上 下
117 / 172
帰還

第116話

しおりを挟む
 「すぅー……。すぅー……」
 ベッドの上で安らかな寝息を立てるリミア。
 俺は、ベッドの淵に腰かけながら、静かにその頭を撫でていた。
 
 その安心しきった様な寝顔は、小さくなっても変わらない。
 ……俺は、リミアの切り離した、彼女の断片を知ろうとも、この寝顔を変わらず守り抜く事は出来るのだろうか?
 
 いや、出来るか、出来ないかじゃない。やるんだ。
 コグモも俺がそうできると信頼して、この情報をくれた。
 
 俺は覚悟を決めると、糸の解読作業に入る。
 そもそも、リミアが記憶を糸の中に封じているとは限らない。それに、俺が彼女の断片を読み取れるとは限らないのだ。
 
 しかし、そんな甘い考えも捨てる。
 そんな中途半端な覚悟で、彼女の切り離した断片を見てはいけない気がした。
 
 彼女が、自身を切り離したと言うなら、何故そんな事をしたのだろうか?
 今いる彼女が分離から起きた副産物なのか、それとも狙って作られた物なのか、それすらも分からない。
 
 「あ……」
 自然と涙が零れそうになる俺。
 悲しいわけでもないのに、どうしたと言うのだろうか?

 ……いや、違う。これは、俺には読み取る事の出来ない、彼女の、リミアの感情。
 それを今、俺の体が表現しているのだ。

 見つけた。これがリミアの封じ込められた断片だ。
 
 しかし、俺はそれ以上読み進める事を躊躇ちゅうちょする。
 涙が出ると言う事は、悲しい記憶だと言う事だ。
 これは彼女が見られたくない記憶なのではないか?
 
 ……でも、これを見ないって事は、逃げるって事だよな。
 それに、リミアは、糸を切り捨てず、俺に託した。
 頭の良いリミアだ、俺が記憶を読み取る事ができるかも知れない事なんて、予想していただろう。
 
 「……よし」
 静かに覚悟を決め直すと、彼女の記憶を読み進める。
 
 私はルリが好き。異性として好き。出来るなら、私が幸せにしてあげたかった。

 ……でも、ルリは別の人を選んだから……。
 私はそれを拒めない。だって、私は一度、ルリの大切な人を奪っているから。

 本当は、お祝いしなくちゃいけない。
 これからも、ルリをそばで支え続けなければいけない。
 それが私の罪を滅ぼしだから。
 
 でも……。でもね、きっと、私は耐えられない。
 嫉妬して、ルリに迷惑を掛けてしまう。
 
 だから私は、悪い私を捨てるの。
 ルリを異性として好きな私を、切り離すの。
 
 そうすれば、ずっとルリを支えられる。
 ずっと、ルリの傍に居られる。 
 ずっと、ずっと、ルリの子どもとして、ルリに愛されていられるの。
 
 ……本当はルリの為なんかじゃない。私の為。
 私がルリの傍で愛され続ける為。
 
 ……最後まで、迷惑かけて、ごめんね。ルリ。
 それでもどうか、良い子の私を愛してあげて。

 リミアの寂しさに満ちた震える様な、無理矢理自身を、それで納得させる様な声。

 プツリ。そこで、記憶が切れる。
 それが、彼女の最新の記憶であり、最後の言葉だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...