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 魔石が手に入ったので、早々に街へ……、という事にはならず、まずは最寄りの村に行く事になった。ウジョーさんだけ。

「カリンの話が外でどうなっとるか分からん。飛ばした相手がここに落ちるって知っとったら、ここは要警戒地域やろ?」

 というド正論のもと私は森でお留守番。というのも、折よく熊親子と再遭遇したので、私は熊親子と共に行動すれば安全が確保できるからである。

『カリンちゃんはー、鳥の生肉好きー?』
『んー、焼いた方が好きー』
『えー?火使うなんて、やばんー』

 仔熊ちゃんは最近見開きでの会話を覚えたばかりらしく、楽しくお話しさせてもらってる。しかし、これは短期間しかお世話になれない。熊親子の前では火を使えないので、食事は果物頼り。仔熊ちゃんが善意100%で『半分こ!』と渡してくれたナマズの頭部のおどり食いは、どうしてもできない。

 ウジョーさんは半日ほどで帰ってきた。食料もたっぷり。

「断腸の思いやけど、市場の八分の一価格で足がつかん奴にまとめて売ってきてん。穴場知られるよりはなんぼかマシやし」

 ほいっと、札束が渡された。

「え?いや、いらないです。お世話にもなってますし」
「アホ抜かせ、ちゃんと七三で分けた上に、警護料も食費も雑費も敷礼も引いとる。これ以上は引かれへん。それに、街まで行った後には金がいるんやで?もうとき!」
「ありがとう、ございます」

 お金の価値は絵本で読みました。これだけであちらではおおよそ十万あるか無いかと言う位だ。

「言うても、旅費にはまだ足らん。……何べんかやるで」
「はい……」
「早よ帰りたいんは分かるけど、我慢や。今日村行って外の様子の情報入手、依頼してきたったから。王都の様子、街の様子、最低それらの情報は要る」
「さすがウジョーさん!ありがとうございます!」
「天才やろ?」
「天才です」

 せやろ、せやろ、とニコニコしてて、ちょっとウジョーさんは単純かも知れないと思った。

「で、次やけど、付け焼き刃でも魔石ハンター称した方が動きやすいと思うねん。俺がそれしか知らんからやけど、とりあえず魔石ハンターやったら森の移動はあり得る。街の情報が来るまで、魔石の知識頭に入れとき」
「分かりました。その、街の情報って使令が運んでくるんですか?」
「いんや、俺のMPの方は低いから使令なんかおらんで。普通の動物を訓練しとんねん。目印に魔力は使うけどな。伝書鳩かフクロウが持ってくる」
「そうなんですね」
「おお、それから、カリン、髪伸ばせ」
「髪、ですか?こちらに来てから全然伸びないですけど」

 半年ほど経っても、私の髪型は相変わらずフェミニンかつアンニュイなガーリーヘアーという名のただのベリーショートだ。

「それな、加護のせいやで。脳内にある正常な状態のイメージがその髪型やからや。逆に髪が長いイメージやったら、めっちゃ伸びる。半年やと伸びひんレベルまで伸ばせば変装になるやん?で、それやとカリンの容姿やと女に見えてまうさかい、格闘家の服1セット用意した。上半身着いひんし、イメチェンにもなるで」

 ウジョーさんはすでに服まで購入して来てくれているが。

「すみません、事情があって上は脱げないんです」
「なんやて?!」

 表情が突然厳しくなった。

「折檻されたんか?怪我の跡あんのか?見せてみ?!」
「や、違っ」

 完全に虐待を隠してると思い込んでる様で、ウジョーさんは手加減しなかった。
 服は剥ぎ取られて、一瞬で下着姿にされた。もーダメだ!

「すみません!女なんです!」
「は?」

 ブラはしてる。その上にシャツも着てる。しかし、体の線は見たら判る。

「ぎゃー!」

 それ私のセリフ!!

 剥ぎ取った服を押し付ける様に返され、ウジョーさんははるか彼方に走っていった。
 モソモソと着替え直すと、かなり遠くから「もーえーかー?」と聞こえてくる。

「もう大丈夫です」
「なんでやねん。なんでやねん。なんでや、なんでや、なんでやねん」

 どう聞いて良いか分からなくなったのか変な歌を歌い始めた。

「こちらに来た時、男言葉を使っていたので原石の男の子と間違われてしまって」
「なんでやねん」
「実は私異世界人でこちらに来るのが2回目なんですよ」
「はー」

 白くなって灰になったウジョーさんの口から何か白い物が見えた。魂かな?

「ソレ、オンナヤッテ、ダレガシットンノン?」
「マンチェスターの兄二人と一部のメイドさん、それからナルさんと……、こちらに来る直前に女王陛下に確認されました。一部の貴族の方は私が女だって知ってるって仰っていて」
「ひょー」

 魂っぽいものは一旦彼の口から出た後、その辺りをがぐるぐるしてから戻っていった。

「そら、暗殺もされるわ」
「未遂ですけどね」

 左手で頭を支えたウジョーさんは引き攣ってる。

「1回目ってなんやねん。異世界戻れるってか?」
「森で兄様、マンチェスターの義兄あにの方ではなくて、森に住んでいる褐色の人に拾われて育ててもらいました。元々その兄様に会いたくて、こちらに帰ってきたんです」
「その兄貴は?」
「探してるんですけど、見つかっていません。魔王討伐のパーティーへの参加もここや東の森を探しに行かせてもらえるのと交換条件で引き受けた事なので」
「泣かせるやんけ」

 そう言いながら、ウジョーさんはむしろ鋭い表情に変わった。

「カリン、俺は異世界人の末裔や。名前は雨に温情の情。情けが雨あられっちゅう意味やて。ご先祖は召喚されて、魔王討伐に連れてかれ、よう分からんうちに帰って来たと思ったら、与えられた貴族の身分剥奪されてポイされた。せやから、心底カリンがマンチェスターに戻るんは気に入らんが、森の兄貴の方やったら探すん手伝ったる。まぁ、兄貴探しのどっかでマンチェスターの方の兄弟ともコンタクト取れそうやったら取ったらええ。それやったら、異世界のよしみでなんとかしたる気になるわ」

 無防備に帰るのは私の命が危ない。なら、兄様を探しながら機会を窺った方が良い。
 アッシャーも私が行方不明なら仮面の娘と会う事も無いだろう。頭では分かってはいるけど……、ウルウルお目々の私のアンズの顔が浮かぶ。心臓がちくちくする。
 しかし、他に方法は無い訳で。

「よろしくお願いします」

 私は雨情さんに頭を下げた。

「ほな、先ずは偽名考えよか」
「偽名ですか?」
「一応な。カリンはこっちでは珍しい名前で、おまけにカリン様で広がったから男の名前やと認識されとる。知り合った経緯勘繰られたら面倒やし、俺の一族で通すからあっちの名前なんか無いか?」
「じゃあ、有希ユウキで。私の向こうで友達だった子の名前です」
「友達だった。あえて過去形とは意味深な」
「その子もこちらに来たはずなんですけどね。私の1回目みたいにどこかに元気で居てくれてると信じています」

 1回目に来た時、言葉がわかる様になってから兄様に探してと頼んだが、無理だと言われた。
 今回は召喚の記録も調べたけれど、私が召喚されるより前の記録は、10年前にリオネット様が召喚されたのが最後。それに、民間に異世界から来訪した者は公式にはいないとされていた。

「凄く頭が良くて、物知りで、それでいて不思議な子でした。私が1回目に呼ばれた時期には召喚は無かった様で……」
「ん?あっちとこっちの時間の流れって一定ちゃうぞ?」
「え?」
「例えばマンチェスターの兄貴は今のマンチェスターのおとんとおかんの子やのうて、先代のマンチェスターの未子のはずや」
「でもそれって、マンチェスターの子とは限らないんじゃ?」
「いや、他の帰還人は平民の原石の可能性あるけど、あの人は別格や。両親の年齢が高いほど産まれた子供は強い魔力を持つ。それで該当するんはマンチェスターだけやったって、王宮の確かな筋から聞いとる。マンチェスターは娘の夫に相応しい原石を養子にしたばかりやったし、流石にあのMPの帰還人はどこも欲しがって揉めてん。そこでいつもは適当やった記録もしっかり精査されて、間違いなかったっちゅう話や。せやから、アレやった実の娘と原石結婚させる計画あっても、その前にほぼ全権兄貴に渡されたんやで」

 リオネット様がマンチェスターの実子……?いや、それより

「それって、こちらでは常識ですか?」
「どやろ?平民は知らん奴おっても普通やろな。俺みたいに先祖がっちゅうやつは知っとると思う。貴族さんも、養子にしよう思てる様な家やと知っとるはずやで」

 リオネット様達がわざと知らせないようにしたって事だ。私が兄様を探しているのは知っているのに。
 私は無意識に手を握りしめた。
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