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134 残り時間も有意義に

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夕食は皆の都合が合わなかったのでお部屋で頂いた。予告無しでいきなり帰ってきたわけだし、ついでに明後日から祭りで皆様忙しい。

でも、マリちゃんと美味しいお料理に舌鼓を打つ、には少々具合が悪かった。

「ディナさん、良ければご一緒に?」

「そ、そんな訳にはっ参りませんっ!」

旅の間は一緒に食べてたし良いと思うんだけれど、そんなウルウルお目目でガン見されたら流石に気まずい。

食事の前、ディナさんに久しぶりに会った時に不義理を良く良く謝罪したけれど、

「えいこ様が戻られただけで本懐は遂げました!」

と泣かれてしまっていた。でも、どさくさに紛れてジェード君との事を聞いたらちゃんとはぐらかされた。
しかし、頬が染まっておるぞよ。

大丈夫と言うのにお風呂のお世話まで手伝ってくれる。髪色は変わってしまったけれど、髪質は前より良くなりましたねと驚かれて、そうでしょう?と自慢した。

お風呂から上がり、さて、寝るかと寝室戻るとディナさんがまたもや待機。

「あの?私夜中に逃げませんけど?」
「えいこ様。また私に黙ってらっしゃることがありますね?」

本気の目で、これは逃げ切れないと悟った。

明後日には元の世界に帰ること、それから、人々のから私の記憶が無くなることを説明した。
ずっと心配ばかりかけてきたから、エゴだとしても自分の口で説明できたのは良かった。

「……不躾は承知で申し上げますが、こちらに留まって頂くわけには参りませんか?」
「ごめんなさい。残る方法が無いんです。」

透け始めた両手を光にかざして見せると、ディナさんは息を飲んだ。

「では、せめて、私はえいこ様の事は忘れません!」

真っ青になって興奮したディナさんを、マリちゃんと二人で宥める。
予想以上に取り乱されて、困ってしまった。

「紙に記録してでも思い出せるようにしておきます!えいこ様だって、そんなのお辛いでしょう?!」

とうとう怒りの矛先がこちらにまで及んだ。それは面倒というより、怒れない自分の代わり怒ってくれているようで嬉しく感じた。

「じゃあ、忘れないでください。私やマリちゃんの事、覚えておいてください。」
「ママ?」
「サンサンも記憶は残ってた。もしかしたら、大団円への邪魔にならなければ、記憶はわざわざ消されないかもしれない。」

ディナさんはゲームに出てこないモブだ。わざわざ干渉すべきキャラでは無い。

「だけど、皆、ウランさんやテルラさんやジェード君も皆、私達を忘れてしまいます。その時に決して私の事を話さないでください。彼らに知らせる事を避けようと、下手したらディナさんに危害が加えられます。良くても記憶が抜かれる事になるでしょう。それを守れますか?」
「守ります。えいこ様が、誰からも忘れ去られる事と比べたら、不本意ですけれど耐えてみせます。」

強く宣言してくれて、私はディナさんに微笑んだ。私達の事を覚えていてくれるのは、正直嬉しい。もし忘れてしまったとしても、その気持ちが嬉しかった。

ディナさんもパジャマに着替えさせて、シャルさんを拉致しに出かける。明日はやる事がいっぱいだ。だけど、パジャマパーティーより優先させる事は無い。旅の思い出や私がいなかった時の話、もちろんディナさんとジェード君の話も聞き出した。

明日寝坊したら、ウランさんに謝らないと……そう言いながら、三人で広いベットで夜を明かした。


「それで、そのお顔ですか?」
「すみません。」

寝坊こそしなかったけれど、流石に眠たい。シャルさんとディナさんはちゃんと起きてちゃんとお仕事している。日頃の鍛え方が違った。ウランさんに夜は近しい者達で食事会だと知らされる。目の下のクマは諦めるとして、どっかでお昼寝はしないとやばいかもしれない。主賓爆睡はダメだ。

朝はモートンさんの所で記録作業をした。この世界の成り立ち、目的、それから、何度か繰り返されている事実。私が協力者である事も話した。モートンさんは責める事もなく書き記す。

「残りの触りがありそうな所をぼやかして起きましょうぞ。ご協力誠にありがたいの。」

午前中いっぱいを使って書き上げた書類は膨大で、モートンさんの有能さに舌を巻く。なんか、寝不足ぼやぼやですみません。

午後はシーマの時にお世話になった人達へのご挨拶や研究所に顔を出す。アポイントメントは昨日のうちにとりました。

約束の時間まで、と鍛錬場の木の上でお昼寝をした。魔法でタイマーをかけて、よし。
うとうととしていると、同じ木に同じ目的と思われる人が昼寝を始めた。何も同じ木にしなくとも、と思って目を開けると、どん。大地君の寝顔ドアップ。

仰け反って落ちるかと思ったら、素早く起きた大地君に抱えられる。

「あっぶねぇな。何してんだよ?」

いや、明らかにそれは私のセリフ。

「大地君こそ、こんな所で何してるの?」
「仕事、一段落させたから昼寝。昨日寝てない。」

お疲れ様です。実質の王陛下。
それじゃあ、お邪魔だろうとお暇しようとして、むんずと掴まれる。

「なんで逃げんだよ。えいこサンが戻ってきたっつうから、急いで仕事上げたんじゃねーか。」

「そそそそそれは申し訳ない。」

後ろから羽交い締めのように抱かれて、挙動が不審になる。近いよ。相変わらず、近い。

「じゃあ、償ってもらおうじゃねーか。」

予想通りというか、案の定と言うか膝枕を謹呈することになった。

目を閉じて眠る大地くんの髪を撫でながら、私も気にもたれてうとうとする。風がまだ少し冷たいはずなのに、日差しが暖かで丁度いい。

「なぁ、えいこサン。もし、この世界に来なかったらどうなってたと思う?」
「ん…?どうだろう?」

あれ、寝てたんじゃないの?と思いながらこちらは半分夢うつつ。

「俺らは普通の高校生やってたわけだよな。普通に授業受けて、遊んで、普通に恋愛して。大学行って、就職して。まぁ、魔法で魔獣なぎ倒したりはしてないだろうな。」

半分眠っているせいか、リアルな想像が浮かぶ。とりあえず、女子にキャーキャー言われている大地君と私の接点はそう多くなさそうだ。

「そうだ、ねぇ。この世界にはパラレルな世界があるらしいから、そこではそんな事もあるかも、ねぇ。」

「パラレルワールド、か…その世界の俺に一言言いたいぜ。」

もぅ、眠くて眠くてダメだ。ふいに足の重しが無くなって、近くに大地君の気配を感じて、私は


寝てた。


はっと起きるも、すでに大地君はいない。目覚まし魔法が鳴っていて、慌てて先方に向かった。

シーマは帰った説が公式では出されていたけれど、侍女えいこが出かけてからシーマが表に出て来ないは、侍女が行方不明のタイミングでシーマが不自然に帰ったりするとかはで、とどのつまりふんわりバレてしまっていた。
騙してしまってごめんなさい。の謝罪を受け入れてくれた人は半分、受け入れてもらえなかった人が半分、と言う感じだった。受け入れてくれない半分の側も、怒り狂っているのではなくて、『王室が嘘をついた』事を軽く扱ってはいけないと言う立場だと説明された。しかも、そちら側の筆頭はジークさん。はい、ごもっともです。すみません。

民主的な視点が生まれているのは良いことのようにも思うし、今の段階ではウランさん達も忙しいわけだな、とも思う。
だけど、新しい世界では必要な感覚だろう。

謝罪や挨拶以外にも、研究所や図書室とかぐるっと見て回った。既に懐かしい、と思える場所と人達。初めて会う人には怪訝な顔をされて、時間の経過も感じる。特に何かあった覚えの無い場所で切なさを感じて、無くした記憶達にさよならを告げた。

夕食会に備えて、早々に部屋に戻った。目の隈を多少誤魔化すためにも化粧を施す。それから、かなり薄くなってきた手先にも。透明とまではいかないから、手の甲と指、それから、爪。外側をカバーするだけでだいぶ違う。内側は食器に触れて着色してはいけないから無しだ。ディナさんに手伝ってもらって、服にはつかないようにしながら着色した。

「えいこサン?いらっしゃいますか?」

大体終わったところで、ウランさんが部屋にやってきた。

「ようやく少し時間ができましたので、ご機嫌伺いに。」

手を取り、口をつける真似のご挨拶をされ、冷やっとした。

「化粧に、爪も彩られたのですね……。若い方は少し離れた間に成長される。」
「似合いますか?」
「はい、とても。」

手は離されずに、そのままだ。じっと見つめられる表情から、もしやと思う。

「お帰りになるのですね?」

やっぱり。ディナさんの動揺から推察した的な?

「はい。やはりバレちゃいましたか。」
「私の証が知らせています。だからと言って今何が出来ると言う訳ではありませんが……。私は職務を第一としてきました。それに後悔はありません。ただ、ただあなたを愛している、愛していたと伝わっていましたか?」
「はい。とても嬉しかったです。応えることはできませんが、ありがとうございました。」

手が引かれて、抱きしめられる。ですよね。

「……この想いを、ありがとうございました。愛しい、愛しいただ一人の方。」

ぎゅっと力が込められて、それから解放された。
離した後は、拍子抜けするほどに普通だった。いきなりお仕事モード。夕食会の開始時間とメンバーの説明。そして、穏やかな別れ。いや、これから夕食会で会うんですけども。

ディナさんも訝しんでいて、ウランさんを追いかけて行った。ウランさん、壊れちゃいないよね。




「ご主人様、お待ちください!」

えいこ様の部屋の前の廊下を曲がった辺りで、ようやく主人を捕まえた。主人のえいこ様への執着心を知っている身からすれば、あの反応は明らかにおかしい。

「ディナ?どうかしましたか?」

振り返った主人は至って普通で、冷静だ。

「ご様子がおかしかったので。いえ、おかしくないのですが、だからこそおかしいと思いまして……」
「おかしい、ですか。そうでしょうね。最愛が世界から消えてしまうはずなのに、心の底から穏やかであるなんて不審でしょう。」
「何をお考えですか?」

この主人はえいこ様を閉じ込めておくつもりかもしれない。研究成果を駆使して、いつか帰るであろう最愛を留める準備をしていてもおかしくない。むしろ、準備をせずしてこの態度があり得ない。自分は下僕だが、えいこ様が悲しまれる結果は最大限避けて差し上げたい。

「えいこサンはあちらの世界にマリちゃんを連れて行くつもりです。おそらく、自分の子として転生させたいと考えているのでしょう。」
「はい。」

まさかマリちゃんに何かを……?!

「マリちゃんには父親が必要です。」
「はい?」
「まさか、いきなり受胎するのはあちらでもあり得ないことでしょう。」
「え、ええ。そうですね。過去の来訪者の記録でもそのようだったかと思います。」
「だから、私は自力であちらに行きます。」

じ、自力?

「そもそも、向こうからこちらへはそのまま来れるのに、逆が無理である理由がありません。やる事やり終えたら、私、引退して研究所に籠るんです。いやぁ、目標があった方がやりがいがあっていいですよねぇ。」
ふふっと笑う主人の目を見て確信した。ご主人様は本気だ。
この人のえいこ様へのパワーがあれば記憶なんか無くなっても願いを叶えそうだ、と下僕は思うわけでした。
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