上 下
21 / 48
第3章 上級冒険者

第21話 騎士団(41,42)

しおりを挟む

 ファスタの街に帰ってきたのも束の間、翌日には騎士団からの招集に応じる為にコンフラットとディアと共に王都へと向かう。
 そして辿り着いた騎士団本部は、それほど長いあいだ離れていた訳ではないのにも関わらず既に懐かしい場所のように感じる。

「レックス様!?」

「おお、クルツじゃないか。元気にしてたか?」

 騎士団本部に到着するやいなや門番として働いていた顔見知りに話しかけられる。

「もちろんです! レックス様の教えを守り、日々の鍛錬も欠かしていませんよ!! それにしても今日はどうされたのですか?」

「ああ、そうだった……これを貰ったので来たんだ」

 懐にしまっていた招集令状を取り出してクルツに渡す。

「レックス様は冒険者になられていたのですね! それにこの招集がかけられるということは上級……流石ですね。既に多くの冒険者が集まっていますので、そちらまで案内致します」

 先日にジャンをはじめ各ギルド長が集められ此度の一件に協力する冒険者が推挙されたようで、俺たち以外のAランクを超える冒険者はもう何人か既に到着しているらしい。
 クルツに連れられ騎士団内にある講堂に向かう。
 勝手知ったる騎士団内部ではあるが、今は部外者であるので自由に彷徨くことは出来ないのだ。

「こちらです……ってご存知でさよね。それでは御武運を!」

「ああ、ありがとう」

 入り口でクルツとは別れ、そして扉に手を掛ける。中に入ると既に話し合いが始まっていたらしく、注目を一手に集めてしまう。

「ああ……すまん、俺たちに気を使わずに続けてくれ」

 しかしその提言も虚しく部屋の中にいた者が冒険者と騎士を問わずにザワつき、顔見知りの冒険者が近くに駆け寄って来た。
 騎士の中にも同じように駆け寄ってきたそうにしている者もいるが、上官の目があるので出来ないでいる。
 そして騒ぎが大きくなり収拾がつかなくなり始めた所で、説明をしていた騎士が怒鳴り声を上げた。

「お前ら、元の位置に戻らぬか! 指示に従えぬ奴はギルドに報告し、階級を落としてやるぞ」

「まぁまぁ、落ち着けよグラン。騒がせてすまなかった、すぐに静かにするさ」

 俺のせいで他の者が罰せられるのは気が重いので、仕方がなく矢面に立つべく前に出る。

「レックスか……何をしにここへ戻った。お前はもう騎士団と関わりがないはずだが?」

「聞いていないのか? ……その騎士団の長に呼ばれてここに来たのだ。何か問題があるのか?」

「ダグラス様がだと? ……ふん! ならそんな場所に立っていないで早く席に付け!」

「ああ分かったから、そう気を荒立てるなよ」

 横柄なグランの態度にコンフラットとディアが怒っているが何とか抑え、指示に従い空いている席に向かう。そしてグランから冒険者への説明が続けられた。
 当然に初めから説明をし直してくれることは無いので全容は聞けなかったが、要するにこれからノモマ教団の拠点を叩くらしい。

「──以上で説明は終わりだ。この話を口外することは許さん。もし情報が漏れるようなことがあれば大逆の咎でお前たちは処刑だ。作戦は明日に結構するから、それまで準備をしておくのだな」

 グランは言うべきことはいい終わったとばかりに、この場を去ろうとする。
 しかし連絡を伝えにきた者に引き止められ、そしてこちらに向かって来る。

「お前たち三人は……ダグラス様がお呼びだ。直ぐに向かうように」

「そうか……分かった。わざわざすまないなグラン」

「フン、戦場に顔を出さぬから死んだと思っておったが……お前がいない戦場はつまらん、引退しておらぬならさっさと戻ってこい」

「──ああ、その為にも早くこのつまらぬ戦いを終わらせないとな」

 グランもまた戦馬鹿であり、よくドラゴン討伐で一緒になったものだ。
 根は悪い奴ではないのだが、いかんせん単細胞すぎて気難しい所がある。
 だがそんな奴でも久しく会わなければ、寂しさを感じるのだと思うと笑みがこぼれる。

「何がおかしい?」

「いや何でもない……それより伝言ありがとう、また戦場でな」

「ハハハ、もしお前が使えぬ奴に成り下がっていたのならば俺がお前を切り捨ててくれよう」

「はは……」

 グランは冗談らしきことを言い残して去っていく。
 意外に酒を酌み交わせば面白い奴なのかもしれんが、しばらく会うのは戦場だけで充分だ……本当に冗談だよな?

「レックス様、そろそろ」

「そうだな……気がすすまないが、ダグラスの元に向かうか」

 案内をしてくれるのであろう者たちが、まだなのかとこちらを見ている。
 気が進まないが彼らは団長から指示を受けた仕事を終えるまでは、何があろうと帰ることが出来ないだろうから仕方がない。
 講堂を後にし案内に従って俺たちは、両脇に護衛の騎士が立っている騎士団長の部屋に連れてこられた。
 普段はそこまでの体制は引かれていないのだが、それだけ今回のノモマの一件を重く見ているのだろう。
 そして案内してくれた兵に連れられノックの合図と共に部屋の中へと入る。

「──ダグラス様、こちらにレックス、コンフラット、ディアの三名をお連れ致しました」

「ああ、ご苦労だった。君は下がってくれたまえ」

「なっ! しかし……」

「聞こえなかったのか? 私は下がれと言ったのだ」

「──申し訳ありません、失礼致しました」

 まだ若いであろうその兵は慌てた様子で部屋を出て行く。
 それを見届けてから俺はダグラスに近寄る。

「おいおい、何もそこまで脅す必要はないんじゃないのか、ダグラス?」

「何を言う、ケジメはしっかりと付けねばならん。それにお前たちは既に騎士団を辞め、立場が違うのだ。他者の目があれば話難いこともあろう?」

「そうか……気を使わせてすまないな」

「何、今更そんなことを言うような間柄でもあるまい……よく来てくれたなレックス」

「ああ、結局は俺には戦場ここでしか生きられないみたいだしな」

 お互いに歩み寄り握手をする。

「ちょ、お二人は仲が悪いのでは無かったのですか!?」

 その様子を見てディアが驚きの声を上げるが、そう言えば二人に騎士団を辞めなければならなくなった本当の経緯を話してはいなかった。

「別に仲が悪いわけではないんだがな──」

 ということで何故に俺が騎士団を辞めるに至ったのか、ディアとコンフラットに経緯を説明することにした。
 俺が騎士団を辞めることになった最大の理由は、騎士団内に出来てしまった軋轢を無くす為だ。
 前騎士団長の退役が決まったことを機に騎士団はコンフラットやディアを筆頭に俺を慕ってくれる者たち、そしてグランを始めダグラスを支持する者たちで二分化されていた。
 俺は戦場に出ることのみにしか興味を抱かず、内政に興味を示さなかったことのツケとして俺の預かり知らぬ所で次の騎士団長を推す声が高まり、両陣営の小競り合いは増す一方で看過出来ぬ状況に陥っていたのだ。

「……すみません」

「コンフラットとディアが謝る必要はない、悪いのは自身の影響力を鑑みず戦いに呆けていたこいつだ」

「……まぁ、そういうことになるな」

 何とかしなければいけないと分かった所で俺は騎士団長の座に就くつもりは無かったし、その座に就くに相応しい人物がいたのだから譲るつもりであった。
 たが俺が騎士団内に留まり続けると火種が騎士団内に燻り続けるということで、責任をとって団長の座に就かぬのであればとダグラスに追い出されてしまったのだ。
 騎士団長の座を譲るとはいえ個人的には大きな借りを作ってしまった形になり、事あるごとに小言を言われるので正直会うのは避けたい所ではあったが……。

「何がそういうことだ。大体だなお前は昔から──」

「ああ待て待て、今はその話をしにきた訳ではないだろ? ノモマ教団にどう対処するか決めるのが先決ではないか?」

「それもそうだな…………お前たちは実際にノモマ教団と戦ったのだろう? まずはその話を聞かせてくれ」

「ああ、それは構わないが……逆に騎士団で掴んでいる情報を教えてもらうからな」

 俺はオークエンペラーと戦って得た情報を伝え、ダグラスからは現状で知り得ている情報を伝え聞く。
 概ねジャンから聞き及んでいた内容ではあるが、細かい部分は直接聞いた方がよく分かる。
 そして今回の作戦に至るにあたって重要な、ノモマ教団の拠点をどうやって突き止めたのかだが、貴族が手に入れたという眉唾な情報であるらしい。
 しかし国王からの厳命がある以上はその情報に従って、騎士団長自らも動かなければならないそうだ。

「……ということはまさか、騎士団が不在の間に俺たちに王都を守れということか?」

「察しがいいな……だがそういうことだ。騎士団は王命に逆らうことは出来ぬが、既に騎士団を辞めているお前たちなら問題無い。こう言うのも何だが、信のおける者をここに残しておかなければいけない状況なのでな」

 ドワーフ兵の裏切りについても報告が上がっているだろうし、その他にも懸念すべき事案が発生したのだろう。
 確かにその状況下で王都を不在にしなければならないと言うのは、騎士団長として不本意でしか無いのかもしれない。

「……良いのか? もしかすると俺たちがノモマに内通しているかもしれないんだぞ?」

「ふん! そうであるならばとっくに王都は陥落しておろうが。だが、そうであるならば私がお前の首をこの場で切り落としてやる」

 ダグラスは剣に手を掛け抜く素振りを見せてくる。

「おいおい、冗談だぞ?」

「……分かっている。だが騎士団内……というより私を支持する者たちにとってお前は私に敗れて追い出された身。形だけなのだが事情を知らぬ騎士の中には未だに敵視するものもおるだろうから、なるべく不用意な発言は避けることだな」

「……分かった、気をつけよう」

 話を終えて俺たちは団長の部屋を後にする。
 そして冒険者用に事前に準備してくれている客室へと向かうのだが、その道中に絡まれてしまう。

「貴様、ダグラス様の部屋から出てくるとはどういうことだ? 返答によってはただではすまさんぞ!」

 ダグラスに陶酔しきっている若い騎士団員なのだが、俺たちがそのダグラスの指示で訪れたことを知らないのであろう。
 いちいち相手をするのは面倒な奴であるが、放置する訳にもいかないので久々に相手をして上げることにした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~

扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。 公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。 はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。 しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。 拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。 ▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

ウロボロス《神殿の中心で罪を裁く》【完結】

春の小径
ファンタジー
神がまだ人々と共にあった時代 聖女制度を神は望んではいなかった 聖女は神をとどめるための犠牲だったから

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...