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130 dayan D 解散

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「ごめん。ありがとう。」

慌てて目を擦るとハンカチを渡された。有り難く使わさせてもらう。

「それから、お前が気にしている他人とやらに対して償う必要は無い。」
「なんで?」
「既に償っているからだ。」

言われてハテナが飛ぶ。

「お前の存在で生じた災いは全てお前が受け取っている。あとは大団円さえ成立させればそれで終わりだろう?」

確かに大団円エンディングを迎えた後はゲームと同じで、めでたしめでたしになる。全てのゴールがそれに繋がっていく運命を感じた。


その後、ハルナツフユとカークに告白した。どのような反応でも受け入れるつもりだったけれど、全てはDの言う通りだった。

「苦しみ…ですか。生憎そのような目に遭った覚えはございませんが?」

フユは小首を傾げてハルもウンウンと同調する。

「今回だけじゃなくて、記憶の無い昔も含めて、だよ。ハルはβ種だったり、死にかけたりしたでしょう?」

「記憶の無い時の事は分かりませんが、感情は残ると言うお話ですよね?でしたら、それにも関わらず今も我が君のお側に控えている事が答えかと。お召しいただけた事が全てを超越する喜びでございます。」
「アキ!さいおうが馬だよ!今の僕は幸せだもん!」

ニコニコ答えられて、ナツを見た。ナツは顎にてをやりつつ苦笑いだ。

「ま、そう言うこっちゃ。今ここでハイサイナラされた方が傷つくわ。」

有り難さと申し訳なさで感極まりそうになる、そこに明るい声が響く。

「あたしは別契約だから関係ないもーん。ここ超楽快適だからそれで良くない?」

そう言いながら、巨大すあま風の何かを頬張っていて思わず笑ってしまった。

それから数日は何事もなく過ごした。最後のピースを探さなくてはならないのは重々承知していたけれど、例によって例のごとく私がダウン。精神疲労か記憶が戻った影響か。多分両方。
Dはまたどこかに出かけて、ナツフユは修行に勤しむ。カークとハルとのんびりとした時間を過ごした。
のんびり過ごしながらも、私が探しているピースについては考える。残りのピースは、近くに無いのでは無いか。だとしたらどこだ。思い当たる場所が一つだけある。

ゲーム開始の条件に揃ってない出来事。それはサンサンが生きていると言う事。何かトラブルがあるかもしれない。それなら、私はあそこに戻らなくてはならない。

体調が戻り、Dも帰ってきて、私は闇の国に戻ろうかと思っている事を相談しようと思った。その私を遮って、リビングにいる皆に向かってDは決定事項を告げた。それは、ダヤンの解散であり、この家を取り潰すという事だった。

「アキが帰り、聖女が現れた時に記憶は一部消される。だが完璧に消え去るわけではなく、聖女をエンディングに導くヒント程度には残されるだろう。」

Dの言葉に皆は初めから思うところがあったのか、静かに聞いていた。

「ヒントのみならば良いが、この家を見つけられ、下手に過去が暴かれる事態は避けるべきだ。聖女御一行には大団円に向かって邁進してもらいたい。だから、ここは更地に戻す。ダヤンの技術もそれぞれの国の研究所にくれてやる。その方が今後何かと都合も良いだろう。」

Dは個人資産も街に住むところもある。どうしても残したい研究機器は既に別の場所に移したそうだ。

「えらい急やけど、アキは聞いてたんか?」
「ううん。でも、私も闇の国に戻ろうかと思っていたところだから。」
「それは好都合だ。」

でも、本当に急だ。何かあったのでは無いかと勘ぐってしまうほどに。見た限りDは通常営業で淡々としている。

「3日後には出て行ってもらう。」
「ちょ、マジ早いわ。」

あまりにも早い期限にナツはここぞとばかりに突っ込んだ。

「悪いがこちらにも都合がある。聖女が来る時までに体力を回復させておきたい。」
「どういう意味ですか?」
「アキとの契約を解除する。そのダメージを試算したが、それなりのペナルティになりそうだ。」

フユの問いにDが答えて、ナツは反応した。

「…主従契約、解除できるんか?それ、使令もできるか?」
「不可能では無いだろうが、ダメージを考えると現実的では無いな。」
「ナツ…。」
「いや、分かっとる。大団円の方優先や。」

ナツの一刻も早い解放を願う気持ちは分かるけれど、ダメージが大きいなら今はできない。守護神を創造した後ならその神に頼んだ方が早い。

「じゃあ、これからはD抜きで頑張らなきゃだね!僕頑張る!」
「私はいかがいたしましょう?」

フユは真剣な面差しで私に伺いを立てているが、右手はハルをヨシヨシマフマフしている。いや、おかしいでしょ。確かにハル可愛いけど。

「えっと、そうだね。まずは光の国の方に一度顔を出してきてくれる?行方不明のままゲーム突入は良くないだろうし。」
「…プリンとババロアとガトーショコラと…食べ納めのオススメって、あと何かある?」

カークの心残りはスイーツ限定だけかもしれない。

カークとストラスはどうしてもの必要がない限り動かさない方がいい。堂々と連れて行くと触りがある。山のみんなにもお別れに行った。

もう染髪める必要はないけれど、痛みがあるからとカークには最後にトリートメントのスペシャルケアをしてもらった。スイーツのお礼だとか。

「前に話していたカークの願いって聞いてもいい?」
「良いわよ。」

手は止めずにさらりとカークは答えた。

「あたしね、人間になりたいなーって。」
「え?人間?人間になって、そんなにスイーツ食べたら具合悪くなるよ?」

びっくりする私にカークはおほほと笑う。

「よねぇ。でも、ここであんた達と過ごして有限の命もいいなって。ほら、あたしってば、全てが完璧じゃない?だから逆に本気になることなんて無くてさ。」

無限の命。それはいつも置いていかれる側でやはり寂しいものなのかもしれない。

「できた!会心の出来だわ!」

髪も化粧も施され、ついでにとても可愛い服まで着せられた。ダヤンとして動いていた時は動きやすい服に黒フードだったし、かなり新鮮だ。鏡の前でくるくる回ると、思わず笑んでしまう。

「いいわぁ。可愛いわよ。素材は悪かないもんねぇ。」
「もう、ちんちくりんじゃない?」
「ちんちくりんはちんちくりんね。でもそれがあんたの良いとこよ!」

両肩をバシッと叩かれたと思ったらそのまま抱き寄せられた。

「ほんとに持っていきたいくらい可愛いわ。でもこれはあいつへのお礼だしねぇ。これくらいは良いでしょ。」

ギュッとハグされた後、ほっぺにちゅっとキスされた。

「カーク?」
「……、いつか私が人間になって貴女の魂に会う時を楽しみにしてるわ。それまではあんたに近づけないし。」
「そうなの?」
「だって、ここを出ちゃったら、あたしまた人の血への渇望抑えられなくなるはずだもん。好みの女を前にして止められるわけないでしょ。」
「は?」

「じゃあね。」

カークはそう言って部屋を出て行った。カークとはそれきりだった。


「カーク、天才だったんだね。」

ほうぅ、とため息をつくハルの目はハートだ。

「せやな。」「こればかりは異論はありません。」

ナツとフユは多少のリップサービスは込みかもしれない。

「では、契約の解除を済ませる。」
「ほな、俺らは先行くわ。」

そう言ってナツはハルとフユを引きずるように転送円に引っ張って行った。

「ほな、Dの旦那、また!」

慌ただしく三人は行ってしまった。ハルは手をブンブン振らながら消えたが、フユに至って別れを惜しむ情緒皆無だ。記憶なくなってからまた会うわけだけど。

「解除するぞ?」
「お願いします。」

私とDを繋いでいた機械は取り外され、私の耳朶にDの手が触れる。昔防御魔法がペリペリと剥がれた時と近い感覚があって、Dとの繋がりが、途切れた。

ぐらり、とよろけるDを支える。

「大丈夫?」
「問題ない、と言いたいところだが、流石にきついな。」

その場に座らせて、壁にもたれさせる。このまま放ってはいけないでしょ。

「いくらなんでも、少し回復するまで一緒にいようか?」
「いや…いい。新居には3号が待っている。ハルとフユの家事スキルを落とし込んだから大丈夫だ。」

それは心強い。私にその依頼が来なかったのが少しだけ引っかかるけど。

「だが、そうだな。水を一杯だけもらおうか。」

台所に水を取りに行く。コップは1つ残されていた。家具も多くはそのままだけれど人の気配が一切しない。私達のこの家がとても広く感じられた。

「はい、お水。」
「ああ。」

少しずつ口をつけるDを見つめた。本当に彼にはお世話になりっぱなしだった。

「ねぇ、セレス。今まで、ずっと、ずっとありがとう。闇の国で最後のピース探し出してみせるよ。」

Dの手が止まった。そして、目を閉じたまま口が動く。

「最後のピースは俺が持っている。」




※後書き
セレスあったかも展開18禁を別枠で投稿しました。よろしければご覧ください。
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