騎士団から追放されたので、冒険者に転職しました。

紫熊

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 魔物は進化する生物だ。
 ゴブリンであればホブゴブリンから始まりゴブリンロード、ゴブリンキング、そしてゴブリンエンペラーとなる。
 そうしたゴブリンは生来よりそうなるべくした特別な力を持って生まれてきた場合が殆どなのだが、しかし稀に亜種なる進化をする魔物がいることがある。

[共喰い]

 それは同一種族を喰らうことだが、進化において重要なのは魔物の持つ魔石を魔物が喰べるということだ。
 本来であれば魔石が内包する力によって喰べた魔物は死に至るのだが、稀にその力を自分のものにすることが出来る魔物がいる。
 そしてその進化は喰らった魔石の量と質によって変わるのだが、ここには想定よりもゴブリンの数が遥かに少なくホブゴブリンさえ現れない。

「……ということは、この洞窟にキングやエンペラー種がいる可能性があるということですか?」

 不安そうな顔でレイナが聞いてくる。

「それは分からない。だが元より大きな群れではなかったようだから、エンペラー種まではいないだろう」

「それってキングはいるかもしれないってことでは?」

 俺の言葉にケインが敏感に反応する。

「ああ、その可能性は十分にある」

「あるって……簡単にいいますが大丈夫なんですか!?」

 倒せるか倒せないかであれば当然に倒せる。
 しかしケインたちを守りながらということが問題だ。
 戦闘経験を積ませるたい気持ちもあるが、キング種には生半可な力では太刀打ちできない。
 そして四人を守りながらの戦いとなると、後手に回らざるを得なくなる。

「……お前たちはどうしたい?」

「私は戦います!」
「俺は戦います!」

 当然にディアとコンフラットは宣言する。
 しかしケインたちはお互いの顔を見合わせ悩む。

「無理する必要はないぞ。ここから先に進めば命の保証は出来ない。撤退の決断をするのも冒険者としては必要なことだ」

「俺は……」

 ケインはなかなか決断ができない。
 しかしそれを見てレイナが先に結論を出す。

「一緒に戦いたい……そうは思いますが止めておきます」

「おい、レイナ!」

「ううんケイン、駄目だよ。私たちが付いて行ったら邪魔にしかならないと思う。そんなことをケインはしたいの?」

「いや……」

「リアーナとゴルドフはどう?」

 二人はレイナに同意し頷く。
 それを見て俺は皆に告げる。

「よし、ならお前らは先に街まで帰ってくれ……ディアとコンフラットもだ」

「「なっ、なんでですか!?」」

 当然のようにディアとコンフラットが反論してくる。
 しかしこれは変えることのできない決定事項だ。

「撤退する時が一番危険だと、お前たちも良く分かっているだろう? 気持ちは分かるが、ケインたちに付いて行ってくれ」

「……それなら一人でもいいのではないですか?」

「そうですよ、それならディアを付いていかせて俺は残ります!」

「何を言っているの? 当然、私が残ります!」

「二人とも止めないか。両方とも連れていかない」

「何故ですか?」

「それはここに来るまでにディアは自覚しているだろう?」

 ディアが魔法を使って戦うには洞窟は狭すぎる。
 本気を出して戦えば崩壊させかねないので弓に頼らなければならないが、矢の数には限りがあるので再びナイフに頼れば先ほどの二の舞だ。
 強敵を前に抑えが効かなくなっては、何が起こるか想定できない。

「うぐっ……」

「でもそれなら俺は戦えますよ?」

「コンフラットは戦えなくはないだろうが、だからこそケインたちに付いて行って欲しい。もしかするとホブゴブリンやゴブリンロードが外へ逃げ出しただけの可能性もあって、どこかで遭遇する可能性もあるからな」

「……分かりました。ならお前たち、さっさと帰るぞ!」

「えっ、えっ? 本当にいいんですか?」

「いいんだ、レックス様がそう決めたんだ。俺たちはそれに従う」

 先ほどまで納得していなかったのに、翻したように態度が変わったコンフラットにケインたちが困惑する。
 しかし無理やり背中を押され、抗えずに進んでいく。

「悪いな、コンフラット」

 ここまでくれば当然この先に敵がいることは分かるし、それはディアもコンフラットも気付いているだろう。
 なので俺の言葉の半分は本音で半分は建前だったが、コンフラットは俺の目を見て空気を読んでくれたのだ。
 ゴブリンキング以上の敵となると久しぶりの少しは骨のある敵になる。
 俺にとっては動物と大差ない魔物との戦闘が続き体がなまってきていた所なので、久々の強敵に少しばかり血が滾りそれをコンフラットに悟られてしまった。

「……さて、何が出るかな」

 ここから先は何が出るか分からないし、このタイミングで魔物が進化したことも気になる。
 ゴブリン以外の敵もいる可能性もあり得るので、慎重に洞窟の深部へ歩を進めるのであった。
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