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へんそーだ!
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サンダーランドの領地、都の外の小さな丘にてようやく追いついて、とりあえず人目につかない場所で一旦集合させた。
索冥も早ければアンズも早く、歩けば数日の距離が1時間程度で着いてしまった。アンズは本気ならもっと早く飛べるらしいが、アンズの本気には私の身体が持たない。ガチマッハとか明らかに無理。
索冥も本気では無いから、こちらが索冥達に追いつくと、先導しようと前に出られて声は届かず。目的地近くでナルさんからどの辺りに降りるか聞きに来て、ようやく止める事が出来たのだ。
私の怒りの気配を感じてか、今私の目の前には正座したナルさんがいた。
説明を求めただけなのに、何故か若干彼は嬉しそう。
「目立たない様にって、私言ったんですけど?」
「王都にて手に入れました勝負服でしたが、やはり不遜でしたでしょうか?」
リオネット様の税金対策のアレか。私が思ってたより、ぱっと見のデザインは普通だけど、私の顔と名前はちゃんと入っている。それを着た人を連れて歩く自分を想像するだけで、軽く死ねる。
「それは着ないで。お願いだから」
「やはり、そうですか。絵を描いた者の力不足で実物より劣っているとは思いましたが、それゆえに袖を通す事が出来たので、つい」
なんか言ってるけど聞こえない。とりあえず着ないならなんでも良い。
「しかし、領内でも現在カリン様ブームに沸いていると報告を聞いております。その様な大衆文化は元々好まない土地だったのですが」
沸いてるのは彼の頭の中だけにしておいて欲しかった。
「そんな、どうして……?」
「不思議なことに、私がカリン様を主人として戴いた事は周りの者に知らせてはおりません。主人を定めた事のみ家人に申し伝えました。にも関わらず、自発的にブームが現れたのは恐らく我が君の隠しきれない美しさ故かと……」
私のあれやこれやが勝手に市中に広まった……?
ふと、例のあの人の悪い笑顔が思い浮かぶ。十中八九リオネット様の仕業としか。このままでは他の領地も危ない。
「とにかく、私は目立たずウロウロしたいの。そんなんじゃ困るの!」
罰ゲームハッピをひん剥きなぎら、私が今回お忍びで兄様を探しに大森林に来たことを伝えた。
「育てのお兄様ですか?」
「そう、肌の色が褐色の種族とか聞いたことない?」
「いえ、この領地内はもとより大森林にいるという情報も聞いた事はありません。ただ、エルフ族など、こちらと交流を持たない種族が大森林にはいると言う言い伝えはあります。エルフ自体の容姿とは一致しませんが、我々が未確認の者達が居ないとは言い切れません」
おや、意外と話せるじゃないですか。
「しかし、目立たずとは難しいかと。我が君の溢れる気品と美しさを誤魔化す事は不可能です」
認知の歪みが甚だしい。
「我が城にてご滞在戴けば、まだ街の者達への情報の漏れは最小限になるかも知れませんが……」
「野営でも良いんだけど」
「大森林での野営は危険が伴います。私が付き従うとはいえ、白魔道士不在は避けるべきかと。それと、領内の、町以外での野営も基本的に治安の面から許可制になっており、常には行なっていない者は目立つかと思われます」
認知は歪んでいても、ピンポイントのそこだけ避ければ後は結構論理的。この姿で宿に泊まると秒でバレて大変な事になるだろう。本当に私のハッピ来てる人がゴロゴロいるレベルで流行ってるならだけど。
「へんそーだ!」
アンズが嬉しそうに腕を振り上げだ。
「へんそー?」
「カリン、兄様に見つけてもらうなら、昔の格好の方が良いよ!僕、あれ好き!」
「昔の格好……とは?」
確か、女だってバレてはいけなかったような?リオネット様やアッサム様に迷惑をかけるのは本意ではない。
「私の育った地方では、髪を伸ばしたり丁度こちらの女性の様な格好を子供の時にしてたの!」
「……女性の……様な?」
苦しい。言い訳が苦し過ぎる。
ナルさんは神妙に考え込んでいる様だった。
「もしくは勧進帳スタイルでも良いと思う!」
「かんじんちょう、ですか?」
女性と言うワードから引き離す為に、思いつきで粗筋を説明した。説明すればする程、不審さが増すのは何故かしら。
軽く思案してから、ナルさんは申し訳なさそうに口を開いた。
「流石に我が君を打つ事は致しかねます。それに我が一族は折檻を是とは致しませんので、些か不自然になるかと」
誤魔化す事に集中しすぎて、思いつきでもひどい事を言ってしまったかも知れない。ナルさんの一族は強く正しく美しくが信条だったはず、それならこの提案は侮辱とも取れる。
「ごめん!発言を取り消す。思いつきでもサンダーランド全体を貶める様な発言だったね。ごめんなさい」
ナルさんは一瞬何かを言いかけて、口をつぐんだ。そしてまた、私のことを穴が開きそうな位見つめてくる。怒った?
「……承知いたしました。御無礼を働いてもよろしいなら、私の愛しき方としてお連れしましょう」
「愛しきっ?!」
「愛する人、と言う意味では深く敬愛しておりますので嘘でもありません。また、婚前にお連れする場合は名を伏せる事が一般的ですので、家の者も外には漏らしません」
ふざけてる……、表情では無さそう。
「一般的、と言えるくらいには貴族の間ではよくある事なの?」
「はい、内々の恋人、婚約を済ませてはいないけれど両家の許可のある間柄であったり、政治的に公にすると障りのある間柄の交友などでは仮面を召した状態でお招きする事もあります」
「交友の方にしてもらえたりしない?」
「恐れ入りますが、私があなたと対等に振る舞える自信がありません。また、師弟関係や先生と生徒と言う関係も難しいのです」
「私の方が若いからね」
「いえ、若年の者が教える立場になる事はありますが、私の立場上必要な事において、私より秀でていると言える方は我が君以外にはおりませんので」
当然と言う風で話す彼は、尊大でも自信を覗かせるでもなく、ただ単に己が秀でてる事に疑いが無い感じで……やはりナルシスト?
「私は交友関係狭いんだけど、アッサム様やリオネット様、女王陛下とかその道で秀でてる人もいるから、言い切れるのが少し意外」
「私は特性が騎士ですので、白魔道士のリオネット殿や女王陛下と求められる事が違います。アッシャーはただの原石ですので……、個人的には彼の努力は美しく、技量も彼の方が上ですが、それは私より彼が優れている訳でないのです。貴族の常識としては、私がアッシャーを師とする事はあり得ません」
そんなもん?勇者の格付けが上でもライバルとかだから?と疑問に思ったけれど、今は日が沈み前に中に入りたいので、これ以上尋ねる事は控えた。
ともかく、ナルさんは鳥の使令に言伝を持たせて準備をし、私は索冥の背中に乗せられて空をかけて入城した。
索冥も早ければアンズも早く、歩けば数日の距離が1時間程度で着いてしまった。アンズは本気ならもっと早く飛べるらしいが、アンズの本気には私の身体が持たない。ガチマッハとか明らかに無理。
索冥も本気では無いから、こちらが索冥達に追いつくと、先導しようと前に出られて声は届かず。目的地近くでナルさんからどの辺りに降りるか聞きに来て、ようやく止める事が出来たのだ。
私の怒りの気配を感じてか、今私の目の前には正座したナルさんがいた。
説明を求めただけなのに、何故か若干彼は嬉しそう。
「目立たない様にって、私言ったんですけど?」
「王都にて手に入れました勝負服でしたが、やはり不遜でしたでしょうか?」
リオネット様の税金対策のアレか。私が思ってたより、ぱっと見のデザインは普通だけど、私の顔と名前はちゃんと入っている。それを着た人を連れて歩く自分を想像するだけで、軽く死ねる。
「それは着ないで。お願いだから」
「やはり、そうですか。絵を描いた者の力不足で実物より劣っているとは思いましたが、それゆえに袖を通す事が出来たので、つい」
なんか言ってるけど聞こえない。とりあえず着ないならなんでも良い。
「しかし、領内でも現在カリン様ブームに沸いていると報告を聞いております。その様な大衆文化は元々好まない土地だったのですが」
沸いてるのは彼の頭の中だけにしておいて欲しかった。
「そんな、どうして……?」
「不思議なことに、私がカリン様を主人として戴いた事は周りの者に知らせてはおりません。主人を定めた事のみ家人に申し伝えました。にも関わらず、自発的にブームが現れたのは恐らく我が君の隠しきれない美しさ故かと……」
私のあれやこれやが勝手に市中に広まった……?
ふと、例のあの人の悪い笑顔が思い浮かぶ。十中八九リオネット様の仕業としか。このままでは他の領地も危ない。
「とにかく、私は目立たずウロウロしたいの。そんなんじゃ困るの!」
罰ゲームハッピをひん剥きなぎら、私が今回お忍びで兄様を探しに大森林に来たことを伝えた。
「育てのお兄様ですか?」
「そう、肌の色が褐色の種族とか聞いたことない?」
「いえ、この領地内はもとより大森林にいるという情報も聞いた事はありません。ただ、エルフ族など、こちらと交流を持たない種族が大森林にはいると言う言い伝えはあります。エルフ自体の容姿とは一致しませんが、我々が未確認の者達が居ないとは言い切れません」
おや、意外と話せるじゃないですか。
「しかし、目立たずとは難しいかと。我が君の溢れる気品と美しさを誤魔化す事は不可能です」
認知の歪みが甚だしい。
「我が城にてご滞在戴けば、まだ街の者達への情報の漏れは最小限になるかも知れませんが……」
「野営でも良いんだけど」
「大森林での野営は危険が伴います。私が付き従うとはいえ、白魔道士不在は避けるべきかと。それと、領内の、町以外での野営も基本的に治安の面から許可制になっており、常には行なっていない者は目立つかと思われます」
認知は歪んでいても、ピンポイントのそこだけ避ければ後は結構論理的。この姿で宿に泊まると秒でバレて大変な事になるだろう。本当に私のハッピ来てる人がゴロゴロいるレベルで流行ってるならだけど。
「へんそーだ!」
アンズが嬉しそうに腕を振り上げだ。
「へんそー?」
「カリン、兄様に見つけてもらうなら、昔の格好の方が良いよ!僕、あれ好き!」
「昔の格好……とは?」
確か、女だってバレてはいけなかったような?リオネット様やアッサム様に迷惑をかけるのは本意ではない。
「私の育った地方では、髪を伸ばしたり丁度こちらの女性の様な格好を子供の時にしてたの!」
「……女性の……様な?」
苦しい。言い訳が苦し過ぎる。
ナルさんは神妙に考え込んでいる様だった。
「もしくは勧進帳スタイルでも良いと思う!」
「かんじんちょう、ですか?」
女性と言うワードから引き離す為に、思いつきで粗筋を説明した。説明すればする程、不審さが増すのは何故かしら。
軽く思案してから、ナルさんは申し訳なさそうに口を開いた。
「流石に我が君を打つ事は致しかねます。それに我が一族は折檻を是とは致しませんので、些か不自然になるかと」
誤魔化す事に集中しすぎて、思いつきでもひどい事を言ってしまったかも知れない。ナルさんの一族は強く正しく美しくが信条だったはず、それならこの提案は侮辱とも取れる。
「ごめん!発言を取り消す。思いつきでもサンダーランド全体を貶める様な発言だったね。ごめんなさい」
ナルさんは一瞬何かを言いかけて、口をつぐんだ。そしてまた、私のことを穴が開きそうな位見つめてくる。怒った?
「……承知いたしました。御無礼を働いてもよろしいなら、私の愛しき方としてお連れしましょう」
「愛しきっ?!」
「愛する人、と言う意味では深く敬愛しておりますので嘘でもありません。また、婚前にお連れする場合は名を伏せる事が一般的ですので、家の者も外には漏らしません」
ふざけてる……、表情では無さそう。
「一般的、と言えるくらいには貴族の間ではよくある事なの?」
「はい、内々の恋人、婚約を済ませてはいないけれど両家の許可のある間柄であったり、政治的に公にすると障りのある間柄の交友などでは仮面を召した状態でお招きする事もあります」
「交友の方にしてもらえたりしない?」
「恐れ入りますが、私があなたと対等に振る舞える自信がありません。また、師弟関係や先生と生徒と言う関係も難しいのです」
「私の方が若いからね」
「いえ、若年の者が教える立場になる事はありますが、私の立場上必要な事において、私より秀でていると言える方は我が君以外にはおりませんので」
当然と言う風で話す彼は、尊大でも自信を覗かせるでもなく、ただ単に己が秀でてる事に疑いが無い感じで……やはりナルシスト?
「私は交友関係狭いんだけど、アッサム様やリオネット様、女王陛下とかその道で秀でてる人もいるから、言い切れるのが少し意外」
「私は特性が騎士ですので、白魔道士のリオネット殿や女王陛下と求められる事が違います。アッシャーはただの原石ですので……、個人的には彼の努力は美しく、技量も彼の方が上ですが、それは私より彼が優れている訳でないのです。貴族の常識としては、私がアッシャーを師とする事はあり得ません」
そんなもん?勇者の格付けが上でもライバルとかだから?と疑問に思ったけれど、今は日が沈み前に中に入りたいので、これ以上尋ねる事は控えた。
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