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崩壊

第130話

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 「…………」
 川で肉を解体するルリ様。
 その腸を割き、内臓と血を洗い流した後、脚などの邪魔な部位を、ウサギさんから借りた石ナイフで切り落としていく。
 今は、その肉から、皮を剥がす工程だった。

 「力を入れ過ぎずに、皮を破らない様に引っ張って、皮に癒着している脂だけを少しづつ、切り離していく感じで……。そうッス、そうッス、上手いッスね」

 他人から物を教わっているルリ様を見るのは、初めてだ。
 ルリ様も、汗をかく程、真剣な様で、見ているこちらまで、ドキドキしてくる。
 
 「……だぁ!クソッ!駄目だ!」
 何とか胴体の皮を剥ぎ終えたルリ様は不満そうな声を上げる。
 
 「大丈夫っすよ。穴をあけてないだけで、上等ッス。このこべり付いた脂身は、こいつらを使えば、取れるッスしね」
 そう言って、ウサギさんは小さな袋から、白い芋虫の様な物を取り出した。
 
 「なんだよ?ウジ虫か?」
 ルリ様は不思議そうな目でその芋虫たちを見る。
 
 「ウジ虫が何だかは分かんないッスけど、こいつら、動物の肉と脂だけを、綺麗に食い尽くしてくれるんッスよね……。まぁ、腐敗した部分だけなんで、まだ、しばらくは使えないッスけど」

 「やっぱりウジ虫じゃん」と、呟くルリ様。
 「非常食にもなるッスよ?」と、幼虫を差し出されると「俺が食事をしないのは知っているだろ」と、言って、それを押し返していた。

 「それじゃあ仕方が無いッスね……。クリアちゃん。食べてみるッスか?」
 解体されて行くシカを興味深そうに見ていたクリアに、声を掛けるウサギさん。
 
 タッタッタッタッタ……。
 声を掛けられたクリアは、すぐ駆け出すと、ルリ様の後ろに隠れてしまった。
 
 「変な人に近づいたら、駄目。……私、ウサギの記憶ある。変な人だった」
 ルリの後ろから顔を覗かせたクリアが、淡々と呟く。
 
 「よく変な人だって分かったな。偉いぞ、クリア」
 クリアを撫でながら、ウサギさんに、してやったりと、笑うルリ様。
 これには流石のウサギさんも、不満そうな顔をする。
 
 「良いッスよ、別に……。あ、コグモは食べてみるッスか?」
 「あ、はい……」
 私は差し出されたウジ虫とやらを、両手で受け取る。
 見た目は普通の芋虫よりも小柄で寸胴、正直、食べやすそうだな。と言う、印象だった。
 
 「では、失礼して……」
 もぞもぞと動き回るウジ虫を両手で抑え込みつつ、お尻からパクリと食べる。
 
 「うわぁ……、美味しいですね。普通の芋虫よりも、苦みが無くて、クリーミーです」
 私は夢中になって、手に残った分の残骸も口の中へ放り込む。
 口の部分は少し硬いが、これが、動物の腐った肉から得られるのなら、肉を直接食べるよりも、こちらの方が良いかもしれない。
 
 「それはよかったッス。……どうッスか?本当に要らないッスか?」
 再び、誘うように、クリアの前にウジ虫を差し出す、ウサギさん。
 
 「…………」
 ウジ虫と、ルリ様を交互に見るクリア。
 そして、そんなルリ様を挑発的な視線で見つめるウサギさん。
 
 「……分かったよ。そのウサギさんは、優しいウサギさんだから、物を貰っても大丈夫だ」
 クリアの視線に根負けしたルリ様を、満足そうな笑みを浮かべて、ウサギさんが見下していた。
 
 「……ありがとう」
 そんな二人に見向きもしないで、お礼を言いながら、ゆっくりとウジ虫を両手に抱えるクリア。
 その無表情から、感情を察する事は出来ないが、手の中で蠢くウジ虫を不思議そうに見つめていた。
 
 そして、パクリ。
 体の一部を失っても暴れるウジ虫をしばらく観察してから、もう一口パクリ。
 そして、また観察をする。
 
 その内に頭だけになり、体力も使い果たしたウジ虫が動かなくなった。
 
 「……死んだ」
 動かなくなったウジ虫を見ながら、淡々と呟く、クリア。
 その発言に、皆が息を呑んだ。
 
 そして、最後に残った頭をパクリ。
 
 「……美味しかった」
 その無表情から、事の真偽はうかがえないが、彼女がそう言うのならそうなのだろう。
 
 でも、良かった。ルリ様の様に、生き物を殺せない体質になっては、クリアの場合、摂食障害になってしまうのではないのかと、心配した。
 
 私と同様の事を考えていたのか、二人からも安堵の息が漏れる。
 いつの間にやら、皆、クリアの動向に釘付けになっていた様だ。
 
 なんだか、その様子は、クリアが皆に受け入れられて行くようで……。
 嬉しい反面、最後には別れが待っていると思うと、手放しに喜ぶ事は出来なかった。
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