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71-2 ハイソフィー!
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ジャムは横に置いておいて、装飾品の中からお目当ての物を探す。あった、黒色の人毛付け毛。部分ウイッグとして使うものだ。先ずは石鹸水で良く洗う。こちらの世界には黒髪の人はいないから、濃い色の人毛に色が足してある。染髪技術も良く無いから洗えば取れるのさ。ナイスな鳶色だ。これを乾かして、メイドさん達が掃除の時に使う三角巾に付ける。自分の髪をネットでまとめて三角巾を装着すれば、、、うん、私の事をよっぽど知ってる人以外はえいこだとは分からない。顔が平均で良かった。
ディナさんからネットや三角巾と一緒にもらってきてもらった掃除用のメイド服を着たら、どこからどう見ても清掃担当のメイドだ。清掃担当のメイドはここでは下っ端だから、普通のメイドさんとすれ違う時は顔を伏せて道を譲らそうで、私からしたら有難い。
私が会いたい人は採用されたての下っ端だ。通常は清掃道具保守管理をしているらしい。この時間はいつも一人らしいので、夕食の準備に入る前に急いだ。
「こんにちは、ソフィーさん。」
清掃道具の倉庫の前は道具達を洗うための水場がある。そして、そう言う場所だからあまり人の目につかないようになっていた。
「こんにちは、お疲れ様です。何か足りないものがありましたか?」
濃緑色の髪を後ろに束ねて、メイド服の上に作業用の防水エプロンを被ったソフィーさんは不思議そうに私を見た。ソバカスが可愛くて、年齢は多分えいこより若い。
「お仕事中にすみません。私えいこです。」
チャチャっと三角巾とネットを外して見せる。彼女の顔色が変わったのを確認して、また再変装。誰か来た時に誤魔化さないといけないし。
あの、とか、私、とかしどろもどろしている彼女に慌てて声をかける。
「違います。違います。叱りに来たとか、罰しに来たとかじゃ無いんです。髪が勿体なくて!」
ソフィーさんの目に浮かんでいた涙が引っ込んだ。
「髪、ですか?」
いけない、本音が。これだとただの変態だ。確かに、せっかく綺麗な髪なのに、私が帰るまで連日切ってると流石に短くなったりすき過ぎたりしてくるから勿体なく思ってましたけども。
「いえ、そうじゃなくて、誤解があるみたいなので弁解に来たんです。」
ちょっと怪訝な顔をされてしまったけれど、コホンと咳払いして取り繕う。
「最近キュラス様の側に置いていただいているのは、我が主人からの命令があるからです。もちろん、キュラス様もご存知の上ですし、公妾と仰ったのは私の事を側に置く時に冗談で仰っただけなのです。それに私には恋人がおります。」
ソフィーさんは明らかに驚いた表情になった。それから、
「そんな。」
と呟いて困ったように考え込んでしまった。
「もし、お話が本当でしたら、私の先輩にもご説明いただけますか?その、私の事は仰らずに。」
やっぱり、この子はやらされてただけか。城に入ったばっかりなメイドが怯えながらも嫌がらせしてくるなんて、あんまり考えられない。王子の熱狂的ファンならもっと堂々とやりそうだし。
「うーん。多分その先輩さんかその近しい人は、そのやり取りを直に見てらっしゃったハズなんですよね。なのに貴女に色々させてるのを見ると、私が言っても納得されないんじゃないかな。」
「えと、先輩方は私に命令した訳じゃなくて、ただ、その。」
「王家のメイドならこのくらい自分で気がついて、身の程をお知らせするのも役目だ。みたいな事言われたの?」
「…はい。」
あんたがやれ!とは、言い返せない立場よね。
「そっかぁ。うん。じゃあ、それでいいよ。」
「え?」
「警備兵も増えたみたいだし、もう水も降らせないと思うのよね。食事や手紙だけならあんまり困ってないから大丈夫。ただ、あんまり辛そうだったのが気になったから、気にしなくて大丈夫だよって言いたかったの。」
「中庭の事もご存知だったんですか?」
「そうそう。バケツが当たらないようにわざわざ弾いてから逃げたでしょ。そんな事しなかったら見つからなかったのに。お陰でケガしなかったよ。ありがとう。」
うぅ。と言って再び涙が溢れて来た。ヤバイ。
「嫌味じゃないよ!水も綺麗な水だったし、なんか悪意なさそうだったから、本当に気にしてないの。その先輩とやらも、いきなり悪い虫がキュラス様に着いたから冷静じゃ無いだけだと思ってるし。」
残念ながら、ソフィーさんの涙は止まらなかった。
泣かせてごめんなさい。と背中をトントンしてやり過ごす。ディナさんの時もだけど、私女の子に泣かれるの弱いわ。
けれど時間がないので言いたい事を伝えてしまう。
「…あのね、スープに髪を入れるのはやめて欲しいの。せっかく綺麗な髪なのに短くなったり、ガタガタになったら勿体ないでしょ?虫とかゴミとか、、、出来たら洗ったまち針とかカミソリとかならスープ飲めるんだけど。」
「そ、そんなの、もし誤って口に入れたらっ。」
「うん、だから今入ってるかもって分かったから大丈夫。」
にぱっと笑って安心させる。
「それから、あんまり無いと思うけど公式な場やキュラス様のいる時は入れないでね。一応私、キュラス様の客分になるの。客人を使用人が軽んじる事はキュラスにとってマイナスだから、多分罰せられると思う。」
コクコク頷く彼女は素直で可愛い。私にもっと力があれば、したくも無い意地悪行為をさせたりはしないのだけれど、これで勘弁してもらう。
まだ、平気とは言い難い彼女を置いていくのは忍びないけど、そろそろ戻った方がいい。
「困ったら、手紙部屋に差し込んで?そしたら、ソフィーさんに会いにくるから。」
またね。と言いながら、頭をポンポンとしてから部屋に戻った。
夕食のスープには縫針が入ってました。最初にスープの中を確認してから縫針が見えない程度まで飲んでみた。美味しい。
いつも食事を運んでもらう時に彼女の方をジロジロ見てなかったから、今日もあまりガン見はでき無いけれど、目が赤くなってなくて良かった。
というか、新人の掃除担当が私の配膳担当っていうのも、その先輩さんにしたら嫌がらせの一種だったんだろう。素直な良い子だったから結果オーライだわ。
ディナさんからネットや三角巾と一緒にもらってきてもらった掃除用のメイド服を着たら、どこからどう見ても清掃担当のメイドだ。清掃担当のメイドはここでは下っ端だから、普通のメイドさんとすれ違う時は顔を伏せて道を譲らそうで、私からしたら有難い。
私が会いたい人は採用されたての下っ端だ。通常は清掃道具保守管理をしているらしい。この時間はいつも一人らしいので、夕食の準備に入る前に急いだ。
「こんにちは、ソフィーさん。」
清掃道具の倉庫の前は道具達を洗うための水場がある。そして、そう言う場所だからあまり人の目につかないようになっていた。
「こんにちは、お疲れ様です。何か足りないものがありましたか?」
濃緑色の髪を後ろに束ねて、メイド服の上に作業用の防水エプロンを被ったソフィーさんは不思議そうに私を見た。ソバカスが可愛くて、年齢は多分えいこより若い。
「お仕事中にすみません。私えいこです。」
チャチャっと三角巾とネットを外して見せる。彼女の顔色が変わったのを確認して、また再変装。誰か来た時に誤魔化さないといけないし。
あの、とか、私、とかしどろもどろしている彼女に慌てて声をかける。
「違います。違います。叱りに来たとか、罰しに来たとかじゃ無いんです。髪が勿体なくて!」
ソフィーさんの目に浮かんでいた涙が引っ込んだ。
「髪、ですか?」
いけない、本音が。これだとただの変態だ。確かに、せっかく綺麗な髪なのに、私が帰るまで連日切ってると流石に短くなったりすき過ぎたりしてくるから勿体なく思ってましたけども。
「いえ、そうじゃなくて、誤解があるみたいなので弁解に来たんです。」
ちょっと怪訝な顔をされてしまったけれど、コホンと咳払いして取り繕う。
「最近キュラス様の側に置いていただいているのは、我が主人からの命令があるからです。もちろん、キュラス様もご存知の上ですし、公妾と仰ったのは私の事を側に置く時に冗談で仰っただけなのです。それに私には恋人がおります。」
ソフィーさんは明らかに驚いた表情になった。それから、
「そんな。」
と呟いて困ったように考え込んでしまった。
「もし、お話が本当でしたら、私の先輩にもご説明いただけますか?その、私の事は仰らずに。」
やっぱり、この子はやらされてただけか。城に入ったばっかりなメイドが怯えながらも嫌がらせしてくるなんて、あんまり考えられない。王子の熱狂的ファンならもっと堂々とやりそうだし。
「うーん。多分その先輩さんかその近しい人は、そのやり取りを直に見てらっしゃったハズなんですよね。なのに貴女に色々させてるのを見ると、私が言っても納得されないんじゃないかな。」
「えと、先輩方は私に命令した訳じゃなくて、ただ、その。」
「王家のメイドならこのくらい自分で気がついて、身の程をお知らせするのも役目だ。みたいな事言われたの?」
「…はい。」
あんたがやれ!とは、言い返せない立場よね。
「そっかぁ。うん。じゃあ、それでいいよ。」
「え?」
「警備兵も増えたみたいだし、もう水も降らせないと思うのよね。食事や手紙だけならあんまり困ってないから大丈夫。ただ、あんまり辛そうだったのが気になったから、気にしなくて大丈夫だよって言いたかったの。」
「中庭の事もご存知だったんですか?」
「そうそう。バケツが当たらないようにわざわざ弾いてから逃げたでしょ。そんな事しなかったら見つからなかったのに。お陰でケガしなかったよ。ありがとう。」
うぅ。と言って再び涙が溢れて来た。ヤバイ。
「嫌味じゃないよ!水も綺麗な水だったし、なんか悪意なさそうだったから、本当に気にしてないの。その先輩とやらも、いきなり悪い虫がキュラス様に着いたから冷静じゃ無いだけだと思ってるし。」
残念ながら、ソフィーさんの涙は止まらなかった。
泣かせてごめんなさい。と背中をトントンしてやり過ごす。ディナさんの時もだけど、私女の子に泣かれるの弱いわ。
けれど時間がないので言いたい事を伝えてしまう。
「…あのね、スープに髪を入れるのはやめて欲しいの。せっかく綺麗な髪なのに短くなったり、ガタガタになったら勿体ないでしょ?虫とかゴミとか、、、出来たら洗ったまち針とかカミソリとかならスープ飲めるんだけど。」
「そ、そんなの、もし誤って口に入れたらっ。」
「うん、だから今入ってるかもって分かったから大丈夫。」
にぱっと笑って安心させる。
「それから、あんまり無いと思うけど公式な場やキュラス様のいる時は入れないでね。一応私、キュラス様の客分になるの。客人を使用人が軽んじる事はキュラスにとってマイナスだから、多分罰せられると思う。」
コクコク頷く彼女は素直で可愛い。私にもっと力があれば、したくも無い意地悪行為をさせたりはしないのだけれど、これで勘弁してもらう。
まだ、平気とは言い難い彼女を置いていくのは忍びないけど、そろそろ戻った方がいい。
「困ったら、手紙部屋に差し込んで?そしたら、ソフィーさんに会いにくるから。」
またね。と言いながら、頭をポンポンとしてから部屋に戻った。
夕食のスープには縫針が入ってました。最初にスープの中を確認してから縫針が見えない程度まで飲んでみた。美味しい。
いつも食事を運んでもらう時に彼女の方をジロジロ見てなかったから、今日もあまりガン見はでき無いけれど、目が赤くなってなくて良かった。
というか、新人の掃除担当が私の配膳担当っていうのも、その先輩さんにしたら嫌がらせの一種だったんだろう。素直な良い子だったから結果オーライだわ。
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