29 / 48
連載版
27
しおりを挟む魔物が共喰いをすることは普通はありえない。
共喰いは進化という恩恵を得られる僅かな可能性があるとはいえ、自ら自殺を図るようなものなのだ。
本当にゴブリンキングが居たならば、そして共喰いが俺たちが来た時に起こったということは偶然とは思えない。
最大限の警戒をしながら洞窟の深部へと歩を進めると、奥に火の揺らめきが見える。
おそらくはゴブリンたちが居住している場所なのであろう。
しかしここまで近付いても襲って来ることがないということは、俺は誘われているのかもしれない。
罠があるかもしれないが分かっていても進むしかないので先に進むと、洞窟の中とは思えないほどひらけた場所に出た。
そしてそこにいたのは──。
「本当にいたか、ゴブリンキング!」
「グォォォォオ!!」
俺の声に人の何倍もの大きさを誇るゴブリンキングが咆哮する。
咆哮を不意打ちでくらえば意識を飛ばされることもあるのだが、分かっていれば対処は難しくない。
「キングのくせにそれで終わりか?」
「……ニンゲン、コロス!」
「なっ、喋っただと……まさか人も喰っているのか?」
ゴブリンキングに到達すると、人の言葉を話せるほどの知能を有するらしい。
そして人の言葉を話すということは、これまでに人をも喰らっている証拠でもある。
つい先ほど進化をするために仲間のゴブリンを喰らっていたのか周囲はゴブリンの残骸と血で溢れているが、もしかすると人のそれも混ざっているのかもしれない。
「オデ、イッパイクッタ。オマエモクウ」
ゴブリンキングは俺の言葉を理解して返して来る。
「はっ! やってみろ!!」
巨体に似合わぬ俊敏な動きで迫って来るゴブリンキングの攻撃を、剣で受け流しながら交わす。
その攻撃を完全に受けきれば、刃こぼれして戦えなくなってしまうほどの力だ。
さらにゴブリン謹製の剣にもかかわらず、その刃には魔力を纏わせている。
どうやら本当にキングの名に違わぬ力を有しているようだが、しかしキングになってから間もないせいか攻撃は単調で対処はむずかしくない。
「ゴガァァア!!」
単に誘われているだけなのかと試しに反撃してみたのだが、普通に攻撃が通った。
「この程度がお前の実力か?」
「コロス、コロス、コロス……」
キング級ということで警戒をし過ぎていただけなのかもしれないが、想像を遥かに下回る弱さだ。
俺たちが来たと同時にゴブリンが進化を果たした理由が分からないままだが、このキングに聞いても答えが得られるとは思えない。
「やれるものならやってみろ!」
「グルラァアア!!」
再びゴブリンキングが突撃をして来たのだが、今度は攻撃を受け流さずに受け止めた。
工夫が足らない突撃など取るに足らないし、魔力障壁で幾らでも衝撃を緩和出来る。
「俺と戦うには早過ぎたなキング。これで終わりだ──」
ゴブリンキングの首に剣を振り下ろす。
しかしガキィンと鈍い音が鳴り響き、キングの首が落ちることは無かった。
一塊の黒いフードを被った者が間に割り込み、剣で俺の攻撃を受け止めたのだ。
「チッ!」
突然の乱入者に距離をとる。
どんな状況であれ俺の一振りを受け止めた事実は、警戒する理由としては充分だろう。
それにその体から迸る魔力が、乱入者の実力を物語っている。
「いやぁ、さすが特記戦力。ゴブリンキングぐらいでは手も足も出ませんね」
「なんだお前は?」
「ああ、言ってなかったですね。僕は──ゴブリンエンペラーのフロウです」
フードを取り外し姿を表したそいつは少年のような背丈をし、ゴブリンらしい緑色の肌と角があるもののその本質は全く別物だ。
「エンペラーだと?」
「ええ、そうです。でも出来れば名前で呼んで頂きたいですね」
これでこの洞窟で共喰いによる進化が行われたのかが分かった。
おそらくこのフロウと名乗ったエンペラーが強要したのだろう。
しかし何故、わざわざそのようなことをしたのかが分からない。
「なんでエンペラーがここにいるんだ?」
「無視ですか……まぁいいですよ。僕は貴方を試しにきただけですから」
「どういうこと──」
「グォォォォオ!!」
質問をしようとしたらゴブリンキングが突然に走り出し、俺に攻撃を仕掛けようとする。
「邪魔ですよって、あ…………まぁいいか」
「なっ!?」
走り出したキングの首をエンペラーが手刀で切り落としたのだ。
「良いのか殺してしまって? お前らは仲間だろ?」
「仲間ですか……はは、笑わさないでくださいよ。僕をこんなオモチャと一緒にしないでください。この程度のオモチャは幾らでも代わりがききますよ」
「それはどういうことだ?」
「教えて欲しいですか? 教えて欲しいですか?」
エンペラーはいたずらっぽく笑みを浮かべながら、聞いてきた。
その姿は答えを知っていることを自慢したい子供そのものである。
「……ああ、教えてくれ」
「ふっふっふ、いいですよ。ですが、僕を楽しませてくれたらですがね!」
「はっ! 望むところだ!」
こうしてゴブリンエンペラーとの一騎打ちが始まるのであった。
0
お気に入りに追加
3,220
あなたにおすすめの小説
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる