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46-1 披露宴の始まり
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翌朝起きると分厚い書類が届いていた。全てに目を通すのかと一瞬うんざりしたが、最初の5ページに概要がまとめられていた。『ただの来訪者』についてと、先日光の国の土地で聖力に異常が記録された件についてである。
その書類のほとんどが『ただの来訪者』とされる女の検査記録であり、確かに記録部分は斜め読みしても『ただの来訪者』であるとしか読めないものであった。
そして、光の国で異常値が記録されたのは闇の国の王がバーストする事故があったためであり、それを助けたのが魔女であるとされていた。
バースト中の王に近づいても平気な程の器の魔女。本当ならば世界の寿命はかなり伸びるのではないかと思う。
身動きが制限されていないので、念のため裏を取るよう部下に指示を出す。初めての土地なので、あまり成果は期待していない。
何気なく記録部分の最後のページを見たら、『以上により、来訪者は一般魔人として生活を希望しているため、此度の披露宴には出席しない旨御理解願いたい。」
と書いてあった。気づいて良かった。すぐにこの来訪者と直接会いたいと取り次いでもらう。カナトが言っていた少女は時期的にこの『ただの来訪者』であるはずだ。女神か顕現したとは正直思えないが、確認せずは帰れない。
のらりくらりと躱されるかと思ったが、すぐに宰相殿がやって来た。フットワークの軽さに、まず驚いた。
「大変申し訳ありませんが、彼女は魔人としての力も弱く、そのような場も遠慮したいと申していますので。」
特に申し訳なさそうという風でもなく断られる。
「彼女が現れたのを見た者がこちらにいるのです。ご挨拶するよう我が王からも承っておりますゆえ。」
ふむ、と宰相殿は考えているようだ。ここで敢えて隠すなら、彼女はただの来訪者ではない。
「…実は彼女はあちらの世界では魔女様の侍女をしていたそうです。」
いきなり何の話か先が読めない。
「魔女様に我が陛下は大きな恩がございます。また、この度の魔女様は、なんというか、その、大変気難しい方でありまして。」
「魔女様が侍女を人目に触れたくないと?」
「正直に申しますと、彼女を巻き込まずただの魔女の侍女として遇するなら魔女をやっても良いという言葉を、なんとか引き出せた次第でございます。」
言葉が出ない。この世界で魔女や聖女にならない事を脅しに使う者がいるなんて信じられない。そもそも、話ぶりからすると魔女としてのやる気が無さそうだ。
「ですので申し訳ありませんが、私どもが彼女と光の国の方々との場を設ける事は致しかねます。」
何卒ご理解下さいと礼を執られた。しかし、やはり悪怯れる様子はない。『私ども』が『致しかねる』のだ。つまり自分で魔女に頼めということだと理解する。
陽が傾き王城への迎えの馬車が来る。
着いた王城は絢爛豪華というより重厚で趣があり、要塞を直して城として使っているような代物であった。
内装は歴史を感じさせながら機能美に優れたもので好ましい。
「キュラス様!ようお越しやした!この国はどうでっしゃろ?なかなか、オモロないですか?」
もてなし役にサタナが付いた。
「確かに、面白いね。」
既にいる他の招待客をサタナが説明するが、無難に自国の顔見知りとだけ挨拶する。基本的には上の者からしか声はかけるものではないが、宴が始まれば主役には挨拶に行っても良い。今回は主役が魔女で、主賓が自分となる。闇の国の物に声をかけるとしても魔女への挨拶が済んだ後だ。
定刻となった。しかし魔王と魔女が現れる気配が無い。この国は時間にルーズなのかと思ったが、ザワザワしているのはむしろ闇の国の者達だった。
しばらくすると、何故か照明がやや落とされた。宰相から案内があり、入口を見て、目を疑う。王が魔女をエスコートして入場したのだが、まず熊がちゃんと王になっている。髪型とヒゲが整えられ別人のようだ。そして、その横には、、、
黒のドレスに黒のトーク帽にベール、辛うじて直接見える首や顎は雪のように白く唇は真紅に染められている。目は伏せがちで表情は無い。思わず鳥肌が立つ容貌だが、闇の国の者達は平然としている。
嫌悪感が隠しきれてない武官が堪らずサタナに小声で聞く。
「アレはこちらの正装か?」
マナー違反を後で叱らなければならないが気持ちはわかる。
「ちゃいますて。魔女様の御趣味、ですわ。」
答えを聞いてゾッとする。アレをそのうち光の国でももてなさなくてはならないのか。そして、それを闇の国の者が受け入れている。受け入れざるを得ないのか。
魔王達はそのまま一段高くなっている舞台に立ったが、なんと舞台端に椅子が用意され、魔女は当然のように座った。一応座る直前に「失礼する。」と一言あったが、一切の抑揚は無かった。闇の国の者もチラチラと不安げな様子を見せている。
そして、闇の王の挨拶の間すら座っていた。
そして自身の挨拶では「シーマだ。今日はよろしく頼む。」と短く言ったきりであった。
光の国には過去の聖女のみならず、魔女の記録もある。此度の魔女は別格だ。もちろん悪い意味で。
しかし、これで良心の呵責なく魔女を手玉に取ることが出来るのだから悪いばかりでも無い。あれの侍女ならば、侍女も同じく。
そしてパーティーは始まった。
その書類のほとんどが『ただの来訪者』とされる女の検査記録であり、確かに記録部分は斜め読みしても『ただの来訪者』であるとしか読めないものであった。
そして、光の国で異常値が記録されたのは闇の国の王がバーストする事故があったためであり、それを助けたのが魔女であるとされていた。
バースト中の王に近づいても平気な程の器の魔女。本当ならば世界の寿命はかなり伸びるのではないかと思う。
身動きが制限されていないので、念のため裏を取るよう部下に指示を出す。初めての土地なので、あまり成果は期待していない。
何気なく記録部分の最後のページを見たら、『以上により、来訪者は一般魔人として生活を希望しているため、此度の披露宴には出席しない旨御理解願いたい。」
と書いてあった。気づいて良かった。すぐにこの来訪者と直接会いたいと取り次いでもらう。カナトが言っていた少女は時期的にこの『ただの来訪者』であるはずだ。女神か顕現したとは正直思えないが、確認せずは帰れない。
のらりくらりと躱されるかと思ったが、すぐに宰相殿がやって来た。フットワークの軽さに、まず驚いた。
「大変申し訳ありませんが、彼女は魔人としての力も弱く、そのような場も遠慮したいと申していますので。」
特に申し訳なさそうという風でもなく断られる。
「彼女が現れたのを見た者がこちらにいるのです。ご挨拶するよう我が王からも承っておりますゆえ。」
ふむ、と宰相殿は考えているようだ。ここで敢えて隠すなら、彼女はただの来訪者ではない。
「…実は彼女はあちらの世界では魔女様の侍女をしていたそうです。」
いきなり何の話か先が読めない。
「魔女様に我が陛下は大きな恩がございます。また、この度の魔女様は、なんというか、その、大変気難しい方でありまして。」
「魔女様が侍女を人目に触れたくないと?」
「正直に申しますと、彼女を巻き込まずただの魔女の侍女として遇するなら魔女をやっても良いという言葉を、なんとか引き出せた次第でございます。」
言葉が出ない。この世界で魔女や聖女にならない事を脅しに使う者がいるなんて信じられない。そもそも、話ぶりからすると魔女としてのやる気が無さそうだ。
「ですので申し訳ありませんが、私どもが彼女と光の国の方々との場を設ける事は致しかねます。」
何卒ご理解下さいと礼を執られた。しかし、やはり悪怯れる様子はない。『私ども』が『致しかねる』のだ。つまり自分で魔女に頼めということだと理解する。
陽が傾き王城への迎えの馬車が来る。
着いた王城は絢爛豪華というより重厚で趣があり、要塞を直して城として使っているような代物であった。
内装は歴史を感じさせながら機能美に優れたもので好ましい。
「キュラス様!ようお越しやした!この国はどうでっしゃろ?なかなか、オモロないですか?」
もてなし役にサタナが付いた。
「確かに、面白いね。」
既にいる他の招待客をサタナが説明するが、無難に自国の顔見知りとだけ挨拶する。基本的には上の者からしか声はかけるものではないが、宴が始まれば主役には挨拶に行っても良い。今回は主役が魔女で、主賓が自分となる。闇の国の物に声をかけるとしても魔女への挨拶が済んだ後だ。
定刻となった。しかし魔王と魔女が現れる気配が無い。この国は時間にルーズなのかと思ったが、ザワザワしているのはむしろ闇の国の者達だった。
しばらくすると、何故か照明がやや落とされた。宰相から案内があり、入口を見て、目を疑う。王が魔女をエスコートして入場したのだが、まず熊がちゃんと王になっている。髪型とヒゲが整えられ別人のようだ。そして、その横には、、、
黒のドレスに黒のトーク帽にベール、辛うじて直接見える首や顎は雪のように白く唇は真紅に染められている。目は伏せがちで表情は無い。思わず鳥肌が立つ容貌だが、闇の国の者達は平然としている。
嫌悪感が隠しきれてない武官が堪らずサタナに小声で聞く。
「アレはこちらの正装か?」
マナー違反を後で叱らなければならないが気持ちはわかる。
「ちゃいますて。魔女様の御趣味、ですわ。」
答えを聞いてゾッとする。アレをそのうち光の国でももてなさなくてはならないのか。そして、それを闇の国の者が受け入れている。受け入れざるを得ないのか。
魔王達はそのまま一段高くなっている舞台に立ったが、なんと舞台端に椅子が用意され、魔女は当然のように座った。一応座る直前に「失礼する。」と一言あったが、一切の抑揚は無かった。闇の国の者もチラチラと不安げな様子を見せている。
そして、闇の王の挨拶の間すら座っていた。
そして自身の挨拶では「シーマだ。今日はよろしく頼む。」と短く言ったきりであった。
光の国には過去の聖女のみならず、魔女の記録もある。此度の魔女は別格だ。もちろん悪い意味で。
しかし、これで良心の呵責なく魔女を手玉に取ることが出来るのだから悪いばかりでも無い。あれの侍女ならば、侍女も同じく。
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