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第1章 初心者冒険者

第5話 モフモフな友人

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 ギルドを後にした俺は、宿を探す。
 生活の拠点となる場所なので、ジャンにおすすめの場所を聞いておいた。

「ここか?」

 はるばる街外れまでやってきたのだが、立派な建物なのに見た目はボロボロだ。
 行ってみれば気にいるという言葉を信じて来たのだが、不安でしかない。
 しかし大事なのは中身なので、外観だけ判断するわけにはいかず中に入る。

「すみません、宿泊をしたいのだ……が」

 中に入るとそこには幾人か人がいるのだが、その誰もが亜人と呼ばれる者たちであった。
 耳と尻尾を生やした獣人、小さい背丈にガッシリとした体躯のドワーフ、さらには耳の尖ったエルフまでいる。

「申し訳ございません、ここは紹介されたお客様しか取っていませんのでお帰り頂けますか?」

 宿の従業員らしき獣人に応対される。
 まだ小さいので、ここの宿の亭主の子供なのかもしれない。

「いや、俺はこの街の冒険者ギルドのギルド長をやってるジャンから紹介されてきたんだ」

「ジャンさんが? ……わかりました、亭主を呼んで来ますのでちょっと待ってて下さい」

「ああ」

 猫科の獣人らしき少女は駆け足で、奥の部屋に向かっていく。
 しかしその間にも俺は、他の亜人から奇異の目で見られる。

「何か用かな?」

 しかしその問いに返答はなく、そっぽを向かれる。
 まぁ明らかに場違いなのは俺なので仕方ないが、なぜジャンはここを進めてきたのかが分からない。
 疑問に思いながらしばらく待っていると、先ほどの少女が亭主を連れて戻ってきた。

「すみません、お待たせしま……って、な、なんでここに!?」

「あれ? お前は確か……レオ?」

「そうです! なんでレックス様がこんな所に!?」

「だからギルド長のジャンに紹介されたんだよ。それよりまさかレオが宿屋の亭主だとはな」

 ライオンの獣人であるレオはかつて人々の生活を脅かす集団のボスだった男だ。
 若い頃の俺はその集団の討伐を依頼されたのだが、そこの実態は獣人たちがお互いを支え合うコミュニティだった。
 仲間を守るためとはいっても暴力行為を働いていたのは事実であれば解散させざるを得ない。
 しかしそのまま放置することは出来ないので、子供は施設に送り大人は何かしらの職にありつけるよう斡旋した。
 そしてレオには確か手に職をつけさせる為にも飲食店に入ったはずだ。

「レックス様に言われた、暴力ではない別の手段でみんなの役に立ての言葉を胸に頑張ったのです!」

「その答えがここなんだな」

「はい、亜人でも安心して泊まれる宿です。それにレックス様が紹介してくれた飲食店で学んだ技術も活かせますしね!」

「そうか、それは良かった。だがそれなら俺はここに泊まらない方がいいかな?」

 せっかく亜人たちにとって安心できる空間なのだ。
 俺が加わった、それを邪魔しては悪い。

「そんな、とんでもない! レックス様は亜人の皆にとってはヒーローなのです。ほらっ!」

 後ろを振り返ると、先ほどまで目を合わせることのなかった亜人たちが駆け寄ってきた。
 どうやら先ほどからの視線は、俺が本物のレックスか分からないのと話しかけて良いのかという戸惑いだったみたいだ。

「本当に、本当にレックス様なのですか!?」
「俺の村はレックス様に救われました!」
「私の家族もそうです!」
「何でここにいるのですか?」

 いっぺんに話しかけられても、答えることができないのだが。
 しかし嫌われているわけではないことは、伝わってきた。

「俺はここに泊まっていいのかな?」

「「「「「当然です!!」」」」」

「そ、そうか、ありがとう」

 宿泊客の同意が得られたので、ここに泊まることにする。

「では話したいことはたくさんありますが、まずはお部屋に案内します。ほらネル、例の部屋の鍵を持ってきて」

「はい、お父さん」

 ネルと呼ばれた少女は、やはりレオの子供らしい。

「それにしてもレオが親になってるとはな。相手は誰だ?」

「私です」

「ってライラか?」

「はい、お久しぶりですレックス様」

「大きくなったな、というよりレオの嫁なのか?」

「はい、レックス様に救われた命のお陰で大事な人に巡り会えました」

 ライラは人拐いに捕まっていた少女だ。
 人拐いの拠点を討伐した時に助け出すことが出来た。
 奴隷商人に売り飛ばされると助けることが出来ないが、拐われてすぐだったので助けることが出来たのだ。
 奴隷契約をされてしまうと、何とでも言い逃れされてしまうので厄介な話なのである。

「そうか、そうかあの小さかったライラがお母さんなのか……それは俺も歳を取るわな」

「レックス様にはお相手はいないのですか?」

「まあ戦場に籠り続けたからな。いつ死んでもおかしくなかったから、貰い手がいないよ」

「そんなことはないですよ、だって私も……いえ何でもないです」

「そうか? まぁ、一人で困ることはないからな。それより暫くは泊まるつもりだから宜しくね」

「ええ、もちろんです」

 こうして懐かしい顔に再会しながらも生活の拠点が定まったのであった。
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