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131 約束

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一瞬何を言っているか分からなかった。

「え?」
「このゲームの中枢をクラッキングした。」

クラッキング?不正アクセスのこと?

「秋穂、お前の受けるべき業の残量はゼロだ。プログラムからのお前への攻撃は今後行われない。」

業。世界の歪みから生じるマイナスのパワーだ。それが、ゼロ?

「そんなはずは無いよ?だって私、今回、このニューゲーム、全然苦労してない。辛かったことなんてほとんど無かったよ。なのに…。」

多少脅されたり怖い目には遭った。だけど無くした記憶の中の経験はそんなものでは無かったはずだ。それなのに残量がゼロ?あり得ない。あり得ないのにあったとすれば…

「セレス。あなた何をしたの?」

プログラム中枢に不正アクセスを働いたのはいつか。導かれる答えは一つしかない。

「今回のニューゲームの前にプログラム、いじったのね?」

Dは、セレスは答えない。

「なんで?」

業に残量があると分かるところまでハッキングして、何もしないなんて彼の性格からは考えられない。歪みをゼロにする事は流石に無理だろう。だけど、私が初めにやったのと同じように、ソレが向かう先を変える事は可能なはずだ。私がした方法と同じなら、他人に矛先を向ける事は出来ない。

「セレス、あなた、バカだよ。」
「だろうな。ここまで来て余計なことを言ってしまった。」

すごく綺麗な顔で、すごく自然に微笑まれて、自分の愚鈍さを呪った。業はセレスに向かっていたのか。

「泣かせるために話したんじゃない。最後のピースを一緒にはめるために話したんだ。」

セレスの手がそっと横から回されて、私の頭を撫でる。

「大団円への条件が全て揃えば、残された時間はそれほど無い。お前を阻むものは無いから、後は心置きなく過ごせ。」
「そんなの、セレスを放ってはいけない。」

目が軽く閉じられて開かれる。安心させるように笑われて、私の髪が梳かれる。

「俺の願いは叶った。それに、そのために前回はわざと失敗させたようなものだ。詫びだと思え。」
「わざと?」

前回…ベルが言っていた言葉を思い出した。私が自殺した時だ。
「約束を破って悪かった。だが、今度こそ『月子を守る』と誓う。お前に、アキホに誓う。俺にとってのお前の存在そのものがこの誓いの証だ」

 証が私?セレスにとって私って……
 誓いの言葉には魔力が込められていた。同時に、カシャン、と音がした気がした。私の中の何かが動き出したのが分かる。最後のピースが、はまった。大団円エンディングの準備が、全て整った。

戸惑う私の耳の裏を撫でるようにしながら手が離されて、そのまま抱き上げられた。

「セレス。具合悪いんじゃ…。」

どこに連れていかれるのかと思ったけれど、すぐに降ろされた。

「…カークの奴、俺へのはなむけのつもりらしい。こういう姿をいつかは見てみたいと思っていたが……。」

じっと見られて、何か言わなきゃと思っても言葉が紡ぎだせない。

「セレス…。」
「お前は、いい女だ。……流石に気を回してくれたナツでも心配するだろう。もう行け。」

とん、と押されるとすでに転送円の中にいた。

「待って、セレスの願いって……?」

「お前にもう一度会うことだった。叶ったろ?」

次の瞬間には、もう外に飛ばされていた。

「ア……ママ?どうしたの?」

問いには答えずに戻ろうとしたけれど、転送円はいつもと違う色に変わり動かなかった。

「既にあちら側の転送円が消されたようですね。私にどうやって光の国へ戻れというのか。」
「そんな。戻らなきゃ。」
「やめとき。」
「でも私、Dに話す事が……」
「話して何になるんや?」

ナツが切なそうな辛そうな顔で聞いた。

「えいこサンはもうすぐ帰るんやろ。連れてってやれへんのやったら、これ以上の情はかけたんなや。アイツは納得しとんねん。」

でも、とかだってとか言いたいけれど、その先が続かない。そこまでさせるほどの過去を私は知らない。私は、セレスにそこまでさせたアキホとは違う。

呆然と暗くなった転送円を見つめながら、そういえばもうアキと呼ばれる必要もなくなった事にも気がついた。
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