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帰還

第105話

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 「お、ゴブリンだ」
 先程、別れた所から、少し離れた地点。地面をウロウロするゴブリンを見つけた。
 どうやら、ゴブリンもこちらを探してくれていたらしい。
 
 「おーい!こっちだ!」
 俺が手を振り声を出すと、向こうもこちらに気がついたのか、良い笑顔で、俺を真似て手を振ってくる。
 
 そして、手を振る反対側の腕には、掴んでいる長い耳で、ギリギリウサギだと判別できる亡骸が……。
 
 不意を突かれた俺の表情は引きつるが、考えてみれば、獲物をそのままに、移動する方がおかしい。
 他の生物に食ってくれ、と言っているような物だ。
 
 こちらに駆け寄ってくるゴブリン。
 それに合わせて愉快に揺れる惨殺死体。
 まるで、死体が生きているようで……。
 
 ただの死体だ。ただの死体だ。ただの死体だ。ただの死体だ……。
 その死体から零れ落ちそうになっている、恨めしそうな瞳と、目が合った。
 
 「悪い……。コグモ、限界だ」
 俺は引き摺って来ていたコグモの後ろに身を隠す。
 
 「ヴァゥ?」
 二人してうずくまる俺達を、不思議そうに見下ろすゴブリン。
 
 「あ、あぁ……。俺達の事は気にしないで、その辺りで、適当に食べていてくれ」
 俺は死体を見ない様に、ゴブリンに糸を繋ぎ直すと(食べる、良い)と、信号を送る。
 
 ゴブリンはそれでも、俺達を見つめていた。
 糸を通して、こちらを心配してくれている感情が分かる。

 命令の意図は伝わっている様な気がしたので、俺は俯いたまま(心配ない)と、片手を上げ、グッと親指を上げる。
 
 それを見たゴブリンは、心配の感情は抜けない物の、のっそのっそと、移動していき、食事を始めた。
 
 ゴブリンもコグモも良い奴過ぎて、困ってしまう。
 二人の為にも、早くこのどうしょうも無い価値観を克服して行かなきゃな……。
 
 「ヴァゥ」
 しばらく二人でうずくまっていると、食事を終えたゴブリンが、心配そうな雰囲気で、戻って来た。

 「……そろそろ、行かないか?」
 俺は蹲るコグモに、優しく話しかける。
 
 「……はい……」
 そう言うと、彼女は少し顔を覆う手をどかし、片目で俺を見た。
 
 「わ、私も頑張るので、ルリ様も頑張りましょう?」
 小さな声で、恥ずかしそうに、そう言うと、コグモは駆けだして、糸を使ってゴブリンの肩の上に飛び乗ってしまう。
 
 きっと、彼女の恥ずかしさと、俺の価値観の克服の事を言っているのだろう。
 これは、答えを貰うまでには、相当な時間がかかりそうだ……。
 
 「……そうだな。時間はいくらでもあるんだ。ゆっくり頑張って行こう」
 俺は彼女の後に続き、糸を使って、ゴブリンの肩に飛び乗ると、再び丸まっていたコグモの横に、静かに腰を下ろした。
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