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31 マリスのマリちゃん
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コンコンと扉をたたく音がして、目を覚ました。
寝ちゃってたらしい。
「えいこサン、マリちゃんを連れてきました。部屋に入ってもかまいませんか?」
「はい。どうぞ。」
ウランさんがマリちゃんを肩に乗せて入ってきた。
「ご気分はいかがですか?ああ、顔色は大丈夫そうですね。」
ウランさんはベッド近くの椅子に腰掛け、マリちゃんを手渡してくれた。
マリちゃんは肩まで登って頬ずりをしてくれる。
「くすぐったいよ。お迎え行けなくてごめんね。」
『ママ大好き。お風邪ひいたの?ウランさんとお話し済んだら遊んでね。』
そう言うと、肩を滑り降りて、サイドテーブルの上に置いてあるおもちゃで遊び始めた。
なんだかいつもより聞き分けが良くて、変だ。
「こんな格好ですみません。え、と、運んでくださってありがとうございました。もう、大丈夫です。」
座ったまま頭をさげる。
「いえ、あの様な症状を見たことがなかったので驚きましたが、あの貧血というのは急になるものなのですか?」
「そうですね、疲れてたり、ショックな事があると稀に。無意識に少し疲れがたまっていたのかも知れません。次からは気をつけます。」
「気をつけて回避できるならそうして頂きたいものです。」
ですよね。
「まぁ、こちらも魔力が無いと体というものがこれ程柔になると思い至らなかったので、」
一旦切って、優しい瞳でこちらを見る。
「次からは気をつけます。」
なんだろう。なんかおかしい。ついでに薔薇の刻印もなんだかムズムズする。
「…マリちゃんの検査結果ですが、大変素晴らしいことが数値で現れました。魔力を使って、あんなに流暢に発語するマリスなんておりませんから、当然と言えば当然ですね。指導プログラムが欲しいと言われました。」
検査結果の紙束をもらう。うん、グラフが色々振り切れてるな。
「マリスは普通子供並みの知力を持ちますが、マリちゃんは平均よりやや下の成人並みの知力があります。性格も穏やかで向上心があるため、今後も知力が伸びる可能性もあるそうです。」
二枚目をめくる。やっぱりグラフは振り切れている。
「そして、不思議な事に魔力のブレーキ力が現在魔人並みです。」
「え?」
三枚目をめくると魔力の測定値が書いてある。普通の平均は人間より少ない値だ。
「ブレーキ力がこれだけ高いと、器も大きいと推測されます。研究にマリスを使う意味がなくなるので、原因を突き止めないと。」
ウランさんはほとんど独り言の様に言った。
「心当たりはあります。」
「心当たりですか?」
「はい、マリちゃんが小さいうちは、私マリちゃんを抱いたまま測定のお手伝いをしていました。結晶との距離が30センチあれば力を取り込まずに済みますが、それでは成長期のマリスの器の大きさに影響を与える距離ではあったのかなって。」
「なるほど。それは、一理ありますね。成長期に器も大きくなる可能性は私も調査しています。」
ウランさんはふむ、と考え込んだ。
薔薇の刻印のムズムズが少し収まる。
「ところで、この結果報告書、なんで後半が無いんですか?」
ムズムズがまた増加。
「後半ですか?」
「体力測定や健康診断があるはずです。」
ムズムズムズムズ。
ウランさんは諦めた様にため息をついた。
「小手先の誤魔化しは効きませんね。せめて明日お話ししたかった。」
「私の体調はもう大丈夫ですよ。」
「えいこサン、こちらへ。」
ウランさんが私を抱き寄せる。
「マリスはα種という種類のものが大半でその寿命は15年ほどです。しかし、マリちゃんはβ種でした。」
そう言って、私に続きの紙を見せる。
『両親がαβ種である場合は稀に純β種が生まれるが、純β種の平均寿命は10ヶ月である。』
10ヶ月。
「最高記録は1年だそうです。」
薔薇の刻印がムズムズを通り越してチリチリと痛む。
「…何か病気が発症したりするんですか?」
「早老のようです。半年ほどから徐々に身体が弱っていくそうです。」
元気なのはもう半年もない。
チリチリチリチリ。
「マリちゃんには?」
「知らせていません。」
マリちゃんを見ると、無邪気に遊んでいる。
私達の会話が聞こえているはずなのに。
「…マリちゃんは、どこかで聞いたの?」
『そのお手紙見ちゃった。』
「そっか、おいで。」
ウランさんが目を見開く。
「まさか、字まで?そんな。」
マリちゃんは優秀な生徒でもある。
マリちゃんを撫でながら、反対の手でウランさんを押し留める。
「ウランさん、今日は色々ありがとうございました。」
にぱっと笑う。
「大地くんから聞いてらっしゃるかも知れませんが、しばらく休養のため研究所の方には行けません。ご迷惑をおかけしてすみません。皆様にもよろしくお伝えください。明日の朝食にはちゃんと出ますので。」
ウランさんの方が辛そうな顔だ。刻印が痛い。
「わかりました。今日は失礼します。」
マリちゃんと2人きりになった。
「マリちゃん。ママ、マリちゃんの事大好きだよ。愛してる。」
『僕もママ大好き。僕今は元気だよ?泣かないで。』
「うん。愛してるよ。」
マリちゃんを抱きしめた。
寝ちゃってたらしい。
「えいこサン、マリちゃんを連れてきました。部屋に入ってもかまいませんか?」
「はい。どうぞ。」
ウランさんがマリちゃんを肩に乗せて入ってきた。
「ご気分はいかがですか?ああ、顔色は大丈夫そうですね。」
ウランさんはベッド近くの椅子に腰掛け、マリちゃんを手渡してくれた。
マリちゃんは肩まで登って頬ずりをしてくれる。
「くすぐったいよ。お迎え行けなくてごめんね。」
『ママ大好き。お風邪ひいたの?ウランさんとお話し済んだら遊んでね。』
そう言うと、肩を滑り降りて、サイドテーブルの上に置いてあるおもちゃで遊び始めた。
なんだかいつもより聞き分けが良くて、変だ。
「こんな格好ですみません。え、と、運んでくださってありがとうございました。もう、大丈夫です。」
座ったまま頭をさげる。
「いえ、あの様な症状を見たことがなかったので驚きましたが、あの貧血というのは急になるものなのですか?」
「そうですね、疲れてたり、ショックな事があると稀に。無意識に少し疲れがたまっていたのかも知れません。次からは気をつけます。」
「気をつけて回避できるならそうして頂きたいものです。」
ですよね。
「まぁ、こちらも魔力が無いと体というものがこれ程柔になると思い至らなかったので、」
一旦切って、優しい瞳でこちらを見る。
「次からは気をつけます。」
なんだろう。なんかおかしい。ついでに薔薇の刻印もなんだかムズムズする。
「…マリちゃんの検査結果ですが、大変素晴らしいことが数値で現れました。魔力を使って、あんなに流暢に発語するマリスなんておりませんから、当然と言えば当然ですね。指導プログラムが欲しいと言われました。」
検査結果の紙束をもらう。うん、グラフが色々振り切れてるな。
「マリスは普通子供並みの知力を持ちますが、マリちゃんは平均よりやや下の成人並みの知力があります。性格も穏やかで向上心があるため、今後も知力が伸びる可能性もあるそうです。」
二枚目をめくる。やっぱりグラフは振り切れている。
「そして、不思議な事に魔力のブレーキ力が現在魔人並みです。」
「え?」
三枚目をめくると魔力の測定値が書いてある。普通の平均は人間より少ない値だ。
「ブレーキ力がこれだけ高いと、器も大きいと推測されます。研究にマリスを使う意味がなくなるので、原因を突き止めないと。」
ウランさんはほとんど独り言の様に言った。
「心当たりはあります。」
「心当たりですか?」
「はい、マリちゃんが小さいうちは、私マリちゃんを抱いたまま測定のお手伝いをしていました。結晶との距離が30センチあれば力を取り込まずに済みますが、それでは成長期のマリスの器の大きさに影響を与える距離ではあったのかなって。」
「なるほど。それは、一理ありますね。成長期に器も大きくなる可能性は私も調査しています。」
ウランさんはふむ、と考え込んだ。
薔薇の刻印のムズムズが少し収まる。
「ところで、この結果報告書、なんで後半が無いんですか?」
ムズムズがまた増加。
「後半ですか?」
「体力測定や健康診断があるはずです。」
ムズムズムズムズ。
ウランさんは諦めた様にため息をついた。
「小手先の誤魔化しは効きませんね。せめて明日お話ししたかった。」
「私の体調はもう大丈夫ですよ。」
「えいこサン、こちらへ。」
ウランさんが私を抱き寄せる。
「マリスはα種という種類のものが大半でその寿命は15年ほどです。しかし、マリちゃんはβ種でした。」
そう言って、私に続きの紙を見せる。
『両親がαβ種である場合は稀に純β種が生まれるが、純β種の平均寿命は10ヶ月である。』
10ヶ月。
「最高記録は1年だそうです。」
薔薇の刻印がムズムズを通り越してチリチリと痛む。
「…何か病気が発症したりするんですか?」
「早老のようです。半年ほどから徐々に身体が弱っていくそうです。」
元気なのはもう半年もない。
チリチリチリチリ。
「マリちゃんには?」
「知らせていません。」
マリちゃんを見ると、無邪気に遊んでいる。
私達の会話が聞こえているはずなのに。
「…マリちゃんは、どこかで聞いたの?」
『そのお手紙見ちゃった。』
「そっか、おいで。」
ウランさんが目を見開く。
「まさか、字まで?そんな。」
マリちゃんは優秀な生徒でもある。
マリちゃんを撫でながら、反対の手でウランさんを押し留める。
「ウランさん、今日は色々ありがとうございました。」
にぱっと笑う。
「大地くんから聞いてらっしゃるかも知れませんが、しばらく休養のため研究所の方には行けません。ご迷惑をおかけしてすみません。皆様にもよろしくお伝えください。明日の朝食にはちゃんと出ますので。」
ウランさんの方が辛そうな顔だ。刻印が痛い。
「わかりました。今日は失礼します。」
マリちゃんと2人きりになった。
「マリちゃん。ママ、マリちゃんの事大好きだよ。愛してる。」
『僕もママ大好き。僕今は元気だよ?泣かないで。』
「うん。愛してるよ。」
マリちゃんを抱きしめた。
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