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 また性懲りも無く!と、リオネット様を見上げると、その表情に強いデジャヴを感じた。楽しそうな、嬉しそうな、そしてちょっと気の抜けた感じの微笑み。

 あれ?リオネット様ってこんな表情かおしたっけ?

 知っている誰かに似ていると思って記憶を手繰り寄せようとした瞬間、ぐいっと引き離される感覚があった。ナルさんアンズ組に引き剥がされたのかと思ったら、意外にも引き離したのはアッシャーだった。

「……え?」

 しかし、当の本人アッシャーが驚いた声を出している。

「アッシャー、今超人的な動きだったね」

 1番遠くにいた彼が一瞬で、私を抑えつつリオネット様のフードを掴んで引っ剥がした。目にもとまらない速さだった。

「アッシャー、まずは口でお言いなさい。首が絞まって苦しかったですよ?」
「え、ああ、わりぃ、カリンが困ってんじゃ無いかって」

 困るという素振りも見せられない位の早技でしたよ。

 「まぁ、良いでしょう。皆が揃ったので朝食にしましょうか」

 ケホッと軽く咳をしてリオネット様は微笑んだ。

 今はいつものリオネット様だ。誰だったっけ?あの表情をしてた子。学校の友達?いや、施設の子だった様な。
 胸に引っかかった感じがするけど……、うーん。

 みんなで食卓を囲んで、ハタと気がつく。物凄く当たり前にナルさんが居る。ここにも泊まってたみたい。これはなし崩し的な同居ではあるまいか?
 同世代ばかりで食卓を囲むのは、施設でも普通だったから変じゃ無いはずだけど……、あ、そうか、実習のお兄ちゃんと先生以外はみんな子供だったから違う感じがするのか。

「これからの事を少しお話しましょう。午後にはサンダーランドより、こちらの領地を直接お任せする方々が到着されます。引き継ぎが終われば皆で王都に戻り、そちらでも引き継ぎ作業を。その後西の方へカリンの兄君探し兼修行に行く準備という予定をしています。皆の都合はいかがですか?」
「王都に着いたら、市場を少し確認してきて良いか?魔石の質が極端に落ちてると聞いていたが、対応はナナミ様達に任せるとしても少し気になる」
「大気のマナの含有量との関連が科学院から上がっていたはずだ。後ほど資料を渡そう」
「さんきゅ。それから……」

 アッシャーは普段通りだった。昨晩のアレは微塵も感じられない。
 リオネット様とナルさんは政治的にも優れた立場でかつ能力も高いからか、いつもの食事より会話はドンドン高度な話に流れていった。それと同等に会話してるアッシャーもちゃんと凄い。私は口も挟めそうも無いし。私は本当に能力が無い。
 昨晩あれほど固く誓ったけれど、私は本当にアッシャーを助けられるんだろうか?

「我が君?」
「へ?」
「カリンには少し退屈な話題ばかりでしたね」
「いいえ!そんな」
「まぁ、訳わかんねぇよな。言っても、ここ来て半年も居ないんだから、今の俺らの小難しい話が分かる方が怖えよ。しかも16だろ?そんな変態はリオンだけで十分だ」
「さらりと私を下げるの辞めてもらえますか?」
「褒めてんだよ。まぁ、あれだ。カリンはあんま思い詰めんな。目に見える結果ってのはかなり後からしか出てこねぇ。こうやって一緒に話してるうちに、ちょっとずつ積まれてくる」
「ありがとう、アッシャー」

 みんな優しい。いじけてる暇なんて無い。前を向かないと。

「アンズ殿の成熟方法が分かった。……失礼、食事時であったか」

 テーブルのど真ん中上空に索冥が人型で現れた。浮いては居るけど、足の下に食べ物というのはちょっと困る。

「索冥、下に降りろ」
「御意」
「それで、方法とは?」

 とんでも登場だったけれど、リオネット様は話の方に興味が持っていかれたようだ。

「一旦カリン様とアンズ殿を割く。その後、我から魔力を送り、回路に負荷をかける。さすればマナを取り入れる器官が育つやも知らぬ」
「切り離すってどうやるんだ?」
「使令と主人を繋いでいる回路を一時的に閉じる事は可能です。私自身でやってみた事はあります。ただ、その方法で器官が育つなら、アッシャーはとてもお育ちになってると思うのですが?」

 リオネット様が先程の事を引きずったまま、疑問を投げてきた。確かに回路は閉じてる状態で魔力を送られてますね。

「回数が多ければ回路が開いてしまい器官に負荷がかからぬ。一度に大量に送る必要がある」
「それって危なく無いの?」
「数日は動けぬであろうな、我も多少休息が必要になるであろう」
「……僕やるよ。それで人の形を手に入れられるんでしょ」

 何故か怒ってるようにアンズが跳ねた。本人はやる気に満ちてはいる感じ。更に、索冥にリオネット様がサポートを申し出た。これは限りなく安全な様に思える。

「でしたら、しばらくカリンは魔法を使うのを慎んでください。アンズ殿はなるべくカリンに魔力を流し、カリンの魔力を満たす様に。アンズ殿もなるべく魔力は消費されない様お願いします」

 毎回思うけど、リオネット様は私よりアンズに丁寧だ。トラップで捕まえたりはするのに。

「分かったけど……、でも、『なるべく』だからね!」

 と言うと同時にモフモフが溶けた。私の影がモゴモゴしてアンズがそこにいるのがわかる。

「リオネット様。ありがとうございます。アンズの形代、もう持ち歩かなくてもよくしてくださったんですね」
「どういたしまして。可愛い弟のためならこれくらいの事なんて事ありません」

 ああ、うん、また何か裏の考えがあるんですね。花を背負った様な笑顔の時は大体アウトですから。

「……さて、ナルニッサ。アンズ殿不在の間はカリンを頼みますよ」
「言われなくとも」

 そこまで念押しが必要な事だろうか?少し引っかかりは感じたけれど、そう言えば私は魔法だとか魔力だとかあまりよく分かって無い。自然界にあるのがマナでそれを取り入れて使えるエネルギーになったのが魔力、それを主に使う行為が魔法で、魔法は訓練や勉強などで習得が可能。スキルは魔力を使うけれど訓練で手に入れられるものでは無く、条件が揃ったり元々の素質だったり……。そう言った、基礎的な事は知ってはいる。

 それが剣士にとってはどう言う意味があるのかとか加護によってどうなるかとかは知らない。リオネット様はわざと私に教えないでいる、とか?

「……カリン?」
「アンズ?なぁに?」
「やっぱりなんでもない」

 一人で悶々と考え事をしていると、アンズが呼びかけてきた。なんだかアンズの様子がおかしい?昨日出かけた後から、機嫌が悪そうな気がする。

「アンズ?」

 今度は私のから声をかけたけれど、アンズから返事はなかった。
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