23 / 27
英雄だが色は好まない
しおりを挟む
後日、マドリーンからアップルトンのお家で私と週末に話がしたい旨の手紙が届いた。
いやー。
と、叫びたくなる。
これはどれだ?
①ラセツ様とユイ様はそんな仲ですの?不潔!
②私のラセツ様への気持ちを知ってるのに酷い!
③ラセツ様もう無理ですわ。慰めて!
個人的には③番が好ましいけど、彼女の性格を考えて一番無い選択肢だ。
血を啜ることに嫌悪感を持ってしまっても、自分の不出来を責めるか、慣れるまで頑張るかって感じなんだよね、姫なら。
「ユイ、ラセツ殿に血を与えたと聞いたが?」
田中君を視界に外すべく学園の中庭で昼食を取りながら、そんな事をぼへーっと考えていると、フロイドがやって来た。
「フロイド、午前中で公務終わったんだ?お昼は?」
「済ませてきた」
フロイドには姫とラセツの仲についての報告はまだ早い。何でもかんでも言えばいいわけじゃ無いし、マドリーン姫の考えが分かってからでないと。
うーん、どの辺りまで言うか?ラセツに魔力を与えた事は言っておいた方がよいか。あくまで事実のみ淡々と……。
「奴はユイの傷口を啜ったのか?」
「いや、そういうのじゃ無くて」
フロイドが少し険しい表情になったので、慌てて否定する。ラセツが見境なく傷口を襲ったとなったら大問題だ。
結局経緯も説明して、所感としてアレはマドリーンに諦めさせるためのパフォーマンスであった様に思うと、付け足した。
「そうか、舐められた場所は?」
「左手の掌。ほら、もう傷もないだろ」
掌を見せると、フロイドは私の手首を掴んだ。
ん?
柔らかな感覚を手のひらに感じた方が先だった。フロイドは舌先でくすぐる様にそこを舐めた。
「フロイド!」
引き離そうとするが、奴の方が力が強かった。ぶつけて怪我をさせられないから、こちらは強くは振り解けない。
ちゅっ。
更に吸いやがったぞ!こいつ!
「何をする!」
「仕置きだ。ユイの手が傷つくのは俺の手が傷つくような物。勝手にそんな事をした罰を与えた」
いや!その説明!無理がある!
「わ、私の手は、フロイドの手じゃない!配下の手は道具だろ!」
「精巧な道具にだって換えは無い。とりあえず、以後傷をつければ同じ罰を与える。これでもう無闇な怪我をしたりはしないな?」
ふざけてる顔ではない。マジか。
「そんな罰があってたまるか!」
「顔が赤いぞ?ラセツ殿が舐めた時はそんな様子では無かった様に聞こえたが?」
「ラセツは手のひらを吸ったりしてない。犬みたいにベロベロ舐めた、だけで、フロイドみたいに……」
「俺みたいに?」
「っ!そうやって揶揄うな!とにかく!掌は綺麗な場所でも無い!舐めたり吸ったりする場所じゃない!」
「なら、舐めたり吸ったりしても構わない場所を代わりに罰しようか?」
「しつこい!」
お前は田中君か!と言いたくなる。埒が明かない時は逃げるべしと立ち上がると、また手首が掴まれた。
「すまない、やりすぎた。けれど、傷をつけるのはやめて欲しい」
何故か悔しげにフロイドはそう呟いた。
「……分かった。傷をつけなくても魔力の玉を作る方法も分かったし、もうしないよ」
なんなんだ一体と呆れて、その後、もしかしてと思い当たる事に気がつく。
アレで精神的に追い詰められてるのかも。
苦労の多い王太子の横に、私はため息をついて座り直した。
「アレの日にちが決まったのか?誕生日までには催されるんだろ?」
「ああ、感謝祭の日にぶつけられてきた」
「マジか」
「クソッたれな慣習だな。俺が国を治めたら廃止してやる」
「言葉遣いが上品すぎるよ、フロイド」
「俺は抗う」
「夜伽の相手を決めるまで連日開催されるんだろ、その相手を決める夜の茶会とは。連日徹夜で過ごすのか?」
「ああ」
やはり、だ。
私に嫌がらせしたくなる程にフロイドは苛立っていた、と。
国の方針は国王の意向により、治世によって変化していく。今の国王陛下は強い羅の国の血を欲していて、源流に血を混じらせるつもりだった。
血の交換でやってくる姫をフロイドの許嫁とすべく、フロイドには現在公に婚約者はいない。
しかし、血の交換が適齢期に開催されない可能性もあるので、マドリーンと同様に公にしていない婚約者が必要だった。
今まではその縁談をフロイドはどうやってか潰してきた経緯がある。
来月にはフロイドは18歳になる。フロイド曰くクソったれな慣習として、その歳で女を知らないというのは英雄色を好む的な意味で忌避されてきた。
完全に、ハレムまで作って遊びたかっただけの過去の王族の言い訳にしか思えなくても、慣習は慣習。
というか、相手を決めても一夜を過ごせば良いだけで、実際のところ目的が未完遂でも外聞として整えればいいのである。
マドリーンと違って、みんなが知ってる内々の婚約者となるが、内々なだけあって将来的に解消するのは容易い。
適当に政治的に重要なポジションの姫ときっちり婚約してしまうか、当たり障りない姫とかに決めてしまえば良いものを姫にその噂がつく事を嫌ってか、フロイドは断固拒否している。
ちなみに、低位の姫とでも『遊べば』茶会は回避できる。深窓の姫風で裏で遊んでる子とか、私は何人か紹介できるんだけど、そういうのは嫌なのだそうだ。
潔癖なところも誠実で王として好ましく、周りが敵だらけな状態で、無責任な親友はとりあえずフロイドに味方しているのです。
「うちがせめてもう少し上の侯爵だったら、仮初で立候補したんだけど。変な噂も立たないだろうし」
茶会の招待状が届くのは公爵と位が高い侯爵家の娘達。もしくは女性として非常に優秀な者。婚約者になっても問題がない家柄の娘だ。
当然男性として優秀なだけの私に声はかからない。
そもそも、私は王家にとって女ですらない……。
「噂がつかなければ、それはそれで意味が無いだろう」
あくまで冗談の提案にさえ、フロイドは真剣な目で返してきた。
真面目過ぎて、一旦誰かにハマった時が少し怖いぞと苦笑だ。
それから、私はフロイドの肩を抱いた。
いやー。
と、叫びたくなる。
これはどれだ?
①ラセツ様とユイ様はそんな仲ですの?不潔!
②私のラセツ様への気持ちを知ってるのに酷い!
③ラセツ様もう無理ですわ。慰めて!
個人的には③番が好ましいけど、彼女の性格を考えて一番無い選択肢だ。
血を啜ることに嫌悪感を持ってしまっても、自分の不出来を責めるか、慣れるまで頑張るかって感じなんだよね、姫なら。
「ユイ、ラセツ殿に血を与えたと聞いたが?」
田中君を視界に外すべく学園の中庭で昼食を取りながら、そんな事をぼへーっと考えていると、フロイドがやって来た。
「フロイド、午前中で公務終わったんだ?お昼は?」
「済ませてきた」
フロイドには姫とラセツの仲についての報告はまだ早い。何でもかんでも言えばいいわけじゃ無いし、マドリーン姫の考えが分かってからでないと。
うーん、どの辺りまで言うか?ラセツに魔力を与えた事は言っておいた方がよいか。あくまで事実のみ淡々と……。
「奴はユイの傷口を啜ったのか?」
「いや、そういうのじゃ無くて」
フロイドが少し険しい表情になったので、慌てて否定する。ラセツが見境なく傷口を襲ったとなったら大問題だ。
結局経緯も説明して、所感としてアレはマドリーンに諦めさせるためのパフォーマンスであった様に思うと、付け足した。
「そうか、舐められた場所は?」
「左手の掌。ほら、もう傷もないだろ」
掌を見せると、フロイドは私の手首を掴んだ。
ん?
柔らかな感覚を手のひらに感じた方が先だった。フロイドは舌先でくすぐる様にそこを舐めた。
「フロイド!」
引き離そうとするが、奴の方が力が強かった。ぶつけて怪我をさせられないから、こちらは強くは振り解けない。
ちゅっ。
更に吸いやがったぞ!こいつ!
「何をする!」
「仕置きだ。ユイの手が傷つくのは俺の手が傷つくような物。勝手にそんな事をした罰を与えた」
いや!その説明!無理がある!
「わ、私の手は、フロイドの手じゃない!配下の手は道具だろ!」
「精巧な道具にだって換えは無い。とりあえず、以後傷をつければ同じ罰を与える。これでもう無闇な怪我をしたりはしないな?」
ふざけてる顔ではない。マジか。
「そんな罰があってたまるか!」
「顔が赤いぞ?ラセツ殿が舐めた時はそんな様子では無かった様に聞こえたが?」
「ラセツは手のひらを吸ったりしてない。犬みたいにベロベロ舐めた、だけで、フロイドみたいに……」
「俺みたいに?」
「っ!そうやって揶揄うな!とにかく!掌は綺麗な場所でも無い!舐めたり吸ったりする場所じゃない!」
「なら、舐めたり吸ったりしても構わない場所を代わりに罰しようか?」
「しつこい!」
お前は田中君か!と言いたくなる。埒が明かない時は逃げるべしと立ち上がると、また手首が掴まれた。
「すまない、やりすぎた。けれど、傷をつけるのはやめて欲しい」
何故か悔しげにフロイドはそう呟いた。
「……分かった。傷をつけなくても魔力の玉を作る方法も分かったし、もうしないよ」
なんなんだ一体と呆れて、その後、もしかしてと思い当たる事に気がつく。
アレで精神的に追い詰められてるのかも。
苦労の多い王太子の横に、私はため息をついて座り直した。
「アレの日にちが決まったのか?誕生日までには催されるんだろ?」
「ああ、感謝祭の日にぶつけられてきた」
「マジか」
「クソッたれな慣習だな。俺が国を治めたら廃止してやる」
「言葉遣いが上品すぎるよ、フロイド」
「俺は抗う」
「夜伽の相手を決めるまで連日開催されるんだろ、その相手を決める夜の茶会とは。連日徹夜で過ごすのか?」
「ああ」
やはり、だ。
私に嫌がらせしたくなる程にフロイドは苛立っていた、と。
国の方針は国王の意向により、治世によって変化していく。今の国王陛下は強い羅の国の血を欲していて、源流に血を混じらせるつもりだった。
血の交換でやってくる姫をフロイドの許嫁とすべく、フロイドには現在公に婚約者はいない。
しかし、血の交換が適齢期に開催されない可能性もあるので、マドリーンと同様に公にしていない婚約者が必要だった。
今まではその縁談をフロイドはどうやってか潰してきた経緯がある。
来月にはフロイドは18歳になる。フロイド曰くクソったれな慣習として、その歳で女を知らないというのは英雄色を好む的な意味で忌避されてきた。
完全に、ハレムまで作って遊びたかっただけの過去の王族の言い訳にしか思えなくても、慣習は慣習。
というか、相手を決めても一夜を過ごせば良いだけで、実際のところ目的が未完遂でも外聞として整えればいいのである。
マドリーンと違って、みんなが知ってる内々の婚約者となるが、内々なだけあって将来的に解消するのは容易い。
適当に政治的に重要なポジションの姫ときっちり婚約してしまうか、当たり障りない姫とかに決めてしまえば良いものを姫にその噂がつく事を嫌ってか、フロイドは断固拒否している。
ちなみに、低位の姫とでも『遊べば』茶会は回避できる。深窓の姫風で裏で遊んでる子とか、私は何人か紹介できるんだけど、そういうのは嫌なのだそうだ。
潔癖なところも誠実で王として好ましく、周りが敵だらけな状態で、無責任な親友はとりあえずフロイドに味方しているのです。
「うちがせめてもう少し上の侯爵だったら、仮初で立候補したんだけど。変な噂も立たないだろうし」
茶会の招待状が届くのは公爵と位が高い侯爵家の娘達。もしくは女性として非常に優秀な者。婚約者になっても問題がない家柄の娘だ。
当然男性として優秀なだけの私に声はかからない。
そもそも、私は王家にとって女ですらない……。
「噂がつかなければ、それはそれで意味が無いだろう」
あくまで冗談の提案にさえ、フロイドは真剣な目で返してきた。
真面目過ぎて、一旦誰かにハマった時が少し怖いぞと苦笑だ。
それから、私はフロイドの肩を抱いた。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
全てを諦めた令嬢の幸福
セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。
諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。
※途中シリアスな話もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる