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ヨンゴ
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「ご主人様ってもしかして、限りなくああ言うタイプの女子に弱い?」
「まぁ、色々あったんですよね」
新しいレシピをインストールされた3号が大量の菓子を作っている隣で、4号は頬杖をつきながら3号に問うた。人の血を愛する残光無慈悲な悪魔、カークリノラース。この世界では色々な契約を結ぶ事で血に飢えない方法を探し出していた。そして、それは概ね成功している。
「リューシュにも甘いなぁって思ってたんだよね」
「まぁ、色々と。あ、そこの砂糖補充しといてください」
自分より前に主人と主従契約を結んだ3号は、ずっと昔、遠くの世界で友人からぶんどってきたと聞いている。曰く「スイーツ無しじゃ生きられない体になった責任を取ってもらった」と。
友人がいたと言うのも嘘くさいが、その人はよっぽど面倒見が良かったんだろう。
今回確かに良い質の魔力を手に入れた。三種の魔力は全て等しく、力も強大でこれなら主人が如何様にも加工できるだろう。スイーツは主人の趣味として、納得できる。けれど、命十年分は明らかにリサのためだった。
魔力は命を削る。あの国の者達は外の国と比べて十年は寿命が短い。強い魔力は使わなければ体を痛めるが、使っても命は縮む。カサブランカとして魔力を使う以前から、リサは無意識に魔力を使って芸事を習得してきた。過酷な修行は体を痛め、魔力でそれを瞬間で治していた。黒目黒髪の女達はそうやって命を縮める運命だった。そこから、その経験を全て取り去る。リサの寿命は平均以上になっただろう。そしてまた、レフィも『死んだ』と言う代償を払ってそれまでの体の負担をゼロにしていたのを、この僕は気がついていた。
主人の目的は分からない。何を考えているのか……
「バケツサイズ追加よん」
「いくつですか?」
「だから、四よ!」
キッチンに空になったバケツ水羊羹の入れ物を持って主人はやってきた。
やっぱりなんも考えてないかも知れない……
「そうだわ。収穫できた魔力で異世界に飛ぶわよ、明日。準備しといてね」
「急過ぎない?」
「思い立ったら吉日と言う言葉があるのよ」
カークは指で丸を作ってそれを覗く。
「予定より、私と王国との契約満期になりそうなのよね。そうなると、皆殺しにしかねないあからさっさと次行くわよ、次!」
冷蔵庫から百はあろうかと言う一口葛餅タッパーを持って、主人はキッチンを後にした。
キッチンは3号に任せるんだから、荷造りくらいはしなければ。ヨンゴは手近にあったケーキを口に放り込む。
「甘くないね」
「プティフールサレと言うお菓子ですね。レシピはもらいましたけど、あのお嬢さんでもまた作れるお菓子ですよ」
「リサの方が上手かった」
完全コピーなのだから、そんなはずはない事は4号には分かっていた。けれど、自分にとっては彼女のお菓子は特別だった。
もう一口懐かしい味を味わって、4号は荷造りのために部屋を出た。
「まぁ、色々あったんですよね」
新しいレシピをインストールされた3号が大量の菓子を作っている隣で、4号は頬杖をつきながら3号に問うた。人の血を愛する残光無慈悲な悪魔、カークリノラース。この世界では色々な契約を結ぶ事で血に飢えない方法を探し出していた。そして、それは概ね成功している。
「リューシュにも甘いなぁって思ってたんだよね」
「まぁ、色々と。あ、そこの砂糖補充しといてください」
自分より前に主人と主従契約を結んだ3号は、ずっと昔、遠くの世界で友人からぶんどってきたと聞いている。曰く「スイーツ無しじゃ生きられない体になった責任を取ってもらった」と。
友人がいたと言うのも嘘くさいが、その人はよっぽど面倒見が良かったんだろう。
今回確かに良い質の魔力を手に入れた。三種の魔力は全て等しく、力も強大でこれなら主人が如何様にも加工できるだろう。スイーツは主人の趣味として、納得できる。けれど、命十年分は明らかにリサのためだった。
魔力は命を削る。あの国の者達は外の国と比べて十年は寿命が短い。強い魔力は使わなければ体を痛めるが、使っても命は縮む。カサブランカとして魔力を使う以前から、リサは無意識に魔力を使って芸事を習得してきた。過酷な修行は体を痛め、魔力でそれを瞬間で治していた。黒目黒髪の女達はそうやって命を縮める運命だった。そこから、その経験を全て取り去る。リサの寿命は平均以上になっただろう。そしてまた、レフィも『死んだ』と言う代償を払ってそれまでの体の負担をゼロにしていたのを、この僕は気がついていた。
主人の目的は分からない。何を考えているのか……
「バケツサイズ追加よん」
「いくつですか?」
「だから、四よ!」
キッチンに空になったバケツ水羊羹の入れ物を持って主人はやってきた。
やっぱりなんも考えてないかも知れない……
「そうだわ。収穫できた魔力で異世界に飛ぶわよ、明日。準備しといてね」
「急過ぎない?」
「思い立ったら吉日と言う言葉があるのよ」
カークは指で丸を作ってそれを覗く。
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「甘くないね」
「プティフールサレと言うお菓子ですね。レシピはもらいましたけど、あのお嬢さんでもまた作れるお菓子ですよ」
「リサの方が上手かった」
完全コピーなのだから、そんなはずはない事は4号には分かっていた。けれど、自分にとっては彼女のお菓子は特別だった。
もう一口懐かしい味を味わって、4号は荷造りのために部屋を出た。
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