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19 ぽつねんじん
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村に着いたのか荷台の揺れが止まった。
「せめて飯くらい食わしてやりたいんやけどな。出来るだけそのまま、水も飲ますなすぐ送れって言われてんねん。堪忍な」
サタナさんは済まなそうに私に手を合わせた。
なんだろう。水を飲むとお腹壊すとか?
そんなこんなで、すぐさまゲームで見たことのある転送円の施設?祭壇?に連れてこられた。
「転送円自体はどこの村のも変わらないねー」と言いながら、ジェード君は私のすぐ側に来た。そして、両手をキュッと繋がれた。
「約束忘れないでね?」
「約束?」
「仲良くしてね。と、教えあいっこ!」
「覚えてるよ。またね、ジェード君」
イケメンとモブ。普通セリフが逆だろう。
「ほな、行くでー」
転送円に白と黒の玉が並べられる。
そうだ、転送円には聖魔の結晶が必要で、探索に行くまで手に入らないんだった。
ジェード君が手を振って見送ってくれた。私が振り返すより前に景色はこの世界に来る前に通った巨大な地図の空間に浮かんだ。それも一瞬で変わり、次の瞬間には目の前に冷たい目をした美形が立っていた。
青緑に白メッシュの髪、感情が乏しく冷たい目。この人は闇の国の智将、ウランだ。
この人、生きている時からこんな雰囲気だったんだ。
「あ、あの」
声をかけたが、くるりとウランは背を向ける。
「貴重な結晶を使ってまで手元に急がせたんです。閉じ込めておいてください」
「は?」
一応女性のようだ、一応メイド服のようだ、という屈強な、見るからに筋肉むきむきのメイド(仮)2人に両脇を挟まれ、退室を促された。
「丁重に、お願いしますよ?」
後ろからそう声が聞こえてすぐ、扉は閉じられた。
驚きと成り行きについて行けず、なすがままに流され切ってしまった。
そして、なかなか豪華な部屋に、今一人。
メイド(仮)は「お寛ぎ下さい」と言って出て行ってしまった。
異界にて、状況が分からない女子高生が寛げる訳がない。
小さめの戸建と1DKのアパートに住んだことしかない三十路が天蓋付きのベッドがあるようなどえらい部屋で寛げる訳がない。
ピタピタのメイド服を無理やり着せるよりもっと何かあるだろうと思うのに代案が浮かばず寛げる訳がない。
かといって、前世を思い出して感傷に浸らずにはいられない程の心境でもない。状況に助けられてるとも言える。
「はー」
やっぱり、やるべき事からやらなきゃ落ち着かないわ。
都合よく紙とペンが棚の上にある。が、処分が大変そうなのでその横の飾り棚から小さな置物をテーブルに並べる。ガラスっぽい素材だけど、重くて丈夫そうな質感だ。大きさといい形といいちょうどいい。駒に使わせてもらう。
ゲーム通りならこの世界でも文書は日本語表記だ。迂闊なモノは残せない。机を地図に見立てて、覚えている街や主要な場所をプロットする。
私が前世でプレイした『隔たれし君を思う』というゲームは、プレーヤーがヒロイン月子として異世界を救うストーリーだ。高校生である月子が幼馴染の双子の兄弟大地、海里と共に異世界に飛ばされる所からゲームが始まる。あんまり覚えていないけれど、初っ端はクラスメートととの軽いやり取りがあったと思う。
つまり、私はそのクラスメートA子に生まれ変わっていたという訳だ。
ゲーム内の設定では、この世界はエネルギー過多により、もうすぐ破壊神である龍が現れ文明が滅ぶ。主人公であるヒロイン月子がそれを回避するとゲームクリアだけど、方法は三つ。
一つ目はノーマルエンディング。聖の力で魔の力を中和する方法である。ヒロインのレベルが一定で成立する。
二つ目はグッドエンディング。破壊神が出現する前に世界のエネルギーを掻き集め、光の国と闇の国を物理的に分断する。分断にエネルギーがほとんど使われる事と、分断する事で以後のエネルギーが発生しなくなり破壊神は二度と出現しなくなる。攻略対象九人の誰かと絆を深め必要イベントをこなし、ヒロインのレベルがある一定の時に成立する。
三つ目が大団円エンディング。破壊神を出現させ、それを世界のエネルギーで守護神にしてしまう荒技である。攻略対象全員と絆を深め、おまけにヒロインと攻略対象全員のレベルをマックスにする必要がある。
しかし、消去法で選べる道は狭まる。
ノーマルエンドは滅びの回避ではないし、大地君は現代に戻らない。
グッドエンディングは、個人的には全然グッドではない。光の国には聖人が、闇の国には魔人が住むが、その国と国の間には聖人や魔人を足したより多くの普通の人間が住む。その人間は資質とやらでそれぞれの国に振り分けられてしまう。生き別れ大発生。おまけにこちらでは電気やガスの代わりに聖の力だとか魔の力だとかがエネルギーとして使われている。なので、いきなりガスと電気が止まるのと同じ状態に陥る。『みんなでがんばろー』的にゲームではまとめられていたが、実際起きたらパニック映画のようになるはずだ。
そして、大団円エンディング。実は攻略サイトで条件を見て萎えてしまって実際にはプレイしていない。確か強くてニューゲームを数回やらないとレベルマックスにならなかったはず。つまり現実にはかなり難しいという事だ。
攻略対象は九人もいる。ヒロインが全員とラブラブにならなきゃ、私に未来は無い。
九つ置物を並べる。西に四つ東に四つ。間に一つ。イベントだらけだ。
さらに厳密にいえば、レベル上げと絆を深めるイベントだけではなく、相手勢力を奴隷化して力を中和すべしという強硬派を潰したり、魔力や聖力の結晶を集めたり、古文書の収集もある。
「せめて飯くらい食わしてやりたいんやけどな。出来るだけそのまま、水も飲ますなすぐ送れって言われてんねん。堪忍な」
サタナさんは済まなそうに私に手を合わせた。
なんだろう。水を飲むとお腹壊すとか?
そんなこんなで、すぐさまゲームで見たことのある転送円の施設?祭壇?に連れてこられた。
「転送円自体はどこの村のも変わらないねー」と言いながら、ジェード君は私のすぐ側に来た。そして、両手をキュッと繋がれた。
「約束忘れないでね?」
「約束?」
「仲良くしてね。と、教えあいっこ!」
「覚えてるよ。またね、ジェード君」
イケメンとモブ。普通セリフが逆だろう。
「ほな、行くでー」
転送円に白と黒の玉が並べられる。
そうだ、転送円には聖魔の結晶が必要で、探索に行くまで手に入らないんだった。
ジェード君が手を振って見送ってくれた。私が振り返すより前に景色はこの世界に来る前に通った巨大な地図の空間に浮かんだ。それも一瞬で変わり、次の瞬間には目の前に冷たい目をした美形が立っていた。
青緑に白メッシュの髪、感情が乏しく冷たい目。この人は闇の国の智将、ウランだ。
この人、生きている時からこんな雰囲気だったんだ。
「あ、あの」
声をかけたが、くるりとウランは背を向ける。
「貴重な結晶を使ってまで手元に急がせたんです。閉じ込めておいてください」
「は?」
一応女性のようだ、一応メイド服のようだ、という屈強な、見るからに筋肉むきむきのメイド(仮)2人に両脇を挟まれ、退室を促された。
「丁重に、お願いしますよ?」
後ろからそう声が聞こえてすぐ、扉は閉じられた。
驚きと成り行きについて行けず、なすがままに流され切ってしまった。
そして、なかなか豪華な部屋に、今一人。
メイド(仮)は「お寛ぎ下さい」と言って出て行ってしまった。
異界にて、状況が分からない女子高生が寛げる訳がない。
小さめの戸建と1DKのアパートに住んだことしかない三十路が天蓋付きのベッドがあるようなどえらい部屋で寛げる訳がない。
ピタピタのメイド服を無理やり着せるよりもっと何かあるだろうと思うのに代案が浮かばず寛げる訳がない。
かといって、前世を思い出して感傷に浸らずにはいられない程の心境でもない。状況に助けられてるとも言える。
「はー」
やっぱり、やるべき事からやらなきゃ落ち着かないわ。
都合よく紙とペンが棚の上にある。が、処分が大変そうなのでその横の飾り棚から小さな置物をテーブルに並べる。ガラスっぽい素材だけど、重くて丈夫そうな質感だ。大きさといい形といいちょうどいい。駒に使わせてもらう。
ゲーム通りならこの世界でも文書は日本語表記だ。迂闊なモノは残せない。机を地図に見立てて、覚えている街や主要な場所をプロットする。
私が前世でプレイした『隔たれし君を思う』というゲームは、プレーヤーがヒロイン月子として異世界を救うストーリーだ。高校生である月子が幼馴染の双子の兄弟大地、海里と共に異世界に飛ばされる所からゲームが始まる。あんまり覚えていないけれど、初っ端はクラスメートととの軽いやり取りがあったと思う。
つまり、私はそのクラスメートA子に生まれ変わっていたという訳だ。
ゲーム内の設定では、この世界はエネルギー過多により、もうすぐ破壊神である龍が現れ文明が滅ぶ。主人公であるヒロイン月子がそれを回避するとゲームクリアだけど、方法は三つ。
一つ目はノーマルエンディング。聖の力で魔の力を中和する方法である。ヒロインのレベルが一定で成立する。
二つ目はグッドエンディング。破壊神が出現する前に世界のエネルギーを掻き集め、光の国と闇の国を物理的に分断する。分断にエネルギーがほとんど使われる事と、分断する事で以後のエネルギーが発生しなくなり破壊神は二度と出現しなくなる。攻略対象九人の誰かと絆を深め必要イベントをこなし、ヒロインのレベルがある一定の時に成立する。
三つ目が大団円エンディング。破壊神を出現させ、それを世界のエネルギーで守護神にしてしまう荒技である。攻略対象全員と絆を深め、おまけにヒロインと攻略対象全員のレベルをマックスにする必要がある。
しかし、消去法で選べる道は狭まる。
ノーマルエンドは滅びの回避ではないし、大地君は現代に戻らない。
グッドエンディングは、個人的には全然グッドではない。光の国には聖人が、闇の国には魔人が住むが、その国と国の間には聖人や魔人を足したより多くの普通の人間が住む。その人間は資質とやらでそれぞれの国に振り分けられてしまう。生き別れ大発生。おまけにこちらでは電気やガスの代わりに聖の力だとか魔の力だとかがエネルギーとして使われている。なので、いきなりガスと電気が止まるのと同じ状態に陥る。『みんなでがんばろー』的にゲームではまとめられていたが、実際起きたらパニック映画のようになるはずだ。
そして、大団円エンディング。実は攻略サイトで条件を見て萎えてしまって実際にはプレイしていない。確か強くてニューゲームを数回やらないとレベルマックスにならなかったはず。つまり現実にはかなり難しいという事だ。
攻略対象は九人もいる。ヒロインが全員とラブラブにならなきゃ、私に未来は無い。
九つ置物を並べる。西に四つ東に四つ。間に一つ。イベントだらけだ。
さらに厳密にいえば、レベル上げと絆を深めるイベントだけではなく、相手勢力を奴隷化して力を中和すべしという強硬派を潰したり、魔力や聖力の結晶を集めたり、古文書の収集もある。
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