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4 イケメン調伏

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 「じゃ、席外すねー」と月子ちゃんは去って行きました。

 そして、廊下には私とイケメン。周囲の視線が降り注ぐ。視線に攻撃力あったら、モブな私は即死だ。

「こっち」

 と源野弟は私を人気の無い方に促す。
 周囲の女子の目がカッ!と開かれる。視線に追撃装置が付いてたら即死だ。

「えっと。なんか周りの視線が気になったし、こんなとこでごめん」

 謝るイケメン。謝れるイケメン。しかも、周りの視線を察するあたり気遣いできてる風。
 でも、私独りきりになったら集中砲火に遭うこと間違いなし。

「それで話って何かな」
「月子のことなんだけど」

 月子ちゃん?

「あえて毎日三組に行ってたのは、本当は月子の事もあるんだ。中学ん時は月子がクラスの女子に絡まれてる事が結構あってさ」

 あえて?とな。ぐるりと頭の中で言葉を吟味した。

「月子ちゃん、可愛いもんねぇ?」
「あ、うん。君がそんな感じだからお願いするんだけど、可愛くてやっかまれるっていうより……」

 ちょっと困ったように微笑まれる。なんて説明しよーかなー、みたいな。
 あ、これ、自覚ありだわ。そういえば成績学年一位(仮)だもんね。おバカではないはず。まぁ、勉強のできるバカもいるっちゃいるけど。
 さて、後は天然鈍感か、腹黒系か。イケメンメガネで腹黒は美味しいけど、賢い腹黒なら、もうちょっと上手くイロイロ立ち回るよね。月子ちゃんの事も源野兄の事も。

「つまり、イケメンな幼馴染が二人もいるから利用しようとする子や意地悪する子がいたって事ね。でも、既に幼馴染ってのは知ってる人もいるし今更他人のフリもできない、と」

 源野弟は少し驚いたようにしながら、頷いた。

「まぁ、そんな意地悪な子のために月子ちゃんと距離置くのも馬鹿馬鹿しいとは思うよ。で、そんな輩から守ってあげて欲しいとか頼みたかったのかな?今のところそんな子はうちのクラスに居ない。でも、あんまり毎日来ると普通の子も月子ちゃんに話しかけづらいよ。単純に休み時間がとられるから、友達づくりの時間が減ってて、意地悪する子も仲いい子もいない」

 「ああ」と小さく呟いて俯きながら手を首の後ろに当てる源野弟。だからいちいちなんでそんなに絵になるんだ。

「そう、か。気づかなかった。ごめん」
「なんで私に謝るの」

 と、にぱっと笑ってみせた。いかにもの作り笑いを見せたけど、彼は案の定気づかず。やはり。

「守り方なんて人それぞれだから、今のは私のお節介だもん」
「いや、その通りだ」

 「有難いアドバイスだよ」と今度はさっきとは違った感じで困った風に彼は微笑んだ。
 源野弟は猪突猛進系の天然鈍感確定。後で私が女の子達に集中砲火にあう事も気づいてないと見た。

「じゃ、お節介ついでにもう一つ。源野兄の事なんだけど」
「兄?大地?」

 ありゃ、ついうっかり口が滑った。

「そう、大地くん。今ご両親がいらっしゃらないみたいだけど、染髪と夜に出歩くだけ?食事とかはどうしてるの?」
「染髪と夜に出歩くのが問題だと思うんだ。食事は一緒にとってるよ。むしろ前より一緒にとりたがってるし、他の事でも前より絡んでくる」
「ふうん。寂しがりの猫みたいね」
「猫?」
「私たち、なんだかんだでまだ15歳そこそこでしょ?寂しいんじゃないかな。私だったら両親が海外とか、旅行ですら落ち着かないよ。まして赴任でしょ?」
「大地が猫……」

 言いたいのはそこじゃありません。修正修正。

「海里くんもご両親いたら、あんなに大地くんに強く言わなかったんじゃない?」
「それは、まぁ、俺が保護者やらなきゃって」
「ご両親が保護者やれって言ったわけじゃないんだし、しなくて良くない?どうしても気になるならご両親に一言入れておけば、後は自立の練習でルームシェアしてるくらいの気持ちでやれば良いじゃん」
「ルームシェア?」
「そう!各々自立しているけど、協力もする!みたいな」

 「なるほどね」と答えた源野弟の表情はさっきより柔らかく見えた。

「うん、そっちの顔の方がいいね。月子ちゃんも心配してたみたいだったから、ちょっとこういう考え方もあるって思ってもらえたみたいで良かった」
「月子が?」
「じゃなきゃ、私をあの場に呼ばないでしょう?」

 月子ちゃんだって源野兄弟が良くも悪くも人目をひく事はわかってるはず。しかも男の子のプライベートな問題に、他人を打っ込もうと思うほどには悩んでたはずだ。

 この兄弟の緩衝材ポジションは月子ちゃん、大地君はそれを分かってやってる、海里君は月子ちゃんが好きだけど、月子ちゃんはそうでは無い……、あれ?私、なんでこんなにこの人達の事詳しいんだっけ?

 「そこまで考えてるかな?」と、首を傾げてたけど、「確かに両親にも、力抜けとはよく言われたな」と源野弟はもろもろ納得したようだった。
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