上 下
41 / 65

40

しおりを挟む
 今度はゴーグル自体に宝石の様にキラキラした小石が取り付けられた。「上物やで」と言いながら、ウジョーさんは得意げだ。彼の採った魔石だろうか。

「……どないなっとんねん。これが、加護か?」

 ゴーグル越しでも分かるくらい、眉間に皺が寄った。ウジョーさんの声は若干怒りを含んで聞こえた。

「多分そうだと思います。何が見えたんですか?」
「気分悪いかも知らんけど言うで。これは呪いや。こんなん加護やなんて、ちゃんちゃらおかしい」
「呪い?」
「死恐怖症耐性ってアホか。こんなん、よっぽど本人が望んで職業柄どうしても要る時ぐらいしか身につけへんぞ。死が怖ない様にするっちゅう事は、なんかあれば死ね言われてる様なもんやろ。カリンの事なんやと思てんねん」
「はぁ」
「色々鈍麻もついてる。ストレス耐性あがっとるやろ。普通なら躊躇する事に気がつかへん。そんなん人格歪めてる様なもんやで」
「そうなんですか?」
「ほら、ショック受けとらへん」

 全く受けてない事はない。ただ、確かに自分でも何か昔の自分とは違うなと思う事はあった。

「まぁ、俺がひっぺがせるもんでもないし、無理矢理外したらどうなるか分からん。他に気になるんは……、内部破壊耐性と再生がほぼカンストしてるんと……、なんで色香テンプテーション耐性まであんねん。サンダーランドの貴族か一部の聖獣くらいしか持っとらへんスキルやん」
「それは、友達のナルさんと言う人がサンダーランド家の人だからかも知れません」
「ああ、なるほど。仲良いんや?」
「それなりに」
「ほーん」

 パッとウジョーさんはゴーグルを外した。さっきの小石は心なしかさっきより小さくなっている。

「まぁ、こんなもんや。結局、加護っちゅうのが耐性やらあげまくって、維持消費魔力量がえらい事になっとる」
「こんな便利な物があるんですね」
「貴族さん達は魔具あんまり使わへんからな。平民は魔具と魔石で魔法の代わりにしとる。魔石は高いから、ここまでのん持っとんのはほんの一部や。魔石うてまで使っとたらすぐ破産になるわ」
「すごーい」
「せやろ?」

 「さってと」と言って、ウジョーさんは立ち上がった。

「さっさと魔石見つけよか。カリンにも数要るし」
「すみません」
「いや、ええねん。魔石言うても売れるんは純度が高い透明なやつや。純度が低いとゴミが出る。魔具の燃料に使えへんし、値段も安い。純度が低い小石は置いといても純度が悪いまま大きいなるだけやねん。カリンが使いまくっても全然オッケーや」

 そして、彼はすぐ横の木を揺らすとバラバラと石が降ってきた。

「コレが魔石」
「そんな簡単に?」
「見てみぃ、全部灰色や。これ全部魔力も少ない。ええか?大きゅうて透明なんあったら、布で掴んで回収するんやで」
「はい」

 試しに手で灰色のに触れると、ポロっと崩れて無くなった。本当に含まれてる量が少ないらしい。
 ウジョーさんは木に登って揺すったり、棒を使って器用に落としていっている。見たところ透明な物はほとんどなく、合っても極小。そっと掴んで袋に入れはするけれど、実入りは良くなさそう。

「最近ええのあんまり無いねん。お陰で危険をおかしてこのテリトリーまで来たわけやけど、ここも減っとるな。カリンがぬしと交渉してくれたさかい、コソコソやらんで済んで助かるわ」

 確かにこんだけ大暴れしてたら、熊にも襲われるだろう。うるさすぎて。
 小さい動物達は迷惑そうに逃げていっている。

『騒がせてすまない。透き通る魔石、純度の高い魔石を探している。見た事はないか?』
『最近は水の中にできる様になった。マナが濃くて重くて沈む。暴れるのは勘弁願う』
『分かった。すまなかった』

 試しに迷惑そうな顔をしているリスっぽい子に聞いてみた。逃げ惑わないこの胆力。小型だけど、やはりただの動物じゃ無くて聖獣の子でしたね。会話がスムーズだった。

「ウジョーさん。純度の高い魔石ですけど!」
「見つかったか?!」
「いえ、そこのリスさんが最近は池の中にできてるって言ってます」

 どしーん、と音を立ててウジョーさんは木から落ちてきた。

「だ、大丈夫ですか?お怪我は?」
「怪我?怪我なんてなんぼのもんじゃい!それよか、カリン、今の話ほんまか?」
「はい、マナが濃くて重くて沈むって」
「行くで!」

 ぴゃっと先程私達が来た方向にウジョーさんは消えていった。え、置いてかれた?熊は大丈夫でも他にも猛獣とかいるんじゃ?

 待ってぇぇえ!

 はぐれるかと思ったが、ウジョーさんはなぎ倒し気味で駆け抜けたらしく、即席の獣道かできていたので簡単に元の池に辿り着けた。そこにはウジョーさんの抜け殻が落ちていて、本体はどうやら池の中。

「とったどー!」

 拳大のガラスの様な正しくぎょくをウジョーさんは掲げた。

「うおっと。カリン、パス!」
「はい!」

 水中は流石に素手なので、触っていると溶けていく。投げてよこされ、それを私が布受け取り収納する。ほいっほいっと投げてこられて、あっという間に袋はぱんぱん。

「大量やー!」

 いくらゴーグルをかけていても、水中でこれほど透明な石なら見つけられない様な気がするが、ウジョーさんには簡単だった様だ。どうなってるんだろう。

「おっしゃ、おっしゃ」

 ザバァっと水から上がると、彼は服を着ていなかった。秘すべき場所とご対面。

「薪とってきます!」
「おう、ありがとさー、ん?」

 見てしまった。いけないものを見てしまった。ウジョーさんは完全に私を男だと思ってるから仕方ないけど!……忘れよう。

 しかし、薪は急いで集める。もう少し山手に行くと雪が積もっている様な気候で、池の水は冷たかった。風邪をひかれては大変だ。

 戻るとウジョーさんもちゃんと服は着ていて、それでも髪はまだ濡れていた。

「火を起こしますね。魔石頂いたので、着火くらいなら問題ないので」
「おおきにー」

 寒いのかフルフル震えながらも、ニンマリ笑っている彼の目にはお金のマークが見える。通貨単位は円ではないが。

「……カリン、このまま俺と手ぇ組まへん?結構ええ生活でけるで?」
「皆が心配しています。それに、やらないといけない事もあるので」
「えー、カリンさーん、命かけて街まで行くのやめよぉやぁ」

 ぶぅぶぅ口を尖らせてもダメです。

「まぁ、真面目な話、あんな呪いまでかけられても戻るんはやめた方がええと思うんやけど」
「でも、あれが無ければ魔王は倒せないんじゃないですか?」
「魔王、なぁ。おると思うんか?」
「え?」
「せやから、ほんまに人の心につけ入って怨嗟振り撒く様な魔王、いるんやろか?誰も見た事あらへん。歴代の勇者御一行も力は削いでも対面した事はない。おまけに怨嗟は魔王の専売特許でも無い。俺はあんまり信じてへんのよね」

 魔王は……、いない。そんな事あり得るのだろうか?

「クラリス陛下とお話しして、ですけど、いると、思います」

 そう言われると自信は無くなってくる。でも、何よりリオネット様は陛下にお仕えしている訳だし。

「ただ、もし魔王自体はいなくても魔王討伐に出れば空気中のマナが減って怨嗟が減るのは確かです。自然現象かも知れないけれど、行く価値はあると思います」
「ほーん。ま、そこまで言うなら頑張りよし」

 ウジョーさんは怨嗟にはあまり興味がない様だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...