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連載版

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 魔物が共喰いをすることは普通はありえない。
 共喰いは進化という恩恵を得られる僅かな可能性があるとはいえ、自ら自殺を図るようなものなのだ。
 本当にゴブリンキングが居たならば、そして共喰いが俺たちが来た時に起こったということは偶然とは思えない。
 最大限の警戒をしながら洞窟の深部へと歩を進めると、奥に火の揺らめきが見える。
 おそらくはゴブリンたちが居住している場所なのであろう。
 しかしここまで近付いても襲って来ることがないということは、俺は誘われているのかもしれない。
 罠があるかもしれないが分かっていても進むしかないので先に進むと、洞窟の中とは思えないほどひらけた場所に出た。
 そしてそこにいたのは──。

「本当にいたか、ゴブリンキング!」

「グォォォォオ!!」

 俺の声に人の何倍もの大きさを誇るゴブリンキングが咆哮する。
 咆哮を不意打ちでくらえば意識を飛ばされることもあるのだが、分かっていれば対処は難しくない。

「キングのくせにそれで終わりか?」

「……ニンゲン、コロス!」

「なっ、喋っただと……まさか人も喰っているのか?」

 ゴブリンキングに到達すると、人の言葉を話せるほどの知能を有するらしい。
 そして人の言葉を話すということは、これまでに人をも喰らっている証拠でもある。
 つい先ほど進化をするために仲間のゴブリンを喰らっていたのか周囲はゴブリンの残骸と血で溢れているが、もしかすると人のそれも混ざっているのかもしれない。

「オデ、イッパイクッタ。オマエモクウ」

 ゴブリンキングは俺の言葉を理解して返して来る。

「はっ! やってみろ!!」

 巨体に似合わぬ俊敏な動きで迫って来るゴブリンキングの攻撃を、剣で受け流しながら交わす。
 その攻撃を完全に受けきれば、刃こぼれして戦えなくなってしまうほどの力だ。
 さらにゴブリン謹製の剣にもかかわらず、その刃には魔力を纏わせている。
 どうやら本当にキングの名に違わぬ力を有しているようだが、しかしキングになってから間もないせいか攻撃は単調で対処はむずかしくない。

「ゴガァァア!!」

 単に誘われているだけなのかと試しに反撃してみたのだが、普通に攻撃が通った。

「この程度がお前の実力か?」

「コロス、コロス、コロス……」

 キング級ということで警戒をし過ぎていただけなのかもしれないが、想像を遥かに下回る弱さだ。
 俺たちが来たと同時にゴブリンが進化を果たした理由が分からないままだが、このキングに聞いても答えが得られるとは思えない。

「やれるものならやってみろ!」

「グルラァアア!!」

 再びゴブリンキングが突撃をして来たのだが、今度は攻撃を受け流さずに受け止めた。
 工夫が足らない突撃など取るに足らないし、魔力障壁で幾らでも衝撃を緩和出来る。

「俺と戦うには早過ぎたなキング。これで終わりだ──」

 ゴブリンキングの首に剣を振り下ろす。
 しかしガキィンと鈍い音が鳴り響き、キングの首が落ちることは無かった。
 一塊の黒いフードを被った者が間に割り込み、剣で俺の攻撃を受け止めたのだ。

「チッ!」

 突然の乱入者に距離をとる。
 どんな状況であれ俺の一振りを受け止めた事実は、警戒する理由としては充分だろう。
 それにその体から迸る魔力が、乱入者の実力を物語っている。

「いやぁ、さすが特記戦力。ゴブリンキングぐらいでは手も足も出ませんね」

「なんだお前は?」

「ああ、言ってなかったですね。僕は──ゴブリンエンペラーのフロウです」

 フードを取り外し姿を表したそいつは少年のような背丈をし、ゴブリンらしい緑色の肌と角があるもののその本質は全く別物だ。

「エンペラーだと?」

「ええ、そうです。でも出来れば名前で呼んで頂きたいですね」

 これでこの洞窟で共喰いによる進化が行われたのかが分かった。
 おそらくこのフロウと名乗ったエンペラーが強要したのだろう。
 しかし何故、わざわざそのようなことをしたのかが分からない。

「なんでエンペラーがここにいるんだ?」

「無視ですか……まぁいいですよ。僕は貴方を試しにきただけですから」

「どういうこと──」

「グォォォォオ!!」

 質問をしようとしたらゴブリンキングが突然に走り出し、俺に攻撃を仕掛けようとする。

「邪魔ですよって、あ…………まぁいいか」

「なっ!?」

 走り出したキングの首をエンペラーが手刀で切り落としたのだ。

「良いのか殺してしまって? お前らは仲間だろ?」

「仲間ですか……はは、笑わさないでくださいよ。僕をこんなオモチャと一緒にしないでください。この程度のオモチャは幾らでも代わりがききますよ」

「それはどういうことだ?」

「教えて欲しいですか? 教えて欲しいですか?」

 エンペラーはいたずらっぽく笑みを浮かべながら、聞いてきた。
 その姿は答えを知っていることを自慢したい子供そのものである。

「……ああ、教えてくれ」

「ふっふっふ、いいですよ。ですが、僕を楽しませてくれたらですがね!」

「はっ! 望むところだ!」

 こうしてゴブリンエンペラーとの一騎打ちが始まるのであった。
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