上 下
53 / 70

53

しおりを挟む

「み、御薙さん……?」
「昼間にあれだけはっきり告白したのに、さらっとベッドに潜り込んできたら、期待しちまうだろ」
「そ、それは、ソファで寝るって言ったら気を遣わせてしまいそうだと思ったので」
「そういうとこは気が回るのにな…」
 残念なものを見る目で見られても、何も言い返せない。
 冬耶だって、(昼間の続きをするのだろうか)と考えなかったわけではないけれど、今更それを主張したところで、無駄に恥ずかしい思いをするだけだ。

 困って見上げると、御薙は口元を緩めた。
「この期に及んで、そんなつもりじゃなかった、は通用しねえぞ」
 低く囁かれて、冬耶は身の危険を感じて慌てる。
「あっ、ででででも、やっぱり目の前でがっかりされると、この後男に戻れるかわからないくらいダメージを受けそうなので、…っ!?」

 言葉の途中で、下腹部にぐっと固いものが押し付けられ、目を見開いた。
 布越しでも熱を感じるそれが何なのかなど、確認するまでもない。
 いや、しかし、何故?まだなにもしていないのに…。

 冬耶の困惑が伝わったのだろう、御薙は口角を上げた。
「あのあと、出先でも親父の後ろに控えながらずっと、夜はどうやってお前をベッドに連れ込もうか考えてたからな」
「ええ…」
 恐らく誇張しているだろうが、組のナンバーツーがそれでいいのだろうか。
 薄暗い部屋の中、光の加減でやけに悪そうに見える御薙は、更に冬耶を追い詰めていく。
「お前の体見て俺がやる気なくしたらショック受けるくらいには俺のこと好きなんだろ。観念しろ」
「そ、……、」

 うっかり本当の気持ちが漏れていたことに気付き、冬耶は真っ赤になった。
 真実なので、違いますとも言えない。
 開き直って「ずっと好きでした」と伝えるべきなのだろうか。
 本当の『冬耶』のことも、話して…。

 言うべきかぐずぐず迷っていると、焦れた御薙の顔が近付いてきて、唇を塞がれた。
「んっ…、……は、っ……、」
 驚いて硬直しても、すぐに好きな人と触れ合いたいという本能が勝り、弛緩する。
 キスをして、粘膜同士が触れ合うこと、吐息が、体温が混ざり合うことが気持ちが良くて、頭がぼうっとしてしまう。

 だが、スウェットをずるりとたくし上げられた時、ハッと我に返った。
「っぁ、わわ…っ」
 止めようと力の抜けた手を伸ばしても、難なく脱がされてしまう。
「ちょ、ちょっと、待っ……」
「なんか、そんな風に抵抗されるの新鮮だな」
「こんなことで鮮度を実感しないでいいですから…っ」
「嫌じゃなければ抵抗してていいぞ」
「い、意味が…あっ!」

 既に反応している場所を下着の上から掌で確かめられて、声が出てしまった。

「お前も、興奮してんだな」
 それを知られるのは、どういうわけか、体が女の時よりも恥ずかしい。
 ズボンごと下着を下げられて、形を変えつつあるものに、大きな手が絡みつく。
「ゃ、あっ!そ、そこ触っちゃ、ん、んんっ…」
 既に滲んでいた先走りを広げるように、ゆるりと擦られただけでびくんとのけぞった。
 性別が変化する前は、生理現象として時折処理する程度にしか自慰をしたことはない。
 他人の、しかも好きな人の手淫という刺激の強さに身を委ねてしまいそうになった時、その表情を覗き込む御薙の視線に気づいて、両手で顔を隠した。
「は、っあっ、…や、そんな、見たら…だ、だめ」
 しかし御薙はもう片方の手で冬耶の両手首を頭上でひとまとめにしてしまう。
「お前も見ろよ」
「や、」
「お前の体を触って、俺が興奮してるのを、ちゃんと確認しておけ」

 恥ずかしくて、目を開けたくないのに、御薙の言葉に逆らえない。
 御薙と視線がぶつかる。
 そこには確かに強い欲望が滲んでいた。
 御薙が、…好きな人が、自分を…冬耶を欲しがっている。

「…ぁ…、ゃ、っ…だめ、」
 ぞくんと腰が震えて、全身が強張る。
「ひ、あっ、あぁっ…!」

 視線に灼かれながら、冬耶は御薙の手の中に欲望を放った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな後輩と結婚することになってしまった

真咲
BL
「レオ、お前の結婚相手が決まったぞ。お前は旦那を誑かして金を奪って来い。その顔なら簡単だろう?」 柔和な笑みを浮かべる父親だが、楯突けばすぐに鞭でぶたれることはわかっていた。 『金欠伯爵』と揶揄されるレオの父親はギャンブルで家の金を食い潰し、金がなくなると娘を売り飛ばすかのように二回りも年上の貴族と結婚させる始末。姉達が必死に守ってきたレオにも魔の手は迫り、二十歳になったレオは、父に大金を払った男に嫁ぐことになった。 それでも、暴力を振るう父から逃げられることは確かだ。姉達がなんだかんだそうであるように、幸せな結婚生活を送ることだって── 「レオ先輩、久しぶりですね?」 しかし、結婚式でレオを待っていたのは、大嫌いな後輩だった。 ※R18シーンには★マーク

恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧
BL
「綺麗な息子が欲しいわ」という母の無茶ブリで騎士団に入る事になったランバート。 ジェームダルの戦争を終え国内へと戻ったランバートとファウストは蜜月かと思いきや、そう簡単にはいかない。 ランバートに起こる異変? 更にはシュトライザー公爵とファウストの閉じた記憶の行方やいかに。 勿論現在進行形の恋人達にも動きが! ドタバタ騎士団の事件や日常、恋愛をお楽しみください。

特別な魔物

コプラ
BL
 高校三年生の青柳絵都は、最近変わった夢を見ている。透ける様な金髪の貴公子の部屋で自分は小人になっていたものの、日頃叶えられない開放感を味わった。過酷な毎日に疲れていた絵都は、その夢の中でぐっすり眠るのが楽しみの一つになっていた。 夢の世界に魔物として囚われた絵都の波乱の人生の幕開け、冒険と幸福、そして人生からすり抜けたと思っていた愛を再び手にする異世界BL物語。 貴族令息の主をガンガン振り回す無自覚エロい絵都の関係性と、世界観を楽しんで下さい♡

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

【BL】カント執事~魔族の主人にアソコを女の子にされて~

衣草 薫
BL
執事のローレンスは主人である魔族のドグマ・ダークファントム辺境伯にアソコを女性器に変えられてしまった。前に仕えていた伯爵家のフランソワ様からの手紙を見られて怒らせてしまったのだ。 元に戻してほしいとお願いするが、「ならば俺への忠誠を示せ」と恥ずかしい要求をされ……。 <魔族の辺境伯×カントボーイ執事>

【完結】欠陥品と呼ばれていた伯爵令息だけど、なぜか年下の公爵様に溺愛される

ゆう
BL
アーデン伯爵家に双子として生まれてきたカインとテイト。 瓜二つの2人だが、テイトはアーデン伯爵家の欠陥品と呼ばれていた。その訳は、テイトには生まれつき右腕がなかったから。 国教で体の障害は前世の行いが悪かった罰だと信じられているため、テイトに対する人々の風当たりは強く、次第にやさぐれていき・・・ もう全てがどうでもいい、そう思って生きていた頃、年下の公爵が現れなぜか溺愛されて・・・? ※設定はふわふわです ※差別的なシーンがあります

チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~

クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。 だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。 リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。 だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。 あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。 そして身体の所有権が俺に移る。 リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。 よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。 お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。 お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう! 味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。 絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ! そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!

処理中です...