騎士団から追放されたので、冒険者に転職しました。

紫熊

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第2章 中級冒険者

第20話 招集(39,40)

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 魔物のスタンピートそしてオークの襲撃から一夜が明け、ようやく被害の全容が明らかになった。
 死傷者も出て里の大部分は崩壊してしまったが、ドワーフたちは前を向き既に日常を取り戻そうと働き出している。
 そして数日が経った今、未だに厳戒体制は引かれているが魔物の襲撃は完全に止まったので、それも直ぐに解除されるだろう。

「レックスさま!」

「あれ? 君たちは鉱山の……」

 里の中を歩いていると、鉱山の中で心配そうにしていた子供たちが俺を見つけて駆け寄ってきた。

「元気そうだなお前たち」

「うん、レックスさまが里を守ってくれたおかげだよ!」

 純真な心で感謝の言葉を述べられ嬉しいのだが、もっと上手くこの里を守ることが出来たのではないかという葛藤があるので複雑な気持ちになる。

「それでね、ぼくたちレックスさまのためにこれを作ってきたの!」

 そう言って子供たちが取り出してきたのは小さな短剣であった。
 ここで草花で作った冠とかではなくて、武器だというのは如何にもドワーフらしい。

「本当にいいのか貰っても?」

 子供が作ったにしてはかなりの質の良さであり、タダで貰うには忍びないぐらいの物だ。

「うん、レックスさまが喜んでかれるならだけど……」

 しかしその遠慮がどうやら、子供達を不安にさせてしまったらしい。

「いや、嬉しいよ。大事に使わせて貰うな」

「ほんとに! 良かった!!」

 俺の腰にはかつてコンフラットから貰った剣が一本携えられているのみである。
 ドワーフの宝剣は戦いが終わり、カザフに返却を求められたので既に手元には無い。なので主武器の補助として貰った短剣を新たに腰に挿し、その様子を見て子供達は笑顔になる。
 そして子供達とはお別れし、俺はそのままの足でケインたちの元へと向かう。

「失礼するよ」

 訪れたのは無事だった建物を修復し、簡易の治療施設として利用している場所だ。
 未だに多くのドワーフ、そしてケインたちが治療を受けている。

「大丈夫か、お前たち」

「レックスさん! 俺はもうこのと──ってて」

「おいおい、あんまり無理して動かすな。まだ完全にくっ付いている訳ではないんだろ?」

 ケインは戦闘によって肋骨や腕の骨を折っていた。
 そしてゴルドフ、リアーナ、レイナも程度の違いこそあれ同じ様に怪我を負っている。
 必要な物資さえ十分にあれば直ぐにでも回復させることが出来るのだが、回復ポーションはより重傷者に回さざるを得なかった。

「大丈夫ですよ、これぐらいの怪我。それよりこれからをどうするんですか」

 ノモマの襲撃がドワーフの里だけで起こったとは到底思えない。
 一刻も早くその全容を把握するためにも、一度はギルドに向かわなくてはならないのだが……。

「俺は一旦直ぐに、ファスタの街に戻ろうと思う」

「なら、俺たちも──」

「それはダメだ。お前たちにはここに残って治療に専念して貰う」

 おそらく他の街に戻ったところで、どこに行っても物資は不足している状況だろう。
 それに手負いの四人を連れた状態で万が一にも襲撃されれば、それこそ命を落としかねない。

「駄目だよケイン、これ以上レックスさんを困らせたら」

 冷静に物事を見えているレイナがケインを諌める。

「すまないなレイナ……だが治療が終わればお前たちの力はまた貸して貰うことになる。だから今は一刻も早く怪我を治すことに専念してくれ」

「「「「はい!」」」」

 これでケインたちの説得は終わったのだが、問題は残る二人だ。
 ディアは仕方がないにせよ、コンフラットは里の皆の為にもこの場所に留まり続ける方が良いと思うのだが、そう簡単に聞き入れて貰えるとは思えない。
 いずれにせよ話してみなければいけないので、臨時としてドワーフの里の執務全般を行う場所として整えられた鉱山の中へと向かう。
 そうして里の復興のために忙しなく働き指示を出しているコンフラットを捕まえて話をする。


「コンフラット、少しいいか?」

「レックス様! 如何されたのですか?」

「俺は今日にでも、ファスタの街に戻ろうと思う」

「それでしたら私もお供致します!」

「やっぱりそうか……いやな、気持ちは嬉しいんだが、里の復興はどうするんだ? お前に今ここを抜けられたら、大変なことになるんじゃないか?」

「それは……」

「それにお前はもう、この里の皆の心の支えでもある。ならその責任を果たす方が先決だと思うのだが」

「ですが私は……」

 コンフラットは自分の気持ちと、果たすべき責務との間で心が揺れ動いているようだ。
 それならばと俺のことは心配ないと伝えようとするのだが、そのタイミングでカザフが現れる。

「行けば良いぞ、コンフラットよ!」

「良いのですか、父上!?」

 カザフはコンフラットを引き留めてくれるのかと思いきや、まさか送り出す方だった。

「ちょ、カザフいいのか? 今、コンフラットに里を抜けられたら大変ではないのか?」

「なんだ、お主はワシがもう引退するとでも思っておるのか?」

「違うのか?」

 てっきり戦場に出てきた時の雰囲気からそうだとばかり思っていたし、現に今のドワーフの里を仕切っているのはコンフラットだ。

「馬鹿を言え。ワシがそう簡単に隠居すると思うのか?」

「なら何故、この大変な局面をコンフラットに任せてるんだよ」

「フン、勘違いするでない。任せてたのではなく、任せるしか無かったのだ」

 カザフはそう言いながら、一本の剣を渡してくる。
 装飾の無い柄から取り出してみると、それは紛れもなくドワーフの宝剣であった。

「いいのか? 大事なものだから回収したのではないのか?」

「ハッ、そんなケチくさいことはせんわ。ただ持ち主に合わせて調整されていない武器を渡すなど、ワシの誇りが許さんからな。ワシが鍛え直してきたんじゃ」

 ここ数日に渡ってカザフがコンフラットに全てを任せていたのは、これが理由だったらしい。
 確かに宝剣はドワーフの長が鍛えてきたと言っていたが、まさか俺の為に鍛え直してくれるとは思ってもみなかった。

「そうだったのか……うん、しっくり来るいい感触だ」

 それを聞いてカザフは当然だという顔をする。
 そして用意したのはこれだけではなかったらしく、更に色々と運ばれて来る。

「それだけではない、他にも装備を新調しておいたから、さっさとその情け無い格好をなんとかせい」

「いいのか、こんなに貰っても?」

「当然じゃ。お主らはこの里を守る為に命を賭けてくれたのだ。ワシらもその誇りを持って礼を尽くさねばならんじゃろうて」

 どうやらケインたちの装備も用意してくれるそうだがそれはまだ間に合わなかったらしく、採寸を含めて滞在中に揃えておいてくれるらしい。
 そしてここに用意された装備は俺とディア、そしてコンフラットの装備だ。

「父上……本当によろしいのですか?」

「当然じゃ、むしろノモマ教の奴らを倒すまで帰ってくるでないわ。それまでレックスの為に役に立ってこい」

「はい! ありがとうございます、父上」

 どうやらコンフラットは吹っ切れた様子だが、その気合が空回りしないように気を使わなくてはいけない。
 しかし俺が守らなくてはいけない存在だったコンフラットが、いつの間にかドワーフの里を守る新たな希望となった。
 そして既に背中を預けて信頼できるだけ成長していた。
 それを確認出来たことだけは、今回の出来事の良かったことかもしれない。

「ならカザフ、また会おう」

 こうして他の知り合いたちとも別れの挨拶も済ませ、今回の全容を知るためにもドワーフの里を後にし、コンフラットとディアを連れてファスタの街に戻る。
 幸いにもファスタの街には襲撃が無かったようで建物は前と変わらぬ姿のままなのだが、しかし道行く人々の顔はどこか暗く、いつものような活気は失われている。
 そんな街を見ながら、報告と確認の為に街に到着したそのままの足でギルドへと向かう。

受付嬢ベルギルド長ジャンはいるか?」

「レックスさん!? 今までどこに……」

「どこにって、ジャンに言われて装備を揃えにドワーフの里へ行っていたんだ。聞いていないのか?」

「武器を新調しに出掛けるとは聞いていましたが、それがドワーフの里だなんて聞いてませんよ……」

「そうだったか? ……まぁそれは置いといて、ジャンに早く伝えたいことがあるから、今すぐに会えるかな?」

「不可侵領域になってるドワーフの里に入るのをどうでもいいって……まぁ、今ギルド長はギルド本部からの招集で王都に行っています。そろそろ帰って来ると思いますけど、ここで待たれますか?」

「そうか……なら待っている間に色々と聞きたいことがあるのだが大丈夫か?」

「……それはノモマ教の襲撃に関してですか?」

「ああそうだ、俺がいなかった間に起こった事について確かめて置きたい」

「分かりました……ここでは話し難いので、奥の部屋でお話致しましょうか」

 ノモマという言葉に敏感になっている冒険者も多く、いらぬ騒動を引き起こさぬよう場所を移す。
 そしてベルが話してくれた内容は想像通りの内容であり、様々な街でスタンピートが引き起こされ全ての冒険者が総動員され対応に当たったそうだ。
 しかしそれでもドワーフの里と同様にエンペラー種の襲撃があった街もあり、至る場所で壊滅的な被害が出たらしい。

「そうか……だがエンペラー種と戦って大丈夫だったのか?」

「壊滅的な被害があったと聞いていますが、騎士団が駆けつけた時には何故か既に去っていたそうです」

「去っていた?」

「はい。まだ詳しい情報は入っていませんが、既にどこにもいなかったそうです」

「そうか……」

 壊滅的な被害が出たことは分かるが、エンペラー種がそれだけで去っていく理由が分からない。
 何かしらの意図があったと思うのだが……。
 コンフラットとディアも隣で首を傾げているので、理由が分からないようである。
 そして頭を悩ませているとジャンが帰って来た。

「お待たせして申し訳ありません、レックスさん」

「いや俺たちもつい先ほど到着した所だからそれほど待ってはいない。それより話を聞かせて貰えるか?」

「ええもちろんです」

 ジャンに王都で確認してきた他の町で起こった情報を聞き、俺はドワーフの里で起きた出来事を話す。
 ノモマ教団によって引き起こされたスタンピートはドワーフの里を含めて十二地点であり、中級以上の冒険者は全員駆り出されたもののどこも大きな被害が発生したそうだ。
 そのうちエンペラー種が現れたのは半数の六ヶ所であり、特に壊滅的な被害が発生したそうである。

「国へ報告が上がっている話ではエンペラー種を討伐できたのはレックスさんがいたドワーフの里のみで、他の場所は全て騎士団が到着した時には姿を確認出来なかったそうです」

「その理由は分かっていないのか?」

「はい、騎士団の方々も不思議がっていました……」

「そうか……」

「今回の一件で国王様は非常事態宣言を出し、騎士団に早期の解決を指示されました。なので今、騎士団はノモマ教団を壊滅させるべく動き出しています」

「まぁ、そうなるよな」

「そしてレックスさんを含めコンフラットさん、ディアさんも今回の一件でAランクへの昇格が決まりました」

「はい? ちょっと待て、何故に今そうなるんだ。まさか……」

「ええ、そのまさかです。御三方は騎士団からの招集がかかっています」

 ジャンにそう告げられて一枚の招集令状を渡される。
 冒険者で騎士団と共に任務に就くのはAランク以上からだ。そして今の騎士団に人材を遊ばせておく余裕はない。

「俺のことを売ったなジャン……」

 当然、昔ながらの付き合いのジャンは騎士団長ダグラスとも知り合いだ。
 そして冒険者になったことを伝えられたダグラスがこの状況下で、俺のことを放っておいてくれるはずがない。

「はぁ……仕方がない。王都に行くしかないか」

 国の直属の組織である騎士団からの命はもはや強制に近い。
 これを断れば、これから冒険者として生活し続けることは難しくなる。

 こうして唐突な上級冒険者への昇格と、騎士団へ向かうことが決まったのであった。


──第2章完──
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