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10 マドリーンの小さなお家
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授業が終わり、学園外へ出る許可を受けて馬車で王宮に向かった。
ヨーロッパ風の世界観はやはりあくまでヨーロッパ風。王宮の外観は城っぽいが、塔で用途が別れてはおらず、内殿と外殿に別れている。ホールや接遇、会議の場などに特化した外殿には鴨場まであり、内殿は王族の生活の場で、先代まで使われていたハレムまであるそうだ。
最早和洋折衷オスマン中国なんでもござれで節操がない。
その内殿の離れに田舎風の小さな家がマドリーンのために建てられていて、彼女はそこでお姫様の教育を受けていた。
「ユイ様!っと、ごきげんよう?」
私とフロイドと、そして何故か居るジーヴァの三人でお邪魔すると、マドリーンは私に飛び付こうとして、律した。
「淑女のご挨拶ですね、姫。美しく成長される姫に、ユイは何度恋に堕ちればいいですか?」
「きゃあ!もう!ユイ様ったら!」
金の髪と目が輝いて、本当にひまわりの様に彼女は綻んだ。
「ジーヴァ様もよくおいでくださいました。お兄様おかえりなさいませ。私に御用でしょうか?」
頑張って澄まして挨拶しているが、彼女の身体はウズウズと震えている。
「……マドリーン殿、実は」
「上手く行きましたの?!」
叱られ仲間のジーヴァが口を開いて、たまらずマドリーンはジーヴァの服の裾を両手で掴んだ。
「ユイ様がいらっしゃるという事は、上手く行ったという事ですわよね?!!」
びくともしないけれど、マドリーンはジーヴァの服の裾を振り回した。
「マドリーン、はしたないぞ。上手くいく訳が無いだろう。王族の縁談は簡単に色恋で決めてはならない。この度の事が父上達に知られては少し面倒な事になっていた」
「面倒って何?別に構わないわ」
フロイドに叱られて、マドリーンはぷんっとそっぽを向いた。
「姫、姫はユイがジーヴァ様の物になる事をお望みなのですか?」
望むと言われても受けませんけど。
「……だって」
口を尖らせた彼女に跪き、左手を取ってキスをする。男女間の親愛を示す行為だが、私は女なので戯れだ。
「貴女の心の僕にどうかその悩みを」
ぽたっと雫が落ちた。
え?
見上げると、なんとマドリーンは泣いていた。
「姫?」
苦しそうに彼女は顔を振る。
「ユイ様には言えないの」
私には言えない?
「あ」と声を出したのはジーヴァだ。ジーヴァを見ると、そのジーヴァはフロイドを見ている。
「……ユイ、口外はしないな?」
「ええ、もちろん」
その流れで8割くらい内容が察せられる。
「マドリーン、ユイには言っても構わない。話した事を咎められたら、この兄が命じたと言え」
マドリーンは頷いて、私に抱きついた。
「血の交換があるかも知れないの」
やはり、と思った。
辺境グッドフェロー公国の先、大森林には魔王が棲んでいると言われている。その森を挟んで反対側に、羅の国と言われる国があった。
彼らは別の生活様式を持ち、全てがこちら、マルツェリンの国とは異なる。
魔力が強く、戦闘能力も高い種属で、彼らは森を越える事が出来た。
現在我らと彼らに争いは無い。接触は疎でありながら、羅の国は協力的な姿勢を見せている。
ただ、彼方には唯一の要望があり、それが『血の交換』であった。
魔の力が強い事は進化の最終形態に近く、子孫が繁栄できないらしい。あちらでは魔力が弱い個体が切望されていた。
魔力は弱く、優秀な遺伝子を持つ女子を花嫁として迎える、同時にあちらからも魔力が強い女子を花嫁として送られてくる。
薄くとも身内となる事で、あちらは恒久に近い平和を約束していた。
こちらの王族はこちらの基準では魔力は強いが、あちらでは最弱。さらに、あちらからの花嫁は必ずしも王妃にする事は望まれておらず、マルツェリン王の血族に入る必要は無いとされていた。送られた花嫁の魔力の強さは代が下るほどに弱まるため、羅の国はこちらを乗っ取るつもりも無いらしい。
「……確かに間もなく羅の国の方がこちらに滞在される事になっている。だが、マドリーンを見初めるとは限らない。あちらの方は過去に一度も強引な嫁取りはしなかった。無理に嫁がせる事は無い」
「そうね、でも、魔力が強いから魅入られるだけかも知れないでしょ?だったら見初められたらお終いよ。それに私可愛いもん」
可愛いのは間違いない。マドリーンは私が褒め倒しても嫌味にも慇懃にもならないレベルで美人だ。年は少し若めだが、逆に早く環境にも馴染むと思われるかも知れない。
「ジーヴァ様はとても良い方だわ。ずっとお手紙でやりとりしてお人柄は存じているし、こちらでお会いした時もお変わり無かった。ユイ様が変なのとくっつくより100倍はマシ。……ユイ様がジーヴァ様と結婚すれば、私が羅の国に嫁いだ後の連絡役をお願い出来るもの」
「姫」
うるっとする姫を抱きしめた。子供でありながら、やはり王女でもあったのか。見初められたら姫は拒否するつもりは無いのだろう。
もし私が従兄弟であるジーヴァの妃になれば、王族の末端に籍を置くことになる。羅の国にも近く、何かあった場合、一番に姫の元に駆けつける連絡役を受ける事は可能になる。
「私は女でありながら士官を目指しております。もし彼の国にお輿入れされる場合は、私が補佐をする事を殿下はお許しになりますよ」
「本当に?」
「……そこまで言われて出来ないとは言えないな。だが、確約はできない。可愛い妹が寂しく無い様手は尽くすよ。ただ、俺は今回は血の交換のためにいらっしゃるのだとは感じていない。前回の交換からまだそれ程間隔は開いていないからな」
「……ジーヴァ様がダメなら、ユイ様、兄様と結婚して?」
フロイド全く信頼されてなくて草。
「それこそ無理ですよ、姫。私は侯爵家の者とは言え家の順位は侯爵の中では最弱。魔力もそこそこ強いとは言え、羅の国の姫や東の魔女様と比べると吹けば飛ぶゴミの様なもの。家柄も釣り合わず、そんなのを王妃に選べば民の心は離れてしまいます。気高い殿下は愛人を囲む気も無いそうなので、可能性はゼロですから」
億に一、フロイドが私を望んでも全方向誰も許さないだろう。というか、責任感の強いフロイドは望むとすら口に出さないはずだ。
それが皆分かっているから、私は親友の位置を許されたようなものだ。
「ユイがせめて男なら、家を盛り立てて姫をお迎えしたのですが」
「ユイ様が女性だったから、親しくなれたんですもの。私、ユイ様そのままが好きなんです」
やられた。これはちょっと凄い口説き文句だ。
「恐れ多い事です。私の愛をマドリーン姫に」
「ずるいわ、ユイ様」
少し拗ねた彼女は、私が思っていたより大人だと思った。
とりあえず原因がわかったのと、マドリーンの気持ちを考えるとこれ以上叱責は無かろう。
だよね?の意味でフロイドを見ると、彼は初めて見る表情をしていた。切なげに見えるそれは、王太子が他人の前で負の感情を見せるタブーに触れているのでは?
「フロイド?」
ハッとして、表情はいつもの柔和な笑みに戻った。仲間内で油断してたのだとしても、あの表情は苦しげ過ぎる。
「なんだ?」
「少し顔色が悪い。……連日の公務の後に、迷惑をかけてしまった様だ」
「いや、色々早めに知れて良かった。対策を考えないと……」
「先ずは一旦休んだ方が良い。フロイドのためならば犬の様に動く人間が少なくともここに二人はいる訳だが、その二人はお前の体調不良を世の中で一番に恐れているぞ?」
ジーヴァはいつの間にか、フロイドがいつ倒れてもフォローできる位置にそっと移動していた。警備に関しては完全なるプロ。
「ユイ殿の言うとおりだ」
「……分かった。今日は休む」
フロイドが休むと言うなら、それ以上は何も言えない。親友とは言え提案しか出来ない立場では、これが精一杯。フロイドは王太子で、私は臣下だ。
ジーヴァを引き連れて帰ろうとして、ジーヴァは例の本をマドリーンに渡した。
「マドリーン殿、お借りしていた本をお返しする」
「読むのがとてもお早いですわね。続きは何冊になさいますか?」
「……残りぜんぶ」
「まだ35巻ありますけど」
「腕力はある」
って借りるんだ。あの恋愛ラノベ。
ジーヴァは推しいただく様にぜんぶ持った。
帰り馬車でホクホクのジーヴァに呆れながら尋ねる。
「私がお貸しした本も読んでいただけるのですよね?」
「もちろんだ。速読は得意なので、今晩にでもこちらは読み切る。この本はユイ殿がマドリーン殿にすすめただけあって、大変興味深い」
一瞬引いたが、意外にもジーヴァのその後に続いた感想は的を射ていた。
若年層の好みの傾向から伏線について、散りばめられた文化的要素等々。
こいつ……、脳筋だとばかり思っていたが、頭は悪くない、むしろ、慧眼を持っている?
「……そして、何より恋愛という未知の領域を初めて学べた。実生活にも繋がる普遍性を持った王道だと思われる」
アンバランスだよ!そこだけ、感覚がアンバランス!
学園生活してたら分かるじゃん!みんな全てそっちのけで恋愛しかしてないなんてあり得ないでしょ!
「あれは少し偏りのある小説なので、私のお渡ししたのは物もご参考に」
「もちろんだ。愛しい者の感性を直接知れるとは僥倖。必ずやユイ殿に認められる趣の分かる男になろう」
ふはははは、と笑うその行為が既に趣が無い。
「というか、ジーヴァ様はマドリーン様と文のやりとりをなされてたとか。私の事は書いてなかったのですか?」
「書いてあったぞ。毎回」
「なのに、自己紹介した時分からなかったのですね」
「理想的な優しくて優雅な素敵なお姉様、とあったので初めのイメージが一致していなかった」
その通りだけど、勝手ながら凄く失礼な事に聞こえるな。
「……それで、手紙のユイ様と今目の前にいるユイ殿が一致した時、雷の落ちる様な感覚があった。この本の通りだ」
感覚どころか実際雷落ちてたし。というか、あれは田中君のせいでは無かったっけ?
ジーヴァの手にした本は、そう言えば初恋のシーンは雷が落ちてたなとなんとなく私は考えた。
ヨーロッパ風の世界観はやはりあくまでヨーロッパ風。王宮の外観は城っぽいが、塔で用途が別れてはおらず、内殿と外殿に別れている。ホールや接遇、会議の場などに特化した外殿には鴨場まであり、内殿は王族の生活の場で、先代まで使われていたハレムまであるそうだ。
最早和洋折衷オスマン中国なんでもござれで節操がない。
その内殿の離れに田舎風の小さな家がマドリーンのために建てられていて、彼女はそこでお姫様の教育を受けていた。
「ユイ様!っと、ごきげんよう?」
私とフロイドと、そして何故か居るジーヴァの三人でお邪魔すると、マドリーンは私に飛び付こうとして、律した。
「淑女のご挨拶ですね、姫。美しく成長される姫に、ユイは何度恋に堕ちればいいですか?」
「きゃあ!もう!ユイ様ったら!」
金の髪と目が輝いて、本当にひまわりの様に彼女は綻んだ。
「ジーヴァ様もよくおいでくださいました。お兄様おかえりなさいませ。私に御用でしょうか?」
頑張って澄まして挨拶しているが、彼女の身体はウズウズと震えている。
「……マドリーン殿、実は」
「上手く行きましたの?!」
叱られ仲間のジーヴァが口を開いて、たまらずマドリーンはジーヴァの服の裾を両手で掴んだ。
「ユイ様がいらっしゃるという事は、上手く行ったという事ですわよね?!!」
びくともしないけれど、マドリーンはジーヴァの服の裾を振り回した。
「マドリーン、はしたないぞ。上手くいく訳が無いだろう。王族の縁談は簡単に色恋で決めてはならない。この度の事が父上達に知られては少し面倒な事になっていた」
「面倒って何?別に構わないわ」
フロイドに叱られて、マドリーンはぷんっとそっぽを向いた。
「姫、姫はユイがジーヴァ様の物になる事をお望みなのですか?」
望むと言われても受けませんけど。
「……だって」
口を尖らせた彼女に跪き、左手を取ってキスをする。男女間の親愛を示す行為だが、私は女なので戯れだ。
「貴女の心の僕にどうかその悩みを」
ぽたっと雫が落ちた。
え?
見上げると、なんとマドリーンは泣いていた。
「姫?」
苦しそうに彼女は顔を振る。
「ユイ様には言えないの」
私には言えない?
「あ」と声を出したのはジーヴァだ。ジーヴァを見ると、そのジーヴァはフロイドを見ている。
「……ユイ、口外はしないな?」
「ええ、もちろん」
その流れで8割くらい内容が察せられる。
「マドリーン、ユイには言っても構わない。話した事を咎められたら、この兄が命じたと言え」
マドリーンは頷いて、私に抱きついた。
「血の交換があるかも知れないの」
やはり、と思った。
辺境グッドフェロー公国の先、大森林には魔王が棲んでいると言われている。その森を挟んで反対側に、羅の国と言われる国があった。
彼らは別の生活様式を持ち、全てがこちら、マルツェリンの国とは異なる。
魔力が強く、戦闘能力も高い種属で、彼らは森を越える事が出来た。
現在我らと彼らに争いは無い。接触は疎でありながら、羅の国は協力的な姿勢を見せている。
ただ、彼方には唯一の要望があり、それが『血の交換』であった。
魔の力が強い事は進化の最終形態に近く、子孫が繁栄できないらしい。あちらでは魔力が弱い個体が切望されていた。
魔力は弱く、優秀な遺伝子を持つ女子を花嫁として迎える、同時にあちらからも魔力が強い女子を花嫁として送られてくる。
薄くとも身内となる事で、あちらは恒久に近い平和を約束していた。
こちらの王族はこちらの基準では魔力は強いが、あちらでは最弱。さらに、あちらからの花嫁は必ずしも王妃にする事は望まれておらず、マルツェリン王の血族に入る必要は無いとされていた。送られた花嫁の魔力の強さは代が下るほどに弱まるため、羅の国はこちらを乗っ取るつもりも無いらしい。
「……確かに間もなく羅の国の方がこちらに滞在される事になっている。だが、マドリーンを見初めるとは限らない。あちらの方は過去に一度も強引な嫁取りはしなかった。無理に嫁がせる事は無い」
「そうね、でも、魔力が強いから魅入られるだけかも知れないでしょ?だったら見初められたらお終いよ。それに私可愛いもん」
可愛いのは間違いない。マドリーンは私が褒め倒しても嫌味にも慇懃にもならないレベルで美人だ。年は少し若めだが、逆に早く環境にも馴染むと思われるかも知れない。
「ジーヴァ様はとても良い方だわ。ずっとお手紙でやりとりしてお人柄は存じているし、こちらでお会いした時もお変わり無かった。ユイ様が変なのとくっつくより100倍はマシ。……ユイ様がジーヴァ様と結婚すれば、私が羅の国に嫁いだ後の連絡役をお願い出来るもの」
「姫」
うるっとする姫を抱きしめた。子供でありながら、やはり王女でもあったのか。見初められたら姫は拒否するつもりは無いのだろう。
もし私が従兄弟であるジーヴァの妃になれば、王族の末端に籍を置くことになる。羅の国にも近く、何かあった場合、一番に姫の元に駆けつける連絡役を受ける事は可能になる。
「私は女でありながら士官を目指しております。もし彼の国にお輿入れされる場合は、私が補佐をする事を殿下はお許しになりますよ」
「本当に?」
「……そこまで言われて出来ないとは言えないな。だが、確約はできない。可愛い妹が寂しく無い様手は尽くすよ。ただ、俺は今回は血の交換のためにいらっしゃるのだとは感じていない。前回の交換からまだそれ程間隔は開いていないからな」
「……ジーヴァ様がダメなら、ユイ様、兄様と結婚して?」
フロイド全く信頼されてなくて草。
「それこそ無理ですよ、姫。私は侯爵家の者とは言え家の順位は侯爵の中では最弱。魔力もそこそこ強いとは言え、羅の国の姫や東の魔女様と比べると吹けば飛ぶゴミの様なもの。家柄も釣り合わず、そんなのを王妃に選べば民の心は離れてしまいます。気高い殿下は愛人を囲む気も無いそうなので、可能性はゼロですから」
億に一、フロイドが私を望んでも全方向誰も許さないだろう。というか、責任感の強いフロイドは望むとすら口に出さないはずだ。
それが皆分かっているから、私は親友の位置を許されたようなものだ。
「ユイがせめて男なら、家を盛り立てて姫をお迎えしたのですが」
「ユイ様が女性だったから、親しくなれたんですもの。私、ユイ様そのままが好きなんです」
やられた。これはちょっと凄い口説き文句だ。
「恐れ多い事です。私の愛をマドリーン姫に」
「ずるいわ、ユイ様」
少し拗ねた彼女は、私が思っていたより大人だと思った。
とりあえず原因がわかったのと、マドリーンの気持ちを考えるとこれ以上叱責は無かろう。
だよね?の意味でフロイドを見ると、彼は初めて見る表情をしていた。切なげに見えるそれは、王太子が他人の前で負の感情を見せるタブーに触れているのでは?
「フロイド?」
ハッとして、表情はいつもの柔和な笑みに戻った。仲間内で油断してたのだとしても、あの表情は苦しげ過ぎる。
「なんだ?」
「少し顔色が悪い。……連日の公務の後に、迷惑をかけてしまった様だ」
「いや、色々早めに知れて良かった。対策を考えないと……」
「先ずは一旦休んだ方が良い。フロイドのためならば犬の様に動く人間が少なくともここに二人はいる訳だが、その二人はお前の体調不良を世の中で一番に恐れているぞ?」
ジーヴァはいつの間にか、フロイドがいつ倒れてもフォローできる位置にそっと移動していた。警備に関しては完全なるプロ。
「ユイ殿の言うとおりだ」
「……分かった。今日は休む」
フロイドが休むと言うなら、それ以上は何も言えない。親友とは言え提案しか出来ない立場では、これが精一杯。フロイドは王太子で、私は臣下だ。
ジーヴァを引き連れて帰ろうとして、ジーヴァは例の本をマドリーンに渡した。
「マドリーン殿、お借りしていた本をお返しする」
「読むのがとてもお早いですわね。続きは何冊になさいますか?」
「……残りぜんぶ」
「まだ35巻ありますけど」
「腕力はある」
って借りるんだ。あの恋愛ラノベ。
ジーヴァは推しいただく様にぜんぶ持った。
帰り馬車でホクホクのジーヴァに呆れながら尋ねる。
「私がお貸しした本も読んでいただけるのですよね?」
「もちろんだ。速読は得意なので、今晩にでもこちらは読み切る。この本はユイ殿がマドリーン殿にすすめただけあって、大変興味深い」
一瞬引いたが、意外にもジーヴァのその後に続いた感想は的を射ていた。
若年層の好みの傾向から伏線について、散りばめられた文化的要素等々。
こいつ……、脳筋だとばかり思っていたが、頭は悪くない、むしろ、慧眼を持っている?
「……そして、何より恋愛という未知の領域を初めて学べた。実生活にも繋がる普遍性を持った王道だと思われる」
アンバランスだよ!そこだけ、感覚がアンバランス!
学園生活してたら分かるじゃん!みんな全てそっちのけで恋愛しかしてないなんてあり得ないでしょ!
「あれは少し偏りのある小説なので、私のお渡ししたのは物もご参考に」
「もちろんだ。愛しい者の感性を直接知れるとは僥倖。必ずやユイ殿に認められる趣の分かる男になろう」
ふはははは、と笑うその行為が既に趣が無い。
「というか、ジーヴァ様はマドリーン様と文のやりとりをなされてたとか。私の事は書いてなかったのですか?」
「書いてあったぞ。毎回」
「なのに、自己紹介した時分からなかったのですね」
「理想的な優しくて優雅な素敵なお姉様、とあったので初めのイメージが一致していなかった」
その通りだけど、勝手ながら凄く失礼な事に聞こえるな。
「……それで、手紙のユイ様と今目の前にいるユイ殿が一致した時、雷の落ちる様な感覚があった。この本の通りだ」
感覚どころか実際雷落ちてたし。というか、あれは田中君のせいでは無かったっけ?
ジーヴァの手にした本は、そう言えば初恋のシーンは雷が落ちてたなとなんとなく私は考えた。
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