上 下
65 / 172
寄生生活

第64話

しおりを挟む
 「ここだな……」
 俺は森の中で留まっていた、人影の元へ降下する。
 
 「あれ?どこにも……」
 地面に着地した俺は、辺りを見回す。
 確かに、ここに居たハズだと言うのに、視界に映らない人影。
 嫌な予感がした俺は、感覚器官の糸を辺りに漂わせた。
 
 (………木の上か!)
 俺は反応があった方向を振り向く。
 そこには、緑や茶色の肌をした、毛の無い人間……。いや、ゴブリンと言った方が近いかもしれない生物が、こちらを見下ろしていた。
 
 奴らの数十ともいえる、鋭い視線が、木の上から、俺を観察している。
 その小柄な体格と、茶色や緑の体色のせいか、糸が触れるまで、その存在に気が付かなかった。
 俺は自ら、やつらの包囲網の中に飛び込んだという訳だ。
 
 (仕掛けて来るか?)
 相手が上を取っている以上、下手には動けない。
 1,2匹が相手なら、無理矢理相手取る事も可能だろうが、数が数だ。

 飛んで逃げられるか?いや、でも空中で網でも投げられた日には、すべもなく拘束されるぞ?それなら、地面で防衛線を張った方が……。

 ……嫌な汗が流れる。

 しかし、いつまで経っても攻撃を仕掛けてこない、ゴブリン達。

 ザク、ザク、ザク。
 その内に、落ち葉を踏み締める様な音が、こちらに向かうように響いて来た。
 森の外から向かって来た人影だろうか?
 
 (この状態での援軍は!……今更、変わらない、か……)
 
 完全に包囲されている現状では、これ以上悪化のしようがなかった。
 それこそ、足音の正体が、人影とは全く関係の無い狼や熊で、この場をかき乱してくれた方が、逃げられる確率が上がると思った。
 
 俺は相手を警戒しつつ、足音の到着を持つ。
 すると、ゴブリン達は、こちらを睨んだまま、それぞれ、木や葉の陰に隠れ始めた。
 
 一体どうしたというのだろうか?
 改めて奇襲をかけるつもりなのだろうか?
 それとも、この足音の主が、それだけ、強大な存在だとでも言うのだろうか……。

 足音は、すぐそこまで迫っている。
 俺は、恐怖で固まる体を無理矢理に動かし、勢い良く、振り返った。
 
 「に、人間?」
 そこに居たのは、俺の良く知る人間達だった。
 
 人間達は、俺を見ると、顔を見合わせたり、パニックになりかけながら、口々に何かを喋り出した。
 何を言っているのかは、当然、言語が違うので分からないが、困惑しているのは分かる。
 そりゃそうだ。俺だって、羽の生えた小人を見れば驚くだろう。
 
 俺は、この混乱に乗じて逃げようと、ハチドリの様に翼をはためかせ、垂直に上昇した。
 
 木々の間を抜けた所で、俺は静止し、森の中を見下ろす。
 ここなら、安全に、奴らを観察できると思ったからだ。
 
 このまま行けば、ゴブリンが人間に奇襲を仕掛ける展開になるのだろう。そうすれば、両者の戦力や、戦闘の仕方も分かるはずだ。
 
 しかし、一向に、ゴブリンが人間を襲う様子はなく、天に向かって拝みだす人間達。
 そして、最後には小さな包みを置き、立ち去って行った。
 森に対する、捧げものか何かなのだろうか?
 
 すると、ゴブリン達が現れ、それを持ち去る。
 奴らの狙いは、初めからそれだったらしい。
 
 「おおっと……」
 少し眩暈めまいがした。
 一か所に滞空するような飛び方は、翼を激しく動かすので、消耗が早いようだ。

 俺はゴブリン達が帰って行く方向を確認しつつ、ふらふらとウサギの元へ戻る。
 しかし、その場所に、ウサギの姿はなくて……。
 
 「ま、マジかよ……」
 俺はそのまま地面に落ちる。
 
 (ご!ご主人!)
 こちらに気が付いたウサギが、草陰から心配そうに近付いて来きた。
 どうやら、しっかりと隠れてくれていたらしい。
 
 (そ、そうだよな……。隠れてろって、俺が言ったんだもんな……)
 ウサギが、指示通り、その場でじっとしてくれていなかったら、俺はエネルギー不足で死んでいたかもしれない。

 (自身の限界ぐらいはしっかりと、把握しておかないとな……)

 「わりぃな……」
 俺はウサギに支えられつつ、その身を起こすと、震える糸で、何とかウサギとの糸を繋ぎ直す。
 
 糸が震えていたせいか、ウサギは変な声を出したが、まぁ、今回は許そう。
 
 「本当に助かった。ありがとな」
 (い、いえ!そんな!僕は何も……)
 今一度お礼を言うと、ウサギは恥ずかしそうに、もじもじもじもじ……。
 
 (で、でも、どうしてもと言うなら……)
 物欲しそうなで目で、こちらを見つめて来るウサギ。
 俺はその時点で、何かを察した。
 こっちは、自身の失敗を反省しつつ、本気で感謝していると言うのに……。

 俺は、静かに糸を持つ。
 「これが欲しいんだろぉぉぉ?!」
 (ありがとうございまぁぁぁすッ!!)
 そうやって、今日も、俺達の一日は過ぎて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

【完結】ある二人の皇女

つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。 姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。 成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。 最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。 何故か? それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。 皇后には息子が一人いた。 ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。 不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。 我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。 他のサイトにも公開中。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...