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自立
第51話
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「おはよ」
朝、目が覚めた私は、寝ぼけ眼で、継ぎ接ぎのルリに挨拶をする。
昨晩は、あの後、変な夢のせいで、よく眠れなかった。
おかげで、全く疲れが取れていない。
「あなたのせい……」
ルリちゃん人形を両手で、私と向き合うように、抱き上げる。
当然、人形からの反応はない。
と言うか、そもそも、あれは、私の人形を壊してしまった、罪悪感から生まれた夢であって、自業自得なのである。
「………眠い」
そう考えると、なんだか馬鹿馬鹿しくなった私は、ルリちゃん人形を置いて、身支度を始める。
まずは、乱れた髪を避けて、顔に掛からないようにして……。
眠気を覚ます為にも、ココナッツの様な木の実の殻で作った桶の水で顔を洗う。
「きもち……」
夏場という事もあり、冷たすぎない、丁度良い水温だった。
私は、自前の糸で作ったタオルで顔を拭くと、水に写った自分の姿を見ながら、髪を整える。
ルリの記憶には女の子としての記憶がなかったので、髪の整え方た事はなかった。
しかし、乱れた長い髪は、ごわごわして、視界にも入り込み、イライラする。
じゃあ、短く切れば良い。と言う話になるのだが、これが、ルリの望んだデザインだと思うと、どうも、弄る気にはなれなかった。
その為、自然と梳かす事が多くなり、今では、日課となっている。
後は、天井からぶら下がっている、保存食を適当に手に取って、人間の口から摂取する。
そのまま咀嚼し、細かくなった物を、糸を使って、本体まで送り届けるのだが、元々中身まで、人間に寄せて作っていなかった私には、食道の空間づくりから始まり、特に、発声が可能になった時に生まれた、気管との分離が難しくて……。
兎に角、最近になって、やっと、取得した、高度な技なのだ。
今までは本体が出てきて、食べていたので、生存本能的に、危機感と言うか、恥ずかしさがあったので、練習していたのである。
「唾液が出れば、もっと、楽に運べるはず」
私は口の右端を人差し指で、横に広げながら、水に写った自身の口の中を見る。
綺麗に生えそろった歯も、密度高く編み込んであるとは言え、ただの糸なので、実はそれほど固くない。
舌は、喋るために、良く動くようになったので、口の中は、唾液腺と味覚があれば完成だ。
私は口を閉じると、改めて自分の顔を見る。
相変わらず、無表情で、不愛想な顔だ。
水に写った顔を見ながら、ちょっと表情の練習なんかもしてみたりして……。
我ながら気持ち悪くて、毎回すぐやめるのだが。
さて、今日も、元気に行きますか。
顔を上げた私は、ルリちゃん人形を拾い上げると、外に向かって歩き出す。
下を見下ろせば、こちらを見上げる大ムカデ。
どうやら、待ってくれていたらしい。
私は、糸を垂らしながら、その頭の上に飛び乗ると、大ムカデの中に、糸を繋いで、ライドオン!
「キシッ……」
朝から元気ですね……。と、呆れた様な反応をする大ムカデを小突くと、今日も私は命令を出す。
「大ムカデ、発進」
勢いよく腕を振り、指で彼方を指す私の指示に、はいはい、と言わんばかりに、ゆっくりと、大ムカデは動き出した。
朝、目が覚めた私は、寝ぼけ眼で、継ぎ接ぎのルリに挨拶をする。
昨晩は、あの後、変な夢のせいで、よく眠れなかった。
おかげで、全く疲れが取れていない。
「あなたのせい……」
ルリちゃん人形を両手で、私と向き合うように、抱き上げる。
当然、人形からの反応はない。
と言うか、そもそも、あれは、私の人形を壊してしまった、罪悪感から生まれた夢であって、自業自得なのである。
「………眠い」
そう考えると、なんだか馬鹿馬鹿しくなった私は、ルリちゃん人形を置いて、身支度を始める。
まずは、乱れた髪を避けて、顔に掛からないようにして……。
眠気を覚ます為にも、ココナッツの様な木の実の殻で作った桶の水で顔を洗う。
「きもち……」
夏場という事もあり、冷たすぎない、丁度良い水温だった。
私は、自前の糸で作ったタオルで顔を拭くと、水に写った自分の姿を見ながら、髪を整える。
ルリの記憶には女の子としての記憶がなかったので、髪の整え方た事はなかった。
しかし、乱れた長い髪は、ごわごわして、視界にも入り込み、イライラする。
じゃあ、短く切れば良い。と言う話になるのだが、これが、ルリの望んだデザインだと思うと、どうも、弄る気にはなれなかった。
その為、自然と梳かす事が多くなり、今では、日課となっている。
後は、天井からぶら下がっている、保存食を適当に手に取って、人間の口から摂取する。
そのまま咀嚼し、細かくなった物を、糸を使って、本体まで送り届けるのだが、元々中身まで、人間に寄せて作っていなかった私には、食道の空間づくりから始まり、特に、発声が可能になった時に生まれた、気管との分離が難しくて……。
兎に角、最近になって、やっと、取得した、高度な技なのだ。
今までは本体が出てきて、食べていたので、生存本能的に、危機感と言うか、恥ずかしさがあったので、練習していたのである。
「唾液が出れば、もっと、楽に運べるはず」
私は口の右端を人差し指で、横に広げながら、水に写った自身の口の中を見る。
綺麗に生えそろった歯も、密度高く編み込んであるとは言え、ただの糸なので、実はそれほど固くない。
舌は、喋るために、良く動くようになったので、口の中は、唾液腺と味覚があれば完成だ。
私は口を閉じると、改めて自分の顔を見る。
相変わらず、無表情で、不愛想な顔だ。
水に写った顔を見ながら、ちょっと表情の練習なんかもしてみたりして……。
我ながら気持ち悪くて、毎回すぐやめるのだが。
さて、今日も、元気に行きますか。
顔を上げた私は、ルリちゃん人形を拾い上げると、外に向かって歩き出す。
下を見下ろせば、こちらを見上げる大ムカデ。
どうやら、待ってくれていたらしい。
私は、糸を垂らしながら、その頭の上に飛び乗ると、大ムカデの中に、糸を繋いで、ライドオン!
「キシッ……」
朝から元気ですね……。と、呆れた様な反応をする大ムカデを小突くと、今日も私は命令を出す。
「大ムカデ、発進」
勢いよく腕を振り、指で彼方を指す私の指示に、はいはい、と言わんばかりに、ゆっくりと、大ムカデは動き出した。
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