉じ込められた腕の中の熱に溺れた。
舌を吸われるとちゅっと響く水音が卑猥で、ぞくりとして縋りつく。
それが「もっと」と強請るような仕草になっていることに、ましろだけが気付かない。
「っ……」
敏感な粘膜を舐められると力が抜けてしまい、かくんと膝が折れたのを抱きとめた天王寺が、真剣な眼差しで覗きこんでくる。
「……いいのか?」
それは、何に対する問いなのだろう。
ぼんやりと潤む瞳で見つめ返したましろは、先程聞こうとした『夕食まで一緒にいられるか』への返答なのではないかと考えた。
だとしたら、いいも何も、ましろがいてほしいと頼んだのだ。
こくんと頷いた直後、己の身に起こった事態に、ましろは驚きの声をあげる。
「えっ……?あっ、あの、」
何故、自分は天王寺に抱き上げられているのだろう。
驚き、キスのことも含めどう解釈すればいいのかと戸惑っている間に寝室に連れていかれて、ベッドに寝かされる。
夕日に染まる部屋で覆いかぶさる天王寺を見上げると、ようやく再会した日の夜の事を思い出した。
「あ……」
そういえば先日店で話した時に、天王寺はましろの誘いを営業だと思っているようだった。
確かに、他の同業店にはノルマやランキングがあり、文字通りの体を張った営業をすることもあるようだ。
『SHAKE THE FAKE』にはそうしたシステムはないが、天王寺はそれを知らないかもしれない。
もしかして、再会した日の夜もそう勘違いして?
ましろの成績のためにこんなことをしてくれているのなら、その必要はないと伝えなくては。
そう思うのに、再び降るキスと、触れてくる手が優しくて、されるがままになってしまう。
再会した日の夜とはどこか違う、慈しむような手つき。
体重をかけて貪られると、擦れ合った下腹部に固くなっているものが当たって、ドキッとした。
天王寺が、欲しがってくれている?
そこで湧き上がってきた喜びに、ましろは戸惑う。
今まで、はっきりと恋情や欲望を自覚したことはなかったが、自分は天王寺のことが好きなのだろうか。
勘違いをさせたままでも触れてほしいと思うほどに。
それは、彼の厚意を利用するような、卑怯な気持ちだ。
けれど……。
葛藤している間に、天王寺はましろの服を脱がしてしまう。
ましろが自分でするよりも、よほど手際がいい。
自分も上着をベッドの下に脱ぎ捨て、再び覆い被さるとましろの胸に顔を伏せた。
「あ……そこ、は」
「……嫌か?」
視線だけ上げた天王寺に、ふるふると首を振ってそうではないと伝える。
「でも、恥ずかしい、です……、あっ、吸っちゃ、」
ちゅうっと音をたてて吸われ、舌先で転がされるとむずむずするような、触られていないのに腰が浮いた。
天王寺がこんなことをするのは、優しさと面倒見の良さから、いつまでも頼りないましろを放って置けないからだろう。
その必要はないのだと、早く言わなくては。
真実を知った時、天王寺は今度こそましろのことを許さないはずだ。
「(それは……怖い。でも、もっと触って欲しい……)」
相反する気持ちを抱えたまま、ましろは与えられる熱に溺れていった。
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