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向上心

第156話

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 「コグモ。一旦落ち着こう……。な?」
 俺は地面に両ひざをついた状態から、コグモを見上げ、なだめる。
 
 「最初に、私の話を聞かなかったのは、ルリ様ですよね?それに、絶対服従ではなかったんですか?」
 彼女のもっともな言い分の前に、俺は打ちひしがれる。

 「……ほら、クリア様の前で駄々をこねるなんて、教育に悪いですよ?」
 駄々をこねているのはどっちだ?というか、お前の方が教育に悪いわ!
 
 「……分かった」
 俺は喉まで出かかった言葉を、グッと飲み込んで、返事をする。
 
 「それと、前々から思っていたのですが、ルリ様の言葉遣いも、教育に悪いのでは?」
 確かに、言われてみれば、良くはない。良くはないが……。
 
 「分かり……。ました……」
 悔しさを覚えながらも、頭を下げる俺を見て、満足そうに微笑むコグモ。
 ……絶対に楽しんでやがる。
 
 「では、こちらの具合は……」
 そう言って、ひざをつき、頭を下げる俺の背後に回り込んだコグモ。
 
 「ヒィン!」
 目の届かない場所で、突然、感度を上げた翼を優しく撫で上げた俺は、思わず身を跳ねさせる。
 
 「な、何するんだぁっ……」
 片腕を羽根と羽根との間に、くように指を通して、来るコグモ。
 力の抜けた俺は、ひざをついた状態で、前に倒れ込みそうになる。
 このままでは腐葉土の地面に顔を押し付け、下手をすると口に入れてしまうかもしれない。
 何とか、両腕を前に伸ばす事で、四つん這いになり、それを回避した。
 
 「汚い言葉遣いは、駄目ですよ?」
 コグモはそう言うと、俺の背中に体重をかけて来る。
 それだけで、力の入らない俺の腕は抗力を失い、腰だけを浮かした俺は、結局、地面に頭を擦り付ける結果となった。
 
 「はぁっ……。やめっ……」
 何とか顔を横に向け、口に腐葉土が入る事を避けると、空きっぱなしの口から垂れる唾液を抑えながら、必死に言葉を絞り出す。
 
 「駄目です。これは仕返しですから……。どうです?私の気持ちが分かってきましたか?」
 俺の上に完全に身を乗せたコグモが、俺の上から、耳元に息を吹きかける様にして、ささやいて来る。
 その手は未だに、俺の翼を舐める様に撫でまわしていた。
 
 「わ、わかっちゃ……。わかりまひちゃからぁぁ……」
 力なく、唾液をたらす俺の口を、コグモは「汚いですよ?」と言って、そのべとべとの糸で塞ぐ。
 
 「ついでに、おてても、縛っちゃいましょうか♪」
 楽しそうに喋るコグモ。
 力なく垂れる俺の腕を、その背中に回して、両手首を結ぶように、べとべとの糸を巻き付けた。
 
 「……んっ……。じゅるっ……。おいひいれす……。ルリしゃま、とっても……、おいしいれしゅ……」
 コグモが、俺の翼をくちびるで優しくみ始める。
 生暖かい唾液が、羽根を濡らし、その唇の柔らかな感触が、温かさが、舌触りが、全て翼を通して伝わってくる。

 「んんっ~~~!!!」
 快楽で飛びかけていた意識が、痛みによって呼び起こされる。
 コグモが俺の翼に牙を突き立てたのだ。
 
 しかし、俺のそんな叫びにも気付かない様に、必死に翼を食み続けるコグモ。
 もう、悪ふざけの域を超えていた。

 「んっ…!!んんっ!!んっ!!」
 コグモの火照った体温が、その素早く脈打つ鼓動が、俺の背中を通して、伝わってきて……。

 何故だか、涙があふれて来る。
 痛みと快楽でグチャグチャになった俺の頭では、全く状況がつかめなかった。
 
 「んっ……。ん、んんんっ……」
 抵抗する力も残っていない俺は、されるがまま、コグモに翼を食まれて行く。
 っと、俺の視界に、しゃがみ込んで、こちらを見つめるクリアの姿が映った。

 「ん!んんんんんんん~~~!!」
 俺は飛んでしまいそうな意識の中、最後の理性を振り絞って、クリアに助けを求める。
 
 「楽しい?」
 純粋な瞳で小首を傾げるクリアに、俺は全力で、首を横に振り返した。
 
 「助けて欲しい?」
 クリアの問いに、今度は首を縦に振る。
 
 「…………分かった。パパ、助ける!」
 数秒の沈黙の後、クリアが俺の反応を受けて、立ち上がった。
 まさに希望の星だ。
 
 プチッ
 次の瞬間。大きな神経糸を噛み千切られた俺の意識は、一瞬にして、闇の底に沈んだ。
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