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2回目の異世界 √
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目を開けると霧の中にいて、懐かしい魔力の香りが私の鼻をくすぐった。
「成功、した、の?」
霧はゆっくりと焦らすように晴れ、その隙間から私の目に飛び込んできたのは異世界特有の歪な、魔力を吸って重力を無視した木々だった。
「やった!」
これはもう異世界に間違いない。こちらに戻るまで苦節三年、ようやく兄様達に会える。……三年か、意外と短いな。
「《成功したようだな》」
「《おめでとうございます、女王陛下》」
「さて、我らが主人と御対面といこうじゃねーか」
晴れた霧の間から、人の声がする。女の人は一人、それから男の人は二人?私が以前こちらで学んだ文法では無い言語も聞こえる。
「おい?子供のようだが、女には見えないぞ。どーいうこった?」
「《此度の術に綻びは感じられぬが?》」
「《……男、ですね。まさか二度も続くとは》」
霧が晴れきった先には人が三人。白い肌に白くて長い髪、目の色素も薄くて青く人形のように綺麗な女の人、それから同じく白くて長い髪を結い上げた……男の人?顔は中性的だけど、声が深い。慈しみさえ感じる良い声で、瞳はグレーだ。最後に私が聞き取れる言語を話している人は青い短髪でグレーの瞳の騎士風の服を着ている。揃いも揃って美形ばかりの三人はとても驚いている様だった。
誰?
兄様とは違う人種に見える。
でも、一人は私の知っている異世界語を話している。という事は兄様達のいるあの場所から遠くは無い?
「あの?ここは森の近くですか?」
「しかも、こっちの言葉話しやがる。っつー事は異世界からお出ましじゃねーな。残念」
久しぶりの異世界語は多分片言だった筈。けれど、騎士にはちゃんと通じたらしい。
「《……異世界人では無く、原石の、しかも男性》。アッシャーのライバル、ですね」
「冗談だろ。相手、子供だぞ?」
「《まさか、そんな。……また、マナの貯留をせねばならないのか》」
無表情ながら何故か少し強張った様子を見せる白い女性と、それを支える様な労わる様子の白い男の人。こっちの男の人も私の知る言語も話せるらしい。
「《陛下、結果の精査は後程に。今はこの者に加護をお与えください》」
「《うむ、仕方あるまい》」
音もなく彼女は近づいてきた。作り物の様な美しすぎる顔に呆気に取られている間に、彼女は私に何かをした。
「この大地に生まれし男子よ。そなたに、勇者の加護を与える」
「は?」
言葉が理解できた瞬間のはずなのに、私は意味が分からなかった。
――――――――――――――――――――――――――
初めてこちらに来たのは十歳の時。親友と遊んでいると、突然彼女は「呼ばれた」と呟いて神社の方に駆けて行った。私は鬼ごっこか何かの遊びだと思って追いかけ行き、彼女が通った穴に続くように飛び込んだ。
次に気がついた時には、異世界に入り込んでいた。人は無く、森のような林のような場所で、時刻はおそらく夜半。周りの木々も、時間も違う。真夏だったはずなのに凍える程寒くて、ここが私の知る世界では無い事を直感的に知った。
そうして途方に暮れていた私の目の前に、兄様は現れた。
「《子供、どこから来た?こんな場所で一人は危険だ》」
黒々とした髪で皮膚もオークル。けれど燃える様な瞳は赤く、一瞬獣かと思った。理解できない言葉を話す彼は、けれど優しげで、真っ赤な月明かりの下、私はその瞳に安心感を覚えた。
「あの、ここはどこですか?」
「《異世界人か、これはまた厄介な……。立てるか?そうだ、付いてこい。獣達の餌になりたく無ければな》」
抱き起こされて、そのまま私は兄様に拾われた。兄様は昔、妹さんを亡くしていて、私の事をほっとけなかったと後から聞いた。兄様の妹として過ごし、三年かけて言葉と魔法や生活の仕方を覚えて、それから十三歳で私は元の世界に帰った。
「お前のいた世界は平和だ。だからあちらでお前は幸せになれ」
そう言って帰されたけど、ずっと私を帰す方法を探してくれていたはずの兄様は辛そうだった。表情に乏しい彼の、隠しきれない程の表情
兄様の幸せは?と問える程、私は大人では無かった。
「……という訳で、私は兄様を探しています」
「ちょっと待て」
聖なる国の女王クラリス陛下が部屋に戻られた後、私は白魔道士リオネット様と騎士アッサム様に、先ほど召喚された場所とは違う部屋に連れてこられた。そこで、リオネット様達に自己紹介を受けたので、私もこちらの事情を話したのだ。
アッサム様が私の額に指をぴしっと突き立てた。
「痛いです」
「痛いじゃねぇ。お前、原石じゃねぇの?異世界人なのか?」
「原石って何ですか?」
「原石とは我が国で平民にも関わらず、貴族並みに魔力を操る者の事です。原石と呼ばれ、普通は成人前までに貴族の家の養子にされます」
「あ、じゃあ、原石じゃないです」
ぐりぐりぐり~っとアッサム様は私のおでこを押した。
「『あ、じゃあ』じゃねぇよ。召喚されたのが原石や帰還人は勇者か白魔道士にしかなれねぇ。リオンが白魔道士だから、お前は勇者が割り振られたんだよ。だが、異世界人なら勇者か黒魔導士か一応選べたんだぞ?お前、その意味分かるか?」
「いえ、全く」
リオネット様がアッサム様の指を退けてくれたので、私はおでこをさする。血が出たり凹んだりはしてないようだ。
「パーティーの勇者ポジションを俺と争うって事だ。その!細い腕!ぜってぇ、剣なんか握った事ねぇだろ?」
「握った事どころか、触った事もありません」
アッサム様は床に座り込んだ。はて?
「アッシャーはあなたの剣の指導をする役割が与えられていますが、同時にパーティーにおいては勇者枠を競うライバル同士です。あなたを強くしつつ、自分は勝たなくてはならない。あなたが強くならなければ、手を抜いたと強く批判される立場なのですよ」
「ライバルになんかなるかよ。勇者の加護ったって成長が早まる程度だ。明らかに基礎能力低いのに、俺に追いつくって何年かけるつもりだ。マジ無駄すぎ」
パーティー?まさかお祝いの会とかのアレではないだろうし、となると部隊の方?
「そもそも、パーティーに入りたいなんて……」
「お兄様をお探しなのでしょう?衣食住賄えて、遠くまで旅をされるならパーティーに参加されるのはおすすめですよ?ただ……」
言葉を遮ったリオネット様もなんだか難しい表情だ。
「男で剣に触った事ねぇって異世界マジ意味分かんねぇ」
「ところで私は女です。クラリス陛下も男子とか仰ってましたけど……」
ピタリ、と眼前の二人はフリーズした。アッサム様は点けようとしていたタバコも落としている。危ない。
「やはり、先程、あなたご自身の事を妹だとおっしゃっていたのは聞き違いでは無かったのです、ね」
先に解凍したリオネット様がポツリとそう言った。
「成功、した、の?」
霧はゆっくりと焦らすように晴れ、その隙間から私の目に飛び込んできたのは異世界特有の歪な、魔力を吸って重力を無視した木々だった。
「やった!」
これはもう異世界に間違いない。こちらに戻るまで苦節三年、ようやく兄様達に会える。……三年か、意外と短いな。
「《成功したようだな》」
「《おめでとうございます、女王陛下》」
「さて、我らが主人と御対面といこうじゃねーか」
晴れた霧の間から、人の声がする。女の人は一人、それから男の人は二人?私が以前こちらで学んだ文法では無い言語も聞こえる。
「おい?子供のようだが、女には見えないぞ。どーいうこった?」
「《此度の術に綻びは感じられぬが?》」
「《……男、ですね。まさか二度も続くとは》」
霧が晴れきった先には人が三人。白い肌に白くて長い髪、目の色素も薄くて青く人形のように綺麗な女の人、それから同じく白くて長い髪を結い上げた……男の人?顔は中性的だけど、声が深い。慈しみさえ感じる良い声で、瞳はグレーだ。最後に私が聞き取れる言語を話している人は青い短髪でグレーの瞳の騎士風の服を着ている。揃いも揃って美形ばかりの三人はとても驚いている様だった。
誰?
兄様とは違う人種に見える。
でも、一人は私の知っている異世界語を話している。という事は兄様達のいるあの場所から遠くは無い?
「あの?ここは森の近くですか?」
「しかも、こっちの言葉話しやがる。っつー事は異世界からお出ましじゃねーな。残念」
久しぶりの異世界語は多分片言だった筈。けれど、騎士にはちゃんと通じたらしい。
「《……異世界人では無く、原石の、しかも男性》。アッシャーのライバル、ですね」
「冗談だろ。相手、子供だぞ?」
「《まさか、そんな。……また、マナの貯留をせねばならないのか》」
無表情ながら何故か少し強張った様子を見せる白い女性と、それを支える様な労わる様子の白い男の人。こっちの男の人も私の知る言語も話せるらしい。
「《陛下、結果の精査は後程に。今はこの者に加護をお与えください》」
「《うむ、仕方あるまい》」
音もなく彼女は近づいてきた。作り物の様な美しすぎる顔に呆気に取られている間に、彼女は私に何かをした。
「この大地に生まれし男子よ。そなたに、勇者の加護を与える」
「は?」
言葉が理解できた瞬間のはずなのに、私は意味が分からなかった。
――――――――――――――――――――――――――
初めてこちらに来たのは十歳の時。親友と遊んでいると、突然彼女は「呼ばれた」と呟いて神社の方に駆けて行った。私は鬼ごっこか何かの遊びだと思って追いかけ行き、彼女が通った穴に続くように飛び込んだ。
次に気がついた時には、異世界に入り込んでいた。人は無く、森のような林のような場所で、時刻はおそらく夜半。周りの木々も、時間も違う。真夏だったはずなのに凍える程寒くて、ここが私の知る世界では無い事を直感的に知った。
そうして途方に暮れていた私の目の前に、兄様は現れた。
「《子供、どこから来た?こんな場所で一人は危険だ》」
黒々とした髪で皮膚もオークル。けれど燃える様な瞳は赤く、一瞬獣かと思った。理解できない言葉を話す彼は、けれど優しげで、真っ赤な月明かりの下、私はその瞳に安心感を覚えた。
「あの、ここはどこですか?」
「《異世界人か、これはまた厄介な……。立てるか?そうだ、付いてこい。獣達の餌になりたく無ければな》」
抱き起こされて、そのまま私は兄様に拾われた。兄様は昔、妹さんを亡くしていて、私の事をほっとけなかったと後から聞いた。兄様の妹として過ごし、三年かけて言葉と魔法や生活の仕方を覚えて、それから十三歳で私は元の世界に帰った。
「お前のいた世界は平和だ。だからあちらでお前は幸せになれ」
そう言って帰されたけど、ずっと私を帰す方法を探してくれていたはずの兄様は辛そうだった。表情に乏しい彼の、隠しきれない程の表情
兄様の幸せは?と問える程、私は大人では無かった。
「……という訳で、私は兄様を探しています」
「ちょっと待て」
聖なる国の女王クラリス陛下が部屋に戻られた後、私は白魔道士リオネット様と騎士アッサム様に、先ほど召喚された場所とは違う部屋に連れてこられた。そこで、リオネット様達に自己紹介を受けたので、私もこちらの事情を話したのだ。
アッサム様が私の額に指をぴしっと突き立てた。
「痛いです」
「痛いじゃねぇ。お前、原石じゃねぇの?異世界人なのか?」
「原石って何ですか?」
「原石とは我が国で平民にも関わらず、貴族並みに魔力を操る者の事です。原石と呼ばれ、普通は成人前までに貴族の家の養子にされます」
「あ、じゃあ、原石じゃないです」
ぐりぐりぐり~っとアッサム様は私のおでこを押した。
「『あ、じゃあ』じゃねぇよ。召喚されたのが原石や帰還人は勇者か白魔道士にしかなれねぇ。リオンが白魔道士だから、お前は勇者が割り振られたんだよ。だが、異世界人なら勇者か黒魔導士か一応選べたんだぞ?お前、その意味分かるか?」
「いえ、全く」
リオネット様がアッサム様の指を退けてくれたので、私はおでこをさする。血が出たり凹んだりはしてないようだ。
「パーティーの勇者ポジションを俺と争うって事だ。その!細い腕!ぜってぇ、剣なんか握った事ねぇだろ?」
「握った事どころか、触った事もありません」
アッサム様は床に座り込んだ。はて?
「アッシャーはあなたの剣の指導をする役割が与えられていますが、同時にパーティーにおいては勇者枠を競うライバル同士です。あなたを強くしつつ、自分は勝たなくてはならない。あなたが強くならなければ、手を抜いたと強く批判される立場なのですよ」
「ライバルになんかなるかよ。勇者の加護ったって成長が早まる程度だ。明らかに基礎能力低いのに、俺に追いつくって何年かけるつもりだ。マジ無駄すぎ」
パーティー?まさかお祝いの会とかのアレではないだろうし、となると部隊の方?
「そもそも、パーティーに入りたいなんて……」
「お兄様をお探しなのでしょう?衣食住賄えて、遠くまで旅をされるならパーティーに参加されるのはおすすめですよ?ただ……」
言葉を遮ったリオネット様もなんだか難しい表情だ。
「男で剣に触った事ねぇって異世界マジ意味分かんねぇ」
「ところで私は女です。クラリス陛下も男子とか仰ってましたけど……」
ピタリ、と眼前の二人はフリーズした。アッサム様は点けようとしていたタバコも落としている。危ない。
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