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49 フィフィさんとリードさん
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船に戻ると中は相変わらずだった。ただ、クロノさんが居ないだけで。
クロノさんはエラスノをアルバートさんに譲った、と言っていたけど、実際はアルバートさんはボス代理となり、クロノさんは完全に抜けた訳ではないそうだ。
そして、なぜフィフィさんがいるのかと言うと……
「紆余曲折ありまして、この度リードと結婚いたしました。エラスノは家族同然と聞いておりますので、サヤは私の妹も同然……」
「え?」
三つ指ついて挨拶してくれるフィフィさんにかける言葉は思い付かず、横でへらへらしているリードさんに何か言いたくても声も出ない。
「えっとぉ、リードがフィフィを口説き落としたらしいのよ、ね?」
「え、違いますよ。酒をたらふく飲ませて宿に連れ込んだんです。そしたら番だった……痛て!」
フィフィさんの鉄拳が飛び、エウディさんからまたバッテンシールがリードさんの口に進呈された。
整理してみよう。番は魂の色みたいなもの。で、私とアルバートさんがほぼ同じで、多分フィフィさんも近い色。ついでにリードさんもって感じ?
「あー、フィフィの種族はとっても鼻が良くてね、番を見つけたり魂の同調性の良い相手を見つけるのがすごく上手いのよ。それで、同じ香りの人を集めるから強固な一団をまとめる事ができるんだけど、多分クロノも同じ事やってたんだと思うわ」
なる、ほど?
「プテラ一座はこちらとは違う組織として運営してまいります。でも、今回はエウディ様からサヤの救援要請があったので。我らの一座は現在こちら一帯の監視をしておりますわ」
「ありがとうございます。フィフィさん、それに、エウディさんも」
登場があれだったけど、エウディさんは約束通り私を助けてくれた。
「むぐむぐー」
「もちろん、リードさんも、アルバートさんにも感謝しています」
何となく、私もリードさんのむぐむぐの意味が分かるようになってきた。
陸空共に完全にレックスの船を撒けた事が確認され、フィフィさんは帰って行った。リードさんにキスをして。
「で、や。これからの事なんやけど」
アルバートさんと目が合って、私は顔が熱くなる。首筋の跡が疼いて少し甘く痛い。
「サヤの記憶を探すんが先決やと思う。今現状、帝王さんが何考えてるんか分からへん」
マンイーターとそれ以外を棲み分ける、と言っていた。今更それが本当かは、私達には分からない。過去の私は歴代のフェラストの長が何を望んできたかは知っているはずだ。
「むぐー(サヤの故郷とか調べてみたら?)」
今はっきり聞こえた!てか、これだとバッテンシールの意味なくない?
「……そうね。クロノに聞ければ確実なんだけど」
「クロノさん、ですか?なぜ?」
クロノさんとレックスの会話が思い出されて、苦しくなった。
「クロノ、サヤと同じセクンダスの生き残りなの」
「クロノさんが!?」
繋がった、気がする。クロノさんの族長が消えてしまって、一族は滅んだと聞いていた。私が一族を捨てて逃げたから、クロノさんは奴隷に落ちた……。
「クロノさん、私を恨んで?」
「それはちゃう」
「あたしもアルちゃんと同意見」
私が見つけた一つの答えを、アルバートさんとエウディさんは即否定した。
「付き合い長いけど、クロノはサヤの事恨んだりはしてへんのは断言できる」
「どうしてですか?」
「勘や!」
勘……。
「あたしの方はもうちょっと論理的よ」
エウディさんは呆れたように腕を組んだ。
「サヤも見たでしょ。あいつ、わざとあたしを逃したのよ。監視でもあったんじゃないかしら?あんな初歩的なミス……変幻自在のあたしを鎖で繋ぐ、なんてその前に鎖の網で捕まえておいて不自然だわ。そもそも、サヤが見れる事知ってて、あちらの予定をペラペラ喋るのもおかしいじゃない?」
「むぐむぐむぐ!(確かに、ねぇさんから聞いた話を繋げたら、エラスノを解体してアルバートさんを完全に帝国に縛った方がサヤを逃す心配も無かったもんね)」
クロノさんは……何か背負ってる?
「それも、もしかしたら私の記憶が戻れば分かるんですよね」
一同を見回すと、みな同じ反応だった。
「私の、故郷に行ってみたいです。でも、どこに故郷があるのか……」
アルバートさんは机の上にあった風景画集を広げた。
「多分ここ、やな」
彼が示したのは、覚えのないページ。
「前に地図見ながら、この本見とった事あるやん?あの時、ほぼ全部のページをサヤは覚えとったのに、このページだけ『知らん』言うてた。過去の事だけ綺麗に忘れてるんやったら、ここが過去に関係ある場所のはずや」
「南の海域の端……」
大きな滝のある山は人は近づけないと書いてある、神の島だった。
「むぐむぐー(ここに行くんだよね?でも、ここ周辺の海流の情報少ないんだよな。多分まっすぐ行くとかなり押し戻される地形だよ)」
入り組んだ地形だと言うことは地図を見れば分かるが、高低差は分からない、どこに着岸するか……。
突然、目の前が拓けた。島の様子が手に取るように分かり、潮の流れまで感じた。
「ここ、の入江です。ここだけ船が停められる。潮に押されるから、こっちからぐるっと回って停めるんです……!」
アルバートさんが私の頭を撫でた。
「積んでる食料も充分や。このまま向かうで」
「計算式どうしよっか?僕解く方専門なんだよね」
「……仕方ないわね。クロノの代わりやってあげるわ。タダなのは、今回だけよ」
リードさんとエウディさんが、各数値を出している。私は……何が出来る?
「サヤはサヤの仕事頼むわ。到着予定から逆算して上陸前の腹ごしらえの準備しといててくれ……明日島に近づいてきたら、視界の方頼むと思うし操舵室におって欲しい」
「はい!」
アルバートさんの指揮の下、私も仕事についた。この先に何があるかは分からないけれど、私達なら大丈夫だと安心できる。
リードさん達の読みでは、ここからなら半日も経たずに島まで行けるそうだ。逆算して、食事の仕込と洗濯掃除、久しぶりの家事だったけれど頭の中が前よりクリアで、並行して片付けていけた。
家事を終えて、操舵室に行くとアルバートさんしかいない。家事をしている時に通った場所には誰もいなかったのに、だ。
「皆さんは?」
「今、夜中やで。あいつら寝とるわ」
言われて気づく。言われるまで、夜中だと忘れていた。それくらい眠くない。
「アルバートさんは?」
「俺な、眠ないねん。多分サヤもとちゃう?」
「はい」
「……俺のせいやねんけどな」
「え?」
「命のエネルギー、洞穴で送ってもうたらしい。口移しで」
「あ」
夕方の事が思い出される。アルバートさんは前を見て、操縦しているフリをしてるけど、今は自動操縦で大丈夫なはず。彼の耳も少し赤くなっていた。
「眠れなくなるくらい強いもの、なんですね」
「エネルギーの元は空気中にあんねんて。グールはそれの入力量は普通やのに、出力が大きい。ついでに貯めておく器も大きいからゆうて、満量近く注がれたわ」
「じゃあ、新しい契約してからずっと?」
「慣れて寝られるようになるんに数年はかかるらしいで。疲れは自己修復されるから、無くてもええらしい」
それはもはや人という範疇では無い。
「……アルバートさんの契約したお相手は」
「龍族や。これ、秘密やで?」
やはり、と思った。龍族は空気中のエネルギーの入力量、出力量、貯留量が多い。エルフは入力量と出力量は多かったけど貯留量は他の種族と変わらない……ふと、この知識が教育課程では無い古い記憶だと気がついた。
「龍族は、アルバートさんに何をさせようとしているんですか?」
孤高の彼らが利もなくエネルギーを与えるとは思えない。そして、彼らは基本的にこちら側に興味は無いはずだ。
「グールは、龍族との混血の成れの果てやねんて。皇帝はんも龍族の血が入っとって、それ使て理を曲げようとしとる。それを、同じくグールの俺に止めろ言うてきた。過去の皇帝が何しようとしてたか龍族は知っとっるらしいんやけど、それは教えられへんにゃと」
「剣と鞘が一つになれば神力が手に入る、と聞いています。竜の力と神力があれば、竜族も危うい?」
「竜も人も海も土地も、無傷っちゅう訳にはいかんやろな」
「……レックスを止めないと」
彼の正義が怖い。正義のためなら、彼はきっとどんな事でもするだろう。
島が遠くに見え始めた頃、陽はまた登り始めた。
クロノさんはエラスノをアルバートさんに譲った、と言っていたけど、実際はアルバートさんはボス代理となり、クロノさんは完全に抜けた訳ではないそうだ。
そして、なぜフィフィさんがいるのかと言うと……
「紆余曲折ありまして、この度リードと結婚いたしました。エラスノは家族同然と聞いておりますので、サヤは私の妹も同然……」
「え?」
三つ指ついて挨拶してくれるフィフィさんにかける言葉は思い付かず、横でへらへらしているリードさんに何か言いたくても声も出ない。
「えっとぉ、リードがフィフィを口説き落としたらしいのよ、ね?」
「え、違いますよ。酒をたらふく飲ませて宿に連れ込んだんです。そしたら番だった……痛て!」
フィフィさんの鉄拳が飛び、エウディさんからまたバッテンシールがリードさんの口に進呈された。
整理してみよう。番は魂の色みたいなもの。で、私とアルバートさんがほぼ同じで、多分フィフィさんも近い色。ついでにリードさんもって感じ?
「あー、フィフィの種族はとっても鼻が良くてね、番を見つけたり魂の同調性の良い相手を見つけるのがすごく上手いのよ。それで、同じ香りの人を集めるから強固な一団をまとめる事ができるんだけど、多分クロノも同じ事やってたんだと思うわ」
なる、ほど?
「プテラ一座はこちらとは違う組織として運営してまいります。でも、今回はエウディ様からサヤの救援要請があったので。我らの一座は現在こちら一帯の監視をしておりますわ」
「ありがとうございます。フィフィさん、それに、エウディさんも」
登場があれだったけど、エウディさんは約束通り私を助けてくれた。
「むぐむぐー」
「もちろん、リードさんも、アルバートさんにも感謝しています」
何となく、私もリードさんのむぐむぐの意味が分かるようになってきた。
陸空共に完全にレックスの船を撒けた事が確認され、フィフィさんは帰って行った。リードさんにキスをして。
「で、や。これからの事なんやけど」
アルバートさんと目が合って、私は顔が熱くなる。首筋の跡が疼いて少し甘く痛い。
「サヤの記憶を探すんが先決やと思う。今現状、帝王さんが何考えてるんか分からへん」
マンイーターとそれ以外を棲み分ける、と言っていた。今更それが本当かは、私達には分からない。過去の私は歴代のフェラストの長が何を望んできたかは知っているはずだ。
「むぐー(サヤの故郷とか調べてみたら?)」
今はっきり聞こえた!てか、これだとバッテンシールの意味なくない?
「……そうね。クロノに聞ければ確実なんだけど」
「クロノさん、ですか?なぜ?」
クロノさんとレックスの会話が思い出されて、苦しくなった。
「クロノ、サヤと同じセクンダスの生き残りなの」
「クロノさんが!?」
繋がった、気がする。クロノさんの族長が消えてしまって、一族は滅んだと聞いていた。私が一族を捨てて逃げたから、クロノさんは奴隷に落ちた……。
「クロノさん、私を恨んで?」
「それはちゃう」
「あたしもアルちゃんと同意見」
私が見つけた一つの答えを、アルバートさんとエウディさんは即否定した。
「付き合い長いけど、クロノはサヤの事恨んだりはしてへんのは断言できる」
「どうしてですか?」
「勘や!」
勘……。
「あたしの方はもうちょっと論理的よ」
エウディさんは呆れたように腕を組んだ。
「サヤも見たでしょ。あいつ、わざとあたしを逃したのよ。監視でもあったんじゃないかしら?あんな初歩的なミス……変幻自在のあたしを鎖で繋ぐ、なんてその前に鎖の網で捕まえておいて不自然だわ。そもそも、サヤが見れる事知ってて、あちらの予定をペラペラ喋るのもおかしいじゃない?」
「むぐむぐむぐ!(確かに、ねぇさんから聞いた話を繋げたら、エラスノを解体してアルバートさんを完全に帝国に縛った方がサヤを逃す心配も無かったもんね)」
クロノさんは……何か背負ってる?
「それも、もしかしたら私の記憶が戻れば分かるんですよね」
一同を見回すと、みな同じ反応だった。
「私の、故郷に行ってみたいです。でも、どこに故郷があるのか……」
アルバートさんは机の上にあった風景画集を広げた。
「多分ここ、やな」
彼が示したのは、覚えのないページ。
「前に地図見ながら、この本見とった事あるやん?あの時、ほぼ全部のページをサヤは覚えとったのに、このページだけ『知らん』言うてた。過去の事だけ綺麗に忘れてるんやったら、ここが過去に関係ある場所のはずや」
「南の海域の端……」
大きな滝のある山は人は近づけないと書いてある、神の島だった。
「むぐむぐー(ここに行くんだよね?でも、ここ周辺の海流の情報少ないんだよな。多分まっすぐ行くとかなり押し戻される地形だよ)」
入り組んだ地形だと言うことは地図を見れば分かるが、高低差は分からない、どこに着岸するか……。
突然、目の前が拓けた。島の様子が手に取るように分かり、潮の流れまで感じた。
「ここ、の入江です。ここだけ船が停められる。潮に押されるから、こっちからぐるっと回って停めるんです……!」
アルバートさんが私の頭を撫でた。
「積んでる食料も充分や。このまま向かうで」
「計算式どうしよっか?僕解く方専門なんだよね」
「……仕方ないわね。クロノの代わりやってあげるわ。タダなのは、今回だけよ」
リードさんとエウディさんが、各数値を出している。私は……何が出来る?
「サヤはサヤの仕事頼むわ。到着予定から逆算して上陸前の腹ごしらえの準備しといててくれ……明日島に近づいてきたら、視界の方頼むと思うし操舵室におって欲しい」
「はい!」
アルバートさんの指揮の下、私も仕事についた。この先に何があるかは分からないけれど、私達なら大丈夫だと安心できる。
リードさん達の読みでは、ここからなら半日も経たずに島まで行けるそうだ。逆算して、食事の仕込と洗濯掃除、久しぶりの家事だったけれど頭の中が前よりクリアで、並行して片付けていけた。
家事を終えて、操舵室に行くとアルバートさんしかいない。家事をしている時に通った場所には誰もいなかったのに、だ。
「皆さんは?」
「今、夜中やで。あいつら寝とるわ」
言われて気づく。言われるまで、夜中だと忘れていた。それくらい眠くない。
「アルバートさんは?」
「俺な、眠ないねん。多分サヤもとちゃう?」
「はい」
「……俺のせいやねんけどな」
「え?」
「命のエネルギー、洞穴で送ってもうたらしい。口移しで」
「あ」
夕方の事が思い出される。アルバートさんは前を見て、操縦しているフリをしてるけど、今は自動操縦で大丈夫なはず。彼の耳も少し赤くなっていた。
「眠れなくなるくらい強いもの、なんですね」
「エネルギーの元は空気中にあんねんて。グールはそれの入力量は普通やのに、出力が大きい。ついでに貯めておく器も大きいからゆうて、満量近く注がれたわ」
「じゃあ、新しい契約してからずっと?」
「慣れて寝られるようになるんに数年はかかるらしいで。疲れは自己修復されるから、無くてもええらしい」
それはもはや人という範疇では無い。
「……アルバートさんの契約したお相手は」
「龍族や。これ、秘密やで?」
やはり、と思った。龍族は空気中のエネルギーの入力量、出力量、貯留量が多い。エルフは入力量と出力量は多かったけど貯留量は他の種族と変わらない……ふと、この知識が教育課程では無い古い記憶だと気がついた。
「龍族は、アルバートさんに何をさせようとしているんですか?」
孤高の彼らが利もなくエネルギーを与えるとは思えない。そして、彼らは基本的にこちら側に興味は無いはずだ。
「グールは、龍族との混血の成れの果てやねんて。皇帝はんも龍族の血が入っとって、それ使て理を曲げようとしとる。それを、同じくグールの俺に止めろ言うてきた。過去の皇帝が何しようとしてたか龍族は知っとっるらしいんやけど、それは教えられへんにゃと」
「剣と鞘が一つになれば神力が手に入る、と聞いています。竜の力と神力があれば、竜族も危うい?」
「竜も人も海も土地も、無傷っちゅう訳にはいかんやろな」
「……レックスを止めないと」
彼の正義が怖い。正義のためなら、彼はきっとどんな事でもするだろう。
島が遠くに見え始めた頃、陽はまた登り始めた。
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