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29 貧血起こしました
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そんなこんなで午前は勉強、午後はお手伝い、時々森で熊とリスと歌を歌って過ごしている。
今日はマリちゃんが成獣となる生後1ヶ月の誕生日。研究に協力するマリス達はこの誕生日に知能検査や健康検査をする。パスした場合、研究協力の同意をとって協力員として採用みたいな流れらしい。
マリちゃんは研究自体の協力はしない予定だけど、幼獣の時から圧倒的な知能の高さが見られたため、飼育員さん達から是非検査させて欲しいとの申し出を受けたのだ。場合によってはあの知育プログラムが取り入れられるみたい。
万感の思いである。マリちゃんが生まれつきかしこい子だっただけかも知れないけど。
マリちゃんを学校に預けてゲートをくぐる。いつも通り、測定場に行くといつも通りでない魔法陣が張ってあった。
中央にマリスが一匹、一瞬死んでるかのように見えるほどピクリとも動かない。が、よく見ると胸が上下している気がする。マリちゃんが爆睡している時と同じ格好だ。初めて見た時はパニックになりそうだった。
「魔力をね、巡らせているんですよ。」
ウランさんがいつのまにか隣にいた。この人は生きてても幽霊っぽいな。
「今、いきなり現れたから驚いてるでしょ。」
図星を指された。
「あなたは私の物です。一種の同体なので気配を感じ辛いんですよ。魔力的な意味合いでですけど。」
いや、私魔力ほぼほぼ感じないんで変わんねっす。
「同体なら、どこにいるかとか逆に感じやすそうですけどね。」
「私は所有側なので、分かりますよ?」
え?ノンプライバシー?
「し、知られるのは不可抗力でしょうけれど、出来たら口に出さないで欲しいです。」
「承知しました。」
ふふっと笑われた。
いや、まだそんな大層な事してないけどね?
身は慎もう。一応。
こほんとひとつ咳払いする。
「ところで、あのマリスは熟睡しているのでは無いのですか?」
「寝ているのとは少し違いますね。肉体的な時間は停止していて、呼吸も脈も止まっています。魔力を使いすぎた時に空気中の魔力を積極的に体に取り入れる事で魔力の回復を図っているのです。あの状況になるのも、あの状況から回復するにも多少時間がかかるので野生ではあまり見られない行動ですね。」
あの結界は空気中の魔力を集めやすいように施しました。とウランさんは付け加えた。
「魔人や人間はしないんですか?」
「自然回復を早める方法ですからねぇ。魔人はうっかり取り入れすぎて暴発しかねないので普通しませんが、人間はする者もいるようです。瞑想とか呼吸法を組み合わせるので修練が必要だと聞いたことがあります。」
「ほんと、寝ているみたい。」
そう呟いて、戦慄した。
とても、恐ろしいことを思い出す。
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」
「あ、そうですか。すみません。大丈夫です。」
眩暈をなんとか押しとどめる。
「とても無防備な姿ですが、本人の意思が無いと出来ません。マリちゃんが心配ならよく言い聞かせればいいと思いますよ。あの子は賢いから。」
「そう、ですね。」
「…ほんとに顔色が良くない。いけませんね。」
いつもより若干ウランさんの顔の険しさが増す。そして、わたしをヒョイと抱き抱えた。
「今日は戻ります。後はお願いしますね。」
そう職員さんに告げる。
「あの、」
「吐きそうならそのままどうぞ。」
抱き抱えられると安心する。同体とはこういうことなのかも知れない。
顔を胸に埋めて呼吸を落ち着かせる。ウランさんの香り、いつも感じる香りがした。
気がつくとベッドに横になっていた。シャルさんとディナさんが側にいて、わたしはパジャマを着ていた。
「お加減はいかがですか?」
心配そうにシャルさんが尋ねる。
そうだ、酷い事を思いついて、それがその通りであった事を思い出した。
「すいません。まだちょっと…貧血だと思います。」
「貧血…?」
ディナさんは首をかしげる。
「寝てれば治るんですよ。心配おかけしてすみません。」
こちらでは貧血という概念はないのかも知れない。いや、シャルさんやディナさんみたいにちゃんと身体を鍛えてたら起きないのかも。
「「しばらくごゆっくりとお過ごしください。」」
何かあれば彼女らを呼ぶことができる鈴を枕元に置き、二人は部屋を出た。
ここの生活は暖かくて、平和で幸せだった。でも、このままではダメ。
この世界は都合が良くて優しい、けど、
ゲームのバッドエンドはなんだったか?
スチルはフルコンプしていない。
バッドエンドは見ていない。
けれど、エンドスチルの一番はじめの空白の題名は?
私は月子ちゃんも守りたい。
無能じゃ困るんだ。
無能じゃ、ダメなんだ。
ほんの少しの可能性に思いを馳せる。
この世界がこの世界になる前の世界で、最も優秀な研究者だった男。
彼に聞けば、何らかの方法を教えてくれるかも知れない。
前の世界では闇の国の研究所にいたはずだ。でも、それらしい人は居なかった。
でも、この世界にもきっと来ているはず。
そして、この世界に来る直前に私は彼に会っている。
3次元では決して攻略したくない隠しキャラクター、セレス。私をここへ投げ込んだ人。
彼を探さなくては。
今日はマリちゃんが成獣となる生後1ヶ月の誕生日。研究に協力するマリス達はこの誕生日に知能検査や健康検査をする。パスした場合、研究協力の同意をとって協力員として採用みたいな流れらしい。
マリちゃんは研究自体の協力はしない予定だけど、幼獣の時から圧倒的な知能の高さが見られたため、飼育員さん達から是非検査させて欲しいとの申し出を受けたのだ。場合によってはあの知育プログラムが取り入れられるみたい。
万感の思いである。マリちゃんが生まれつきかしこい子だっただけかも知れないけど。
マリちゃんを学校に預けてゲートをくぐる。いつも通り、測定場に行くといつも通りでない魔法陣が張ってあった。
中央にマリスが一匹、一瞬死んでるかのように見えるほどピクリとも動かない。が、よく見ると胸が上下している気がする。マリちゃんが爆睡している時と同じ格好だ。初めて見た時はパニックになりそうだった。
「魔力をね、巡らせているんですよ。」
ウランさんがいつのまにか隣にいた。この人は生きてても幽霊っぽいな。
「今、いきなり現れたから驚いてるでしょ。」
図星を指された。
「あなたは私の物です。一種の同体なので気配を感じ辛いんですよ。魔力的な意味合いでですけど。」
いや、私魔力ほぼほぼ感じないんで変わんねっす。
「同体なら、どこにいるかとか逆に感じやすそうですけどね。」
「私は所有側なので、分かりますよ?」
え?ノンプライバシー?
「し、知られるのは不可抗力でしょうけれど、出来たら口に出さないで欲しいです。」
「承知しました。」
ふふっと笑われた。
いや、まだそんな大層な事してないけどね?
身は慎もう。一応。
こほんとひとつ咳払いする。
「ところで、あのマリスは熟睡しているのでは無いのですか?」
「寝ているのとは少し違いますね。肉体的な時間は停止していて、呼吸も脈も止まっています。魔力を使いすぎた時に空気中の魔力を積極的に体に取り入れる事で魔力の回復を図っているのです。あの状況になるのも、あの状況から回復するにも多少時間がかかるので野生ではあまり見られない行動ですね。」
あの結界は空気中の魔力を集めやすいように施しました。とウランさんは付け加えた。
「魔人や人間はしないんですか?」
「自然回復を早める方法ですからねぇ。魔人はうっかり取り入れすぎて暴発しかねないので普通しませんが、人間はする者もいるようです。瞑想とか呼吸法を組み合わせるので修練が必要だと聞いたことがあります。」
「ほんと、寝ているみたい。」
そう呟いて、戦慄した。
とても、恐ろしいことを思い出す。
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」
「あ、そうですか。すみません。大丈夫です。」
眩暈をなんとか押しとどめる。
「とても無防備な姿ですが、本人の意思が無いと出来ません。マリちゃんが心配ならよく言い聞かせればいいと思いますよ。あの子は賢いから。」
「そう、ですね。」
「…ほんとに顔色が良くない。いけませんね。」
いつもより若干ウランさんの顔の険しさが増す。そして、わたしをヒョイと抱き抱えた。
「今日は戻ります。後はお願いしますね。」
そう職員さんに告げる。
「あの、」
「吐きそうならそのままどうぞ。」
抱き抱えられると安心する。同体とはこういうことなのかも知れない。
顔を胸に埋めて呼吸を落ち着かせる。ウランさんの香り、いつも感じる香りがした。
気がつくとベッドに横になっていた。シャルさんとディナさんが側にいて、わたしはパジャマを着ていた。
「お加減はいかがですか?」
心配そうにシャルさんが尋ねる。
そうだ、酷い事を思いついて、それがその通りであった事を思い出した。
「すいません。まだちょっと…貧血だと思います。」
「貧血…?」
ディナさんは首をかしげる。
「寝てれば治るんですよ。心配おかけしてすみません。」
こちらでは貧血という概念はないのかも知れない。いや、シャルさんやディナさんみたいにちゃんと身体を鍛えてたら起きないのかも。
「「しばらくごゆっくりとお過ごしください。」」
何かあれば彼女らを呼ぶことができる鈴を枕元に置き、二人は部屋を出た。
ここの生活は暖かくて、平和で幸せだった。でも、このままではダメ。
この世界は都合が良くて優しい、けど、
ゲームのバッドエンドはなんだったか?
スチルはフルコンプしていない。
バッドエンドは見ていない。
けれど、エンドスチルの一番はじめの空白の題名は?
私は月子ちゃんも守りたい。
無能じゃ困るんだ。
無能じゃ、ダメなんだ。
ほんの少しの可能性に思いを馳せる。
この世界がこの世界になる前の世界で、最も優秀な研究者だった男。
彼に聞けば、何らかの方法を教えてくれるかも知れない。
前の世界では闇の国の研究所にいたはずだ。でも、それらしい人は居なかった。
でも、この世界にもきっと来ているはず。
そして、この世界に来る直前に私は彼に会っている。
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彼を探さなくては。
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