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 私の様子が変わったのを、雨情さんは感じたのか、深刻な顔になった。

「カリン?顔、青いで?マンチェスターの兄貴が召喚されてから召喚はされてへんし、その兄貴の前に召喚があったんは兄貴があっちに飛ばされる前や。せやから、その友達が別の場所にいるんは間違い無い」
「……」
「……ちゃうな。カリン、今心配してる事はなんや?」
「私が、帰ってくるまでに何年……経ったんでしょうか?」
「それは分からん。一定ともちゃうらしい。分かっとるんはズレは数年から十数年って事位や」
「……雨情さん、ここ20年で森に大きな変化とかありましたか?」
「残念やけど、俺生まれてまだ19年やねん。せやけど、そんなんあったなんて聞いた事は無いで」

 アンズは3年にしては少し大きくなりすぎてたかも知れない。だけど、大人になりたての様だった。兄様が言っていた成獣までの期間は5年位だったはず。それなら、その辺りの年数だろう。

「カリン!俺の目ぇ見てみぃ!」

 ハッと気がつくと、雨情さんは私の両方を掴んでいた。濃いブラウンの瞳は私をしっかりと見据えている。

「深呼吸!吸って~、吐いて~」

 じっと見つめあったまま深呼吸10回。

「おし、もぅええな。考えるんも悪ないけど、ちゃんと俺見て喋り」
「ごめん、なさい」
「いや、かまへん。自分見失いそうになったら、また俺が捕まえたるから、一人で抱え込むんはやめとき」

 にかっと雨情さんは歯を見せて笑った。八重歯がチラッと覗いてる。

「……兄を……探します。雨情さん、手伝ってください」

 雨情さんは「まかしとき」と言って、私の頭を優しく撫でた。

 王都の様子はそれから幾日かしてから届いた。私が女だという事はまだ公表されては居ないが、行方不明というのは公表されていた。アライブのみで懸賞金もかかっており、結構な額が出されているという。

 街だけでなく、村にも張り紙が貼られ、私の元々のサブカル系エンタメも流行させられているらしい。という事はリオネット様はもう動いているのだろうか?

 好都合な事に私の絵は全てベリーショートの男の子という事になっている。

 この世界では貴族の女性は奥まっている事が多いが、平民はほとんどが共働きでガンガン稼いでいた。なので、数は男性に比べると少ないが、魔石ハンターもいる。

 雨情さんの言った通り私の髪は1週間で肩まで伸びたので、私は魔石ハンターの登録に街に出た。

 登録所は街の比較的中心部にある。大体は魔石の取引所が併設されているからだ。小さな村にも魔石の取引所はあるが、規模が小さく個人が組合に引き取ってもらう取引になっている。街の取引所では、個人間の取引の仲介も行われていた。

「こんなとこにも張り紙がある……」
「髪は下ろしといて正解やな。下手に上げるとイメージが短髪の時と被るし、付け毛やと思われるかもしれへんかった」

 緊張する。大きな建物の前で私がたじろいでいると、雨情さんは私の背中をドンと手で押した。

「いけるて、その髪型やとどっから見ても女やし、作戦も最終手段もある」
「それってどんな?」
「ナイショ」

 作戦なのにナイショとは、これいかに?

「まいど!」

 取引所の隅のカウンターには、黒髪の日本人に近い容姿のおじさんがいた。

「おう!雨情やんけ。今日はどないした?」
「連れの魔石ハンターの登録や」

 くいっと顎で示されたので、私は頭を下げた。

「ほぉ、女の子なぁ。嫁候補か?」
「せやねん、ええやろ」
「なっ!」

 ってこれ、否定した方がいいの?認めた方がいいの?

「くくっ、お嬢ちゃんおいで。この申し込みに名前書いてくれるか?」
「ユウキ、漢字の方な」
「う、うん」

 この反応は、さっきのはボケってやつ?分からないけど、大人しく指示に従う。
 大きな商家や貴族でなければ、普通苗字は無いから、私は申し込み用紙に有希とだけ書いた。年齢や連絡先は雨情に事前に仕込まれている。年齢は17歳だ。そこに母印を押す。アナログ。

「名前漢字やん。雨情の一族か?」
「ああ、せやけど他所でしばらく飼われとったらしい。西の空気に慣れてへんから、俺の弟子にしてん」
「貴族のお抱えか。異世界人が先祖ってだけで勘違いする貴族、そろそろ消えたらええわ」
「ほんまに」

 雨情さんは自分の登録カードを添えて提出してくれた。
 ここでは戸籍なんて無い。あるのはすでにハンターとなっている者との紐付けだけ。私の後見に雨情さんは立ってくれたのだ。

「ええけど、もう駆け込んで来んなや」
「あかんて、やめて。それ言われて三連敗したんやから」

 私の登録カードを受け取って、無事ミッション終了。真新しいカードには魔石ハンター見習い、と記載されていた。

「……バレなかったですね」
「カリン君が女やって広報されへんかったら大丈夫や。あれでまだ男や思われたら、もう結婚するしか無い思てた」
「けっこん……?誰と誰が?」
「俺とユウキ」
「へー、……え?」
「ハンターなるんは、後見が必要やろ。そこんとこ弟子やなくて夫婦って関係で登録したら疑いよう無いやん。俺が女っていうのは無理あるし」
「いや、そうじゃなくて、結婚てそんな、気軽な……?」
「せやな。マイナス点はある。ユウキの黒歴史になる」
「は?」

 雨情さんは遠い目をした。

「俺な、バツ3やねん」
「それは、再々婚で別れたと?」
「せや。元嫁は単にハンター身分が欲しかった奴と、お金欲しかった奴と、ダブル不倫かましてきた奴」

 うわぁ。ダメ女ウォーカー。

「ほんで、後見解消のために登録所駆け込んだんが3回」
「それって、ハンターあるあるとかですか」
「いや、全く。……登録所にな、記録残ってんねんて。お陰で有名人や。せやから、ユウキと俺が結婚したら、3回も騙された雨情の嫁かぁってバレる」

 どよーんと雲を背負った雨情さんだけど、きっと困ってる人に温情雨あられで助けた結果だろうなとも思える。

「雨情さんの弟子って他にもいらっしゃるんですか?」
「おったけど、みんな嫁になって元嫁になった」

 うわぉ。

「つうわけで、今後見しとんのユウキだけやし。サクッと実績積んで見習いっての消すで!」

 雨情さんはヤケクソ気味にに叫んだ。
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